第35話 都市伝説の男(2)


 地球は、宇宙連盟未加入の星である。

 宇宙人の存在をまだ認めていない————そもそも、宇宙開発も他の星に比べてはるかに劣っている発展途上の星だ。

 そんな星で、今、宇宙船が見つかっては大変。


 そもそも、宇宙連盟に加入している星の決まりで、発展途上の星に滞在する際はそれなりの許可と手続きが必要なのだ。

 嫁候補探しとはいえ、アノ星の王族が来ていることがバレたら宇宙警察に捕まる可能性は十分にある。

 そのため、宇宙船O1には外側から透明にしか見えない機能が携わっていると安心していたのだが————


「……うーん、一体何があったんでしょうか?」


 シッジーは首を傾げていた。

 最近、この人があまり来ないトンネルにやけに若者が来る。

 夏休みで学校がないからとも思ったが、夏にこんな怪しい場所に訪れる地球人の目的がわからなかった。

 人があまり寄り付かない場所であると判断して、このトンネルの前に宇宙船O1を停泊させていたが、別の場所に移動した方がいいのかもしれない。


「どうしたの? シッジー変な顔して」

「王子、それが……どうもおかしいのです」


 シッジーの見ていた監視カメラの映像と、周辺に近づいたものの人数が書かれたデータを王子は覗き込んだ。


「何これ……ここって、確か幽霊とかなんとかが出るからって、気味悪がってほとんど人が来ないんじゃなかった? どうして、こんなに?」

「そうなんですよ。ですからおかしいのです。誰もこない場所だからこそここに停泊させているんですが……夏になってから何だか訪れる人が増えたんですよね。それも、夜に————」


 王子もシッジーも、訳が分からず首をかしげる。

 実はアノ星には、肝試しの文化がないのだ。

 だからこそ、夏に心霊スポットに若者が来るとは知らなかった。


「夜なので、もちろん透過装置が作動しています。それでも、万が一出入りの際、見られでもしたら大変ですよね……」

「そうだね」


 二人がこの会話をしているちょうどその頃、テレビでは気候水の空瓶が放送されている。

 基本的に朝と昼の情報番組しか見ないシッジーが、ゴールデンタイムのこの時間にオカルト系の番組を見たり、ずーっと雛の画像や動画を見てニヤニヤしている王子がテレビを見ることもない。

 この二人には、何が起こっているか全くわかっていなかった。



 ☆ ☆ ☆



 一方、宇宙船O3では、エイリは夏休みの宿題に追われていた。

 エイリは授業が終わるとすぐに麗音のいる学校まで行ってしまい、出された宿題は全部執事に丸投げ。

 全く自分でやっていないことが担任にバレて、大量の夏休みの宿題を与えられたのだ。


「むむむむ……何でこんなになんとかの戦いがいっぱい出て来るんだ!?」


 特に社会の成績があまりにも悪かった。

 アノ星の歴史ならば、王族なのだから幼い頃から叩き込まれているが、さすがに地球のそれも日本の歴史なんてさっぱりである。


「こんなもの、なんの意味があるんだ。検索したらいくらでも出て来るというのに……なぜ書かせる?」

「エイリさん、文句ばっかり言ってないでさっさと終わらせてください。毎日毎日、一体どこをほっつき歩いてるんですか?」

「そ……そんなの、兄さんに相応しい候補を探しているに決まってるだろ?」


 明らかに動揺しているエイリ。

 本人は隠しているつもりだが、エイリが毎日毎日麗音の後を付け回していることを執事はわかっていた。

 ただ、その麗音のことは女性だと思っているが……


「本当ですか?」

「本当だ!! と、とにかく、俺はこの宿題をさっさと終わらせるから出て言ってくれ!! お前が部屋にいると思ったら集中できない!!」


 エイリの部屋から追い出された執事は、仕方がなく地球の娯楽でも楽しもうとテレビをつける。


「ん……? これは、気候水の瓶……?」


 画面に映ったのは気候水の空き瓶。

 気候水は地球に来る宇宙人なら持っていてもおかしくはない。

 しかし、問題はそれがこうして何も知らない地球人の手に渡り、テレビで放送されてしまっていることだ。


「これは……一体誰がこんなミスを……!?」


 空き瓶を不用意に捨てたのか、それとも、わざと渡したのか分からないが、この映像を宇宙警察が見つけてしまったらどうするのか……

 目的は様々であるが、少なくとも気候水を持ち込んだ生命体は自分たちが不法滞在している自覚がある。

 地球にあったらおかしなものは置いていかないのが暗黙の了解だ。

 とくに、ゴミは必ず持ち帰らないといけない。

 それを、なぜこの怪しげな地球人が手にしているのか……


『今年の春頃に目撃情報があった場所と同じなんだよね』


 それにUFOらしき何かが打ち上げられる瞬間の映像も流れてしまっている。

 正確な場所がどこか分からないが、執事にはその光に見覚えがあった。


「これ……輸送カプセルの光じゃ……?」


 宇宙船O3にも同じものが備え付けられている。

 しかし、執事もエイリも使用していない。

 そうなると、考えられるのは同じく地球にある宇宙船O1である。


「エイリさん、大変ですよ!!」

「な、なんだよ!! 出ていけって言っただろう!?」


 執事が慌ててエイリの部屋に戻ると、エイリは宿題をするふりをしながら麗音の画像を見てにやけていた。


「大変なんですよ!! ホシャ王子が宇宙警察に捕まるかもしれません!!」

「な……なんだって!?」



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