第30話 青い猫の災難(4)


 星野に怒られたシッジーは、チェジ星人の情報を詳しく調べる為にアノ星と連絡を取った。

 アノ星の宇宙生命体研究所に、さまざまな宇宙人のデータがあるらしく王の許可がなければそのデータを見ることが出来ないらしい。


「ヒナはここにいて」

「にゃ(うん)」


 ふかふかの椅子の上で、雛は必死に方法を探してくれている星野の横顔を見つめるしかなかった。

 どうすれば元に戻るかなんて、宇宙人について知識がない雛にわかるわけがない。

 様々な能力を持つ生命体が宇宙にはいるということだったが、チェジ星人とはなんて恐ろしい生命体だと思った。


(私はこの猫の体に魂が移ったみたいだけど……他の人ってどうなってるんだろう……?)


 考えるほどに怖くなっていき、不安になっていく雛。

 星野はそんな雛に気がついたのか、ちらりと雛の方に視線を向けると、抱き上げて椅子の上から自分の膝の上においた。


「にゃっ!?(なにするの!?)」

「大丈夫、安心して。僕が必ず元に戻してあげるから」


(星野くん……!!)


 優しく撫でてくれる手に安心する雛だったが、しばらくして雛のスマホに着信がありビクリと飛び上がる。

 さすがに猫の体で電話に出られるはずがない。

 それでもなんども着信音は何度もなって、急に止まった。

 諦めたのかと思えば、今度はメッセージの通知音が。


 ————ピロンピロンピロピピピピロン


 気になって確認してみると、母からのスタンプ連打攻撃。

 こんな時間までどこにいるのか、何をしているのかと、連絡をよこせと何度も来ていた。


「にゃにゃにゃ!(星野くんどうしよう!!)」


 猫になったショックで時間なんて気にしていなかったが、時刻は夜の九時を過ぎている。

 なんの連絡もないため心配しているのだ。


「どうしようって……その姿のまま戻るわけにも……」


 さすがに娘が猫になりましたなんて言えるはずがない。

 しかも、既読がついたせいでまた電話が来ている。


「仕方ない……シッジー!!」

「……なんです? 王子」

「ヒナに擬態して」


(えっ!?)


「……わかりました」


 シッジーの姿が、初老の男からピッチピチの女子高生の雛にみるみる変化する。


(えっ!? すごい!! 宇宙人すごい!!)


「こんな感じでよろしいでしょうか?」


 しかし、声はシッジーのしゃがれた声のそのままで気持ちが悪い。


「声も何とかしてよ」

「……ゴホンッ。失礼いたしました。どうでしょう?」

「完璧!! いいかい、ヒナ。とりあえずこのシッジーと一緒に家に帰るんだ。シッジーは猫語を聞き取れるように翻訳機の調整を」

「了解しました」


 シッジーは耳たぶに銀色の小さなピアスのようなものを取り付ける。


「にゃーにゃ?(それが翻訳機なの?)」

「ええ、そうですよ。それでは、行きましょう」



 * * *



 雛の家では、玄関の前で母が腕を組んで立っていた。


「もう雛!! こんな時間までどこにいってたの!? 心配したんだからね。いくらそんじょそこらの男どもより強いとはいえ、女の子がこんな時間まで出歩くなんて……」


 猫の方が本物の娘であるとは夢には思わず、ニセ雛であるシッジーを叱りつける。

 心配していたのだと、ぎゅっと抱きしめて。


(ごめんね、ママ……色々あってこんな姿で……)


「心配してくれてありがとう、母上。以後気をつけます」

「は……母上?」

「にゃっ!!(ママよ!!)」

「あ、いえ、ママ。疲れているから、部屋に行くね」

「え、ええ」


 シッジーは自分の母親を母上と呼んでいるのかと驚きつつ、雛は二階の自分の部屋へ案内する。

 猫の姿で見るこの家は、自分の家だというのにやけに広く感じていた。


「————って、雛、その猫ちゃんどうしたの?」

「ちょっと預かってて言われたの! すぐ返すからお気になさらずに!」

「……そ、そう?」


 明らかに喋り方がおかしかったが、母は少し首を傾げただけでそれ以上は何も聞かなかった。


「さて、では始めますか」


 シッジーは部屋に鍵をかけ、マイクとカメラを取り付けた。

 雛が部屋にいるのを演出するためだ。

 設置が終われば、シッジーは何か他の動物に擬態して宇宙船O1に戻り、引き続き雛を元に戻す方法を調べるはずだった。


「にゃー!(何に擬態するの?)」

「そうですな……猫と行動を共にするとなると、私も同じく猫として行動した方がいいでしょう」


 シッジーは窓を開ける。

 生ぬるい風が室内に入った。


「さぁ、これで準備は完璧。O1に戻り……————」

「にゃっ!!(待って!!)」


 猫の姿に擬態しようとしたその時だった、こちらを見ている人物とばっちり目があう。


「雛……何してるの?」


 向かいの窓から、こちらを凝視している麗音だ。

 いつから見ていたのか、その顔にはパックが貼られ真っ白だったけど……




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