第28話 青い猫の災難(2)
路上で突然人が倒れたため、目撃した街ゆく人々が駆け寄ってくる。
この炎天下だ、それに倒れたのはか弱そうな女子高生。
心配になって当然だった。
「おい、人が倒れたぞ!?」
「なんだなんだ、熱中症か!?」
「救急車!! 今救急車を————……」
中年のサラリーマンが救急車を呼ぼうとスマホを操作していたが、彼女のそばにいたやけにイケメンな男子高校生が慌てながら断った。
「だ、大丈夫です!! 僕が病院に連れて行くので!!」
彼は最初はそのまま彼女だけを抱きかかえようとしたが、倒れている彼女の手の下敷きに青い猫がなっていることに気がつき、鞄にその猫を押し込んだ。
そうして、もう一度彼女を抱き上げて、走り出した。
彼女をお姫様抱っこで病院へ連れて行くその姿は、とてもたくましく見える。
「おお!」
「こんなたくましい彼氏がいるなら安心ね」
「あんなイケメンな彼氏……いいなぁ」
反応は様々だったが、皆、病院に行くなら安心だそれ以上彼の行方を追うものはいなかった。
まるで映画のワンシーンのような光景で、動画でも撮っておけばよかったと後から後悔している若者はいたが……
ただ一人、救急車を呼ぼうとしていたあのサラリーマンは、彼の背中を見ながら苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「ちっ……失敗したか。仕方がない……あとを追うぞ」
サラリーマンはその場にいた誰かに声をかけると、彼の後を追いかける。
気づかれないように、距離を取りながら————
そして、路上に転がっていた透明な瓶が親切な通行人に拾われる。
「まったく……ちゃんとゴミはゴミ箱に入れないとダメじゃないか!」
瓶の中にはわずかだが青く光る液体が残っていたが、何の疑念も思わず、自動販売機用のゴミ箱の中へ、カランと音を立て埋れていった。
その瓶が、地球外の物質でできていることは誰も知らない。
◇ ◇ ◇
「————……な……ヒナ!」
星野くんが私の名前を呼んでいる。
目を開けなきゃ。
起きなくちゃ……
でも、どうしてだろう、まぶたがとても重い。
どうやって開けたらいいか分からない。
「ヒナ! ヒナ! よかった……気がついたんだな」
え……何を言っているの?
何も見えない……私はまだ、目を開けてないのに……
「地球人には効き目が強すぎたみたいで……ごめんね、僕のせいで」
いや、だから、なんのこと?
「まったく、たかが気候水ごときで気を失うとは……地球人とはなんともやわな生命体ですな。王子、いい候補も見つかりませんし、そろそろこの星は別の星に行きませんか?」
「何言ってるんだよシッジー!! ここにこんなにいい候補がいるだろう!? ほら、このオシリだってこんなに触り心地が良くて————て、ごめんごめん、急に触っちゃダメだったね。触っていい? ヒナ」
ダメに決まってるでしょ!?
っていうか、待って、なんでシッジーの声がするの?
私、さっきまで外にいたよね?
「ヒナ……? なんで何も言ってくれないの?」
「無言ということは、触ってもいいってことなんじゃないですか、王子」
「そうなの?」
いやいや、ダメだってば!!
「うんうん、やっぱりヒナのオシリが一番だよ。この弾力も最高。ずっとこうしていたいよ僕は」
「ちょ……王子! さすがにそんなに激しく撫でるのははしたないですよ。それに、目覚めたばかりなんですから」
え、撫でてる?
もう撫でてる?
激しく撫でてる?
待って、待って……触られてる感覚ないんだけど……?
「あ、そうだよね。ついつい夢中になっちゃった。っていうか、ヒナ、なんで何も言わないの? 抵抗もしないし……大丈夫?」
何も見えない。
どうしよう。
どうなってるのよこのまぶた!!
開け、開け、開け……——開け!!!
「にゃー!!」
猫の鳴き声と同時に、パッと目が開いた。
これでやっと状況が掴まめる。
宇宙船の中だ。
確か、O1とかいう、星野くんとシッジーが生活している宇宙船。
もしかして、外で倒れてここまで運ばれて来た?
「あれ……? 王子、この猫はいつの間に船内に……?」
シッジーと目があった。
でも、どうしてだろう……いつもよりシッジーが大きく見える。
「ああ、雛が倒れた時そばにいたから一緒にここに運んだんだ」
星野くん……?
あれ?
ちょっと待って、おかしいよこれ……
なんで……
なんで……
「にゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!?」
私の体が、そこにあるの!?
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