第36話 都市伝説の男(3)
「雛!? もう夕飯よ!? どこに行くの!?」
「大変なのママ!! 星野くんに知らせないと!!」
雛は焦っていた。
もし宇宙船が見つかって、星野が宇宙人だということがバレてしまったら……
(捕まって、解剖とかされちゃうわ!! それは大変!!)
宇宙人が地球人に拘束でもされたら、解剖されるに違いない。
グレイと呼ばれているあの頭が大きく目が黒い宇宙人を解剖しているとされるモノクロの画像も番組では公開されていたのだ。
とにかく、あの場所にいるのは危険だと伝えたかったのだが、なぜか星野に連絡しても繋がらなかった。
そうなると、直接会いに行くしかない。
「星野くん!? あ、あのイケメンくん?」
「そう、そのイケメン!! とにかく、私急いでるから、じゃ!!」
「あ、ちょっと……もう暗いんだから気をつけるのよ!」
玄関を勢いよく飛び出して、雛は夜道を走る。
その時、ちょうど軽くランニングをしようと可愛らしいピンク色のジャージ姿で家を出たばかりの麗音とすれ違ったのだが、雛は全く気づいていなかった。
「……え、雛? こんな時間にあんなに急いでどこに……?」
そのまま、麗音も雛のあとを追いかける。
* * *
「な……なにこれ————」
宇宙船O1の停泊している場所は、あまり人が近づかない、幽霊が出ると恐れられている不気味なトンネルを抜けた先。
通行止めの古い看板はあるが、それも上からスプレーで落書きをされているような行政からも放置されているような場所だ。
だからこそ人目につかないだろうとそこにある。
ところが、雛がトンネルの前に着いた時、五人の高校生がいた。
「うへぇ……このトンネルだろう? 幽霊が出るって噂の」
「確かに怪しい雰囲気だけど、それにしては人多くないか?」
「ほら、あの動画で紹介してたからだろ? みんな考えることは同じだなぁ」
彼らは、ホラー系動画の視聴者。
夏休みということもあり、肝試しに来ていたのだ。
先ほどのテレビで流れていた映像を見て来たわけではない。
しかし、そのトンネルの向こうに、宇宙船O1がある。
透明に見える装置が働いているとはいえ、奥まで行かれたらかなり危険な状態だ。
(ど、どうしよう……これじゃぁトンネルの中に入れないじゃない……)
偶然居合わせた視聴者たちは、なんだか意気投合して盛り上がっている。
気づかれないように物陰から様子を伺っていると、全く逆の方向から声が聞こえて来た。
「はい、というわけで今回の企画は『検証!心霊トンネルに幽霊のふりした人間が立っていたら、人は逃げる?逃げない?』です!! 今から案内するトンネルには、幽霊が出ると噂の場所。それに見てください結構人がいます! 検証するにはもってこいですね」
カメラを持った男と白いワンピースに黒い長髪のカツラを被った男が、動画の撮影をしていたのだ。
夜ということもあって、雛が隠れていることにも気が付かず、撮影を続ける二人。
(生配信……ってわけじゃないわね)
雛はそっと二人に近づき、まずカメラの男の首の後ろを手刀でトンっと軽く突き気絶させる。
「えっ!? え!?」
幽霊役の男が何が起きたか把握する前に、同じく気絶させるとワンピースとカツラを剥ぎ取った。
「ごめんなさい。ちょっと借ります」
そうして、小さな雛には大きすぎるワンピースをもともと着ていた服の上から着る。
カツラもかぶり、肝試しに来ていた五人がスマホで撮影しながらトンネル内に入って行くのを確認すると、その後ろについて行く。
暗いトンネルであることを利用し、雛は程よいところでさっと彼らより前に移動。
驚異的な身体能力とその体の小ささから成せる行動だ。
トンネルの出口の前に立つと、長い髪で顔を隠し、口元だけ笑ってみせる。
「う……うわあああああああああああああ!!!」
「でたああああああああああああ!!!」
雛の姿を見た五人は幽霊だと勘違いし、悲鳴をあげて逃げていった。
なにも幽霊のふりをしなくても、そこには本当に幽霊がいたのだけど……
「二度と来るな! 全く!!」
ベーっと舌を出して、カツラとワンピースを脱ぐと、雛はトンネルを出る。
「星野くん……えーと、合言葉は————」
星野に教わった、宇宙船O1へ入るための合言葉を思い出し、雛は大きな声で叫んだ。
「リポポポリポポ!!」
発音も完璧。
これがアノ星でいうところの開けゴマのようなものである。
(あ、あれ?)
しかし、何も起こらない。
「リポポポリポポ!! リポポポリポポ!!」
やはり何も起こらない。
「な、なんで……?」
なんど叫んでも、宇宙船O1は姿を現さなかった。
「どういうこと!? ちょっと、開けてよ!! 星野くん!! シッジー!!」
なんども入ったことのある宇宙船O1。
そこにあるはずの宇宙船O1。
雛は透明に見えるだけならと、宇宙船O1の本体に触れようと手を伸ばした。
「え……うそ」
だが、何も触れることができない。
そこには本当に、何もなかったのだ。
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