第六章 都市伝説の男

第34話 都市伝説の男(1)


『これは大変なことなんですよ』


 夏休みが始まってすぐのことだった。

 その特別番組では、真夏の最新都市伝説スペシャルとして超常現象やUFOなどの映像が放送されていた。

 それも一部は生放送という気合の入りっぷり。


 小鳥遊家のリビングで、父が真剣な眼差しでテレビを見ている後ろで雛も夕食の手伝いをしながら何気に見ていた。

 テレビというのは、ついつい流れていると見てしまう。


 最初は夏らしく、どこどこに幽霊がでやすいだとかそういう心霊系。

 その後、今回の目玉である企画の未確認飛行物体についての最新情報が流れた。


(UFOなら私、普通に乗ったことあるし……)


 UFOは本当にカメラに映るのか!?と、盛り上がっている出演者たちのリアクションを冷めた目で見てしまう雛。

 雛からしたら、UFOは普通に存在しているし、なんなら宇宙人だって普通にいる。

 むしろ、その宇宙人に求婚されて困っているくらいだ。

 今は夏休みで学校がないため、会うことが少ないのがせめてもの救いである。


(何が、運命の相手よ! 発情してる——とか、意味がわからないし)


 雛の体がチェジ星人に乗っ取られそうになってからというもの、星野からは遠慮というものがなくなった。

 もうこれは運命だからと、学校でもどこでも隙あらば雛にくっついて、雛を発情させようと必死なのだ。

 もちろん雛は全力で逃げていたが、もう完全に学校内のお騒がせ名物カップルとされてしまっている。

 それに、去年一緒に海や夏祭りに行ったクラスメイトたちからも、「今年は彼氏とすごすんでしょ?」「私らと行かなくても、星野くんがいるじゃん」と言われてしまった。


 力が強いことを隠し、普通の女子高生としての青春を謳歌するのが目標だったのに、星野のせいで雛の夢はくずれさったのだ。


(何が彼氏よ! あんなの、ただの変態ストーカーよ!!)


 ものすごい勢いでキャベツの千切りをする雛。

 星野のことを考えるだけでイライラする。


(あんなストーカーに、発情なんてするもんですか!! 確かに、星野くんはイケメンだし優しいけど……宇宙人だし。きっと、あの時、体がおかしくなったのは、モドレーとかいう変な薬の副作用に違いないわ!!)


 雛はどうしても、星野やシッジーのいうことを認めたくなかった。


(好きじゃないもん。星野くんのことなんて、私別に、なんとも思ってないもん!! 発情なんてするわけな————)


「えっ!?」


 その時、テレビ画面に映ったものを見て雛は手を止める。


『そして今回発見されたのが、この瓶ってワケ。これがどう考えても地球には存在しない素材でできていて、中に残っていた成分もこの地球上の物質とは考えられないものが検出されて————』


 超常現象や都市伝説の専門家である男が手に持っている。

 元気一発!的な栄養ドリンクの大きさくらいの透明で蓋つきの瓶を……


「ん? どうした? 雛、そんな驚いた顔して」


 父は急に包丁の音が止まり、不思議に思い振り返る。

 こんもりと山になって積まれた千切りのキャベツの向こう側で、雛は包丁を持ったまま目を見開いて固まっていた。


『おそらくこれは、地球外生命体————つまり、宇宙人がこの地球に来ている、その証拠ってワケ』


 それは、雛が倒れる前、あの青い猫に魂が移るその前に飲んだの瓶だった。


『なんですかこれ、一体どこで……?』

『それはちょっと言えないんだけどね。つい数日前に見つかったんだよ。この日本で……つまり、宇宙人は今この日本にいる可能性が高いってコト! それに、この瓶が発見される少し前に、UFOらしきものを捉えた映像もある。それがこれ』


 この専門家の男は、さらに夜に森のあたりから、空へ向かって飛んで行った謎の光の映像を見ながら続ける。


『今年の春頃に目撃情報があった場所と同じなんだよね』


 それは、あの宇宙船O1がある辺り。


「おーい、雛? 聞いてるか? おーい、おーい!」

「……うるさい! パパちょっと黙ってて!」


 雛に怒られて、しゅんと肩を落とす父。

 雛は父に構っている暇がない。

 それどころではない。


 こんなものがテレビで流れたら、あの宇宙船が見つかってしまう可能性が高いのだ。

 もしかしたら、すでに見つかっているかもしれない。

 もし、宇宙船が発見されたら、大変なことになる……


(これって————やばくない!?)



『この周辺を探せば、何か出るかもしれないってワケ』


 男はニヤニヤと笑いながら、カメラの前の視聴者に向かってそう言った————


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る