第38話 都市伝説の男(5)
着陸した宇宙船の窓から顔を出したのは、ものすごく真面目そうな顔のゴリラに似た宇宙人だった。
「ヘイ! そこのキュートなガールズ!!」
しかし、青いスーツのような服を着たそのゴリラは、その真面目そうな顔と口調があまりにもミスマッチすぎた。
「オレら、宇宙警察! わかる? ポリ公ってやつだぜ!! イエーイ!!」
大きなフランスパンから顔を出したゴリラは、こちらの返事も待たず一方的に喋り続ける。
「ちょっと協力して欲しいんだけど、おーけーい?」
目の前のありえない光景に、麗音は驚きすぎて身動きが取れない。
体が完全に硬直している。
雛も大きく目を見開いて驚いていた。
宇宙人には色々いるとは聞いていたが、フランスパンから顔を出したゴリラだ。
しかもなんだかチャラい。
「この辺りで変なもの見てない? でっかい宇宙船みたいなやーつ! オレら目撃情報を追ってここまで来たんだけどさぁ……逮捕しちゃうぜー的なカンジで」
(なんだかよくわからないけど、関わっちゃいけない気がする)
雛はそんな気がして、固まっている麗音の手を取るとその場から逃げ出した。
トンネルを目指して一直線に駆ける。
「ヘイヘイ! どこ行くんだよガールズ!! ヘイヘイ!!」
(何がヘイヘイだ!! 怪しすぎるわ!!)
ところが、トンネルに入ろうとしたところでもう一人別の人間が現れる。
「おおおおお!!! こ、これは!! ついに見つけた!! UFOだ!!」
都市伝説の男である。
テレビで専門家として出演していたあの男だ。
男は実物を見たことにひどく感動し、写真や動画を撮りまくっていた。
「邪魔よ!! どいて!!! っていうか、逃げて!!」
「え!? 何言ってるんだ!! こんなにすごいものが目の前にあるのに……!!」
「ヘイヘイ! 逃げるなんて酷いぜガールズ!! オレらは捜査に協力をして欲しいだけだぜぇイ? テレビってやつの映像を確かめにだなぁ」
宇宙船から降りて、追いかけて来るゴリラ。
雛は抵抗する都市伝説の男を担ぎ上げると、麗音と一緒にとにかく逃げた。
「ちょ……なんなんだよ!! まだ写真が……!!」
「雛、どうして逃げるの!? 宇宙警察がどうのって……あれは何!? 本当に宇宙人なの!?」
「そうよ!! だから逃げるの!!」
(宇宙警察がどうとかは知らないけど、星野くんもシッジーもいない。どんな能力をもった宇宙人かわからないわ……!!)
「宇宙人の中には、人間の脳みそが好物なのもいるのよ!?」
(もし、あの宇宙人がそういうタイプの宇宙人だったら、私たち殺されるかもしれないわ!!)
「食べられたくないでしょ!?」
* * *
必死に逃げ回り、雛はエイリのところへ駆け込んだ。
エイリがいる宇宙船O3の場所は、麗音が通っている高校の近くだった。
最初はO1がある樹海の近くだったのだが、少しでも麗音のそばにいたいとエイリのわがままで人があまり来ない空き地に今はある。
「麗音さん!? どうして、ここが!!」
O1と同じく、透過装置が作動していたが監視カメラで麗音の姿を捉えた瞬間エイリの方から降りて来た。
「エイリくん!! 説明は後!! とにかく中に入れて!!」
「はぁ!? 何言ってるんだ、なんでお前のようなちんちくりんを入れなきゃいけない!! あぁ、麗音さんはどうぞこちらに……」
「ちょっと!!」
エイリは頬を紅潮させながらペコペコと麗音に頭を下げると、宇宙船の中へ入るよう促す。
麗音は突然現れた大きな宇宙船に唖然としていたが、流石にあの空飛ぶフランスパンとゴリラを見た後なのですぐに状況を理解した。
「エイリくんも宇宙人————って、ことか」
「え? あれ? 俺言いませんでしたっけ?」
「聞いてない…………ってか、詳しくは中で聞かせてもらうね。雛行こう」
「え、いや中に入るのは麗音さんだけで……」
「エイリくん、いいよね? お・ね・が・い」
「……はい、もちろんです!!」
麗音はエイリの気持ちに気づいている。
だからこそ、それを利用してわざと小首を傾げてあざとい表情をするとエイリはころっと態度を変える。
そうして、なんとか宇宙船O3の中に入った。
「————で、えーと、その方はどなたですか?」
中にいた執事に聞かれるまで、雛は都市伝説の男を担いでいたことをすっかり忘れていた。
都市伝説の男は、あまりにも抵抗するので途中で気を失わせていたのだが、運悪くそのタイミングで気がついて、船内の光景に感動している。
「ああ、忘れて————」
「うおおおお!! なんだこれは!! こんな機械見たことがないぞ!! まさか、UFOの内部か!?」
「…………」
雛は床に放り投げるように男を下ろし、もう一度気絶させて言った。
「執事さん、私たちフランスパン————宇宙警察っていうゴリラに追われてたんだけど、何か知ってる?」
「宇宙警察!?」
宇宙警察と聞いて、執事とエイリは顔を見合わせる。
(やっぱり、何か知ってるのね)
「それに、星野くんがどこにもいないの。宇宙船ごと消えたわ……」
「に、兄さんが!?」
エイリは真っ青な顔になった。
執事はとても残念そうな表情で雛に伝える。
「実は先ほどテレビで気候水の瓶と転送カプセルの映像を見まして……O1と連絡をしている最中でした。ところが、妨害電波が入ってできなかったんです」
エイリたちも、星野の行方を知らないのだ。
「もしかしたら、もう、宇宙警察に捕まっているかもしれません……」
(そ……そんな……!!)
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