第43話 未知との遭遇(3)


「……なんで」

「何でって、当然でしょ!?」


 星野の左頬に、ビンタした雛の手の痕がついている。


「い、いきなりあんなことして!!」

「あんなことって……ヒナがいけないんだよ!? あんなにじっと見つめられたら、そうなるじゃん!? 可愛すぎて、美味しそうだなって……舐めたくなっちゃったんだもん」

「な……舐めたくなったとか言うな!! 変態!!」


 雛は真剣に考えていたのに、いきなりキス……しかも、唇をぺろりと舐められたので、パニックになっていた。

 パーンと綺麗な音が響いていたが、花火の音に混じって、誰もそれがビンタされている音だとは思わないだろう。


(まったく……油断も隙もあったもんじゃないんだから!)


「ひどいなぁ……いいじゃん、せっかく会えたんだし、僕がこんなにもヒナを愛してるのに————何でダメなの? 僕のこと嫌いなの?」


 しゅんと肩を落としている星野があまりに可哀想に思えて、雛は罪悪感を感じる。


「嫌いじゃ、ないけど……」

「じゃぁ、好き?」

「だ、だから……そういうことじゃなくて……やっぱり、わからないのよ」

「わからない?」

「私、その、誰かを好きになるとか、愛してるとか、そういうのが本当にこれでいいのか……なんというか、知らない世界の話だから、自分が変になっちゃうみたいで、怖いの」


 生まれつきの怪力な上、家族が格闘家という家庭に育ってしまったせいで怖いと避けられていた雛には、そもそも男子が近寄らないため、ずっと恋とか愛とかそういうのは無縁だったのだ。

 憧れはあったけど、友達すらいなくて、そんな機会がなかったのだから……


「こんなに、好きだって、可愛いって言ってくれる人……星野くんが初めてだから————」

「初めて……? 本当に?」


 星野は信じられなくて、目が飛び出るんじゃないかというくらいに驚いていた。


「こんなに可愛いのに、どうして? 地球の男って、見る目なさすぎるよ!!」

「だ、だから……そういうの…………恥ずかしいんだってばっ!! なんかその、ムズムズするからやめて」

「そんなこと言ったって……ヒナが可愛いせいだから、仕方ないじゃないか! ねぇ、やっぱりこんなヒナの魅力がわからないような男しかいない地球なんてやめて、アノ星に行こうよ! あ、でも、そうなると、ヒナが可愛すぎるから他の男たちに狙われちゃうのか……?」

「いや、それはないって……」

「ありえるよ! ヒナ可愛いもん」

「だから……可愛いって言わないでってば」


 二人がこんな会話を繰り返してる間にも、花火は上がっている。

 会場に集まっている大勢の人々は、赤や緑、ピンクなど様々な光を放つ花火の上がっている方角を見上げているため、誰もその反対側空を浮遊して行った謎の飛行物体には気がついていなかった。


「無理だよ。可愛すぎるヒナが悪い」


 星野は、さっきビンタをお見舞いされたばかりなのに耐えきれず、ぎゅーっと雛を抱きしめると、雛の尻に手を伸ばす。


「ちょ、やだ……!」


(こんなところで何する気!?)


「はぁ久しぶりのこの感触……やっぱり最高」

「やめ……て」


(ああ、どうしよう、また来た————!!)


 耳元で吐息混じりにそう囁かれて、雛の心臓は本当に爆発しそうなくらいドキドキが止まらなくなっていた。

 体中の血液が沸騰してるみたいで、クラクラして、抵抗したくても力が入らない。


「————あ、雛もしかして、発情してる? すっごい体が熱いよ」

「は、発情とか言うなぁぁぁ!!」

「もう、わかったから落ち着いて。一応、ここ外だし、僕の部屋で続きしようか? 大丈夫、何も怖くないよ。優しくするから」


(や、優しくするって、何を!?)


 星野の発言で、余計にドキドキが止まらない雛。


「ほら、雛、立てる?」

「う……うん……」


 星野に支えられながら、なんとかベンチから立ち上がった雛は、気を抜いたらぼーっとしてしまいそうなのを自分の頬を自分でパンと叩いて正気を取り戻そうと必死だった。

 このままでは、星野から出ているというアノ星の王族特有のフェロモンとやらに完全にやられてしまう。

 でも、繋いだ手は離さなかった。



 * * *



 前と違うところに停泊してあるという宇宙船O1。

 そこでもう少し話をしたら、雛は家に帰る予定だった。

 ところが————


「……あれ? 変だな? リポポポリポポ!」


 星野が何度、O1へ入るための合言葉を叫んでも、なんの反応もない。

 普通なら、透過装置が解除されて、宇宙船の姿が現れるはずなのに……


(あれ……? もしかして————)


「ねぇ、星野くん。ここに、ないんじゃないの?」

「え? そんなわけ……あ、あれ? 本当だ! なんで!?」


 そこは、気に囲まれた広い未開発の土地で、星野が停泊していた場所を触ってみるが、そこには何もない。


「あ、あれ……?」


 雛は、一本だけ他の木より離れた場所に立っている大きな木に、何か紙のようなものが貼り付けられていることに気がついて、指をさした。

 星野がそれを手に取ってみると、なんと、アノ星の文字で書かれたシッジーからの手紙である。


「なんて書いてあるの?」

「えーと……『王子へ。逢瀬をお楽しみのところ、申し訳ございません。緊急事態につき、一度、アノ星に帰らせていただきます。すぐに戻って来ますので、その間はお一人で頑張ってください。パスワードは王子の誕生日です。シッジーより』って、書いてある」





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