第七章 未知との遭遇

第41話 未知との遭遇(1)


 雛は震える手で通話ボタンをタップし、耳に当てる。


「もしもし……?」

『ヒナ!!』


(生きてた……)


「雛、あいつからなの? 本当に?」


 麗音が尋ねると、雛は何度もこくこくと頷いた後、麗音に背を向けた。


『よかった……やっと通じた』

「よかったって……一体なに、どうしてたのよ!?」


 久しぶりに聞いた星野の声に、ほっとしたのと同時に、怒りと涙がこみ上げてくる。

 何の連絡も、その生死すらわからなくて、心配していた分、感情が抑えられなかった。


『色々あって————それより、今、どこにいるの? 家にいる?』


 雛は泣きながら怒っていて、気づいていないが星野は走っているようだった。

 息が上がっているし、微かだが誰か人の話し声も混ざっている。


「え……いや、ここは————」

『今向かってるんだけ————……ど』



 花火大会に向かう人の中に、頭一つ飛び出るほど背が高い、やけにイケメンがいて、目があった。


「星野……くん?」

「ヒナ!!」


 星野は雛を見つけて、嬉しそうに駆け寄ると、麗音や多くの通行人が見ている前で、雛を抱きしめた。


「やっと会えた。ずっと会いたかったよ、ヒナ」


 あの日、二人がぶつかった、あの角で————




 ☆ ☆ ☆



 宇宙船O1————お椀を二つ重ねたような、その大きな宇宙船は宇宙を飛んでいた。


 どこからか出ている通信を妨害する電波の影響で、一部のシステムがダウンしてしまったのだ。

 そのせいで、外から見ると透明に見えるあの装置も使えない。


「やはり、まったく使えないというわけではないですが……長時間は難しいですね」


 このままでは、宇宙船の姿が見つかってしまう。

 夏休みに入ってから、割と頻繁に目の前にあるトンネルを利用する人が増えているのだ。

 一体何故なのかわからないが、とにかく危険であることに間違いないため、O1は地球から一番近い宇宙連盟に加入しているハカ星に急遽向かうことにした。

 ハカ星には宇宙船開発の技術者がたくさんいて、修理をするならそこが一番適している。


「ハカカハカカカカハ(ああ、これはダメですな)」


 O1の修理を担当することになったハカ星人の話によると、修理期間中は一切の通信が使えないという。

 王子とシッジーは仕方がなく修理を待つ間、ハカ星のホテルに滞在することになった。


「今が夏休みの期間で助かりましたね。もし学校があったら、何の連絡も取れないと心配した教師が嘘の住所を訪ねてくる……なんてこともあったかもしれなかったし、捜索願が出されたりしてしまうかもしれないですし」


 シッジーはホテルでめちゃくちゃ不機嫌そうな顔をしている王子に言った。


「でも、これじゃぁヒナにしばらく会えないじゃない。それに、連絡も取れないし……」


 地球から離れてしまったため、スマホもどきも使えないのだ。

 雛に何も言わずに地球を出ることになってしまったのが、残念でならない。


「候補が見つかるまで、地球から出るつもりなかったのに……まさかこんなことになるなんて————……早くヒナに会いたいなぁ」

「王子、まだ三日しか経ってませんよ?」

「だから何? 三日も会ってないなんて、僕には大問題なんだけど」


 雛が発情しているとわかってから、王子はますます雛にぞっこんになっていた。

 タカが外れたように、口を開ければ「ヒナが」「ヒナの」「ヒナと」「ヒナに」と、ヒナのことばかりで、しかも、雛本人は相変わらず逃げ回っているのだが、雛が来そうな場所をうろちょろして見つけては大喜びで抱きつきに行くのだ。

 シッジーはもう、これはもうストーカーってやつなんじゃないだろうかと思っていた。

 そういえば、今の王と王妃の馴れ初めを以前聞いたことがあったなぁとふと思い出す。


「……確か、毎日とても王様が情熱的に愛をお伝えになられて、王妃様の方が折れたんでしたっけ?」

「え? なにが?」

「いえ……なんでもないです」


 エイリも麗音に同じようなことをしていたらしいし、これはもう、そういう血筋なのかもしれない————と、呆れるしかない。


「早く地球に戻りたいよ……ヒナぁ」


 しかし、王子の願い虚しく、修理は予定の日数を大幅に遅れて宇宙船O1がハカ星から地球に戻れたのは、八月下旬のことだった。

 通信も完全に復活し、アノ星からのメッセージも一気に受信する。

 王子が地球について、すぐに宇宙船O1を飛び出して雛に会いに行った中、シッジーはそのメッセージを確認していた。

 そして————


「こ、これは……!! まさか、こんなことが!?」


 シッジーはある一通のメッセージを読んで、真っ青になる。


「せっかく、地球に戻れたというのに……そんな————」


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