第24話 初めましての恋煩い(5)
校長先生の誕生日という理由で、なぜか学校が休みだったエイリは理想の兄嫁を探して、少し離れた街まで足を運んでいた。
とにかく先ずは女性の尻を見る。
そして、良さそうな人を捕まえては、写真を撮らせてもらっていた。
カメラマンを目指しているとかなんとか適当に言って。
エイリのような美少年にモデルになってほしいと言われれば、不快な思いをすることもなく、むしろこの少年のために喜んで————というお姉様方の数々。
しかし、どれもこれも結局は兄から却下されてしまう。
「それなら仕方ない。もう少し若い人にしよう……例えばそう、兄さんと同じくらいの歳で————」
そして訪れたとある高校。
その日は偶然にも、年に二度ある私服登校の日だった。
校舎から出てくる女生徒たちは普段の制服とは違う様々な服装だったため、尻の形がわかりやすい。
エイリは良さそうな尻の持ち主を見つけては、写真を撮り、連絡先を教えてもらっていた。
「おおお!! あれは!!」
その時、現れた一人の生徒のお尻が最高だった。
エイリは思わず、許可も取らずに写真を撮ってしまう。
ロリータっぽいワンピースを着たお嬢さんのお尻は、その服の素材のおかげなのかプリッとした綺麗な形のお尻がくっきりとわかる。
よく見れば、尻だけでなくて背もエイリの理想に近い。
女子にしては高めだ。
「ちょっと……君、どこの子? 勝手に写真撮らないでくれる? いくらこの子が可愛いからって」
「そうよ、見世物じゃないのよ……?」
そのお嬢さんの周りにいたあまり美しくない取り巻きの女子二人に注意されてしまったが、エイリは瞳をキラキラと輝かせていた。
このお嬢さんは、顔も申し分ない。
お人形みたいで美しいと、エイリは完全に見惚れていた。
「…………」
「ちょっと、聞いてるの? 勝手に撮らないでって————え?」
エイリはその他の女子そっちのけで、そのお人形のようなお嬢さんに近づき、手を取る。
両手で力強くお嬢さんの手を握り、頬を少し紅潮させながら真剣な眼差しで言った。
「俺のお義姉さんになってくれませんか?」
「————……は、はい?」
なんて素敵な人だろう。
この人こそ、兄の嫁にふさわしい。
そう確信したのだ。
☆ ☆ ☆
エイリの様子がおかしい————ような気がしていた。
電話の後しではあったが、なんだかとても息が荒く、興奮しているような……そんな気がした王子。
『絶対会ってよ兄さん!! 今日の放課後、校門前に連れて行くから!! 絶対だよ!?』
「あ、ああ。わかったよ」
本当に急ではあったが、雛以外の候補も……考えなければならないかもしれないと腹を括った。
自分は雛が可愛いと思っているし、嫁にしたいと思っていても、雛の心がこちらに向いていないと意味がない。
雛に完全にフラれてしまった時のために、別の候補を見つけておくことは必要なのだ。
この星に来た目的を果たせずに、アノ星に戻ることになったら、王になることなんてできないだろう。
「今日の放課後、校門の前で待ってるって……」
「へぇ、そうなんだ。早いわね」
それに、もしかしたら、実際に会うとなったら嫉妬してくれるかも……
なんて淡い期待を抱いたが、雛はニコニコと上機嫌だった。
嬉しそうに席替えのくじの箱をかき混ぜている。
「仕方がないか……」
ぼそりと、雛にも聞こえないような小さな声で呟いて、王子はため息をついた。
そして、放課後————
「兄さん! こっちこっち!」
校門の前に立っていたエイリが無邪気に大きく手を振り、その隣に立っていたロリータっぽいワンピースを着たあの写真の相手が会釈する。
にっこりと微笑んでいるそのお嬢さんは、それはまるでお人形のような美しさもあり、どこか雛に似ているような可愛らしさもあった。
「ほらほら、すっごいイイだろ!? 尻も大きいし、背も高いし、品もあって」
エイリは相当このお嬢さんを気に入っているようで、べた褒めだ。
そんなに気に入っているなら、自分の嫁候補にしたらいいのに————っというレベル。
「
「————タカナシ? あれ? ヒナと同じ苗字?」
「……ヒナ?」
麗音は王子の口からヒナの名前が出て、眉間にシワを寄せる。
普段ならちょうどそこは切りそろえられた前髪に隠れて見えないのだが、風が吹いたせいでそれがはっきりと王子の目に映る。
ロリータっぽいワンピースの裾も風にふわりと揺れた。
「————れ、麗音!?」
その時、後ろから声が聞こえて振り返ると、ひどく驚いた表情でこちらを見ている雛の姿が……
「な、なんだ!? なんで、ちんちくりん女が麗音さんの名前を!?」
エイリも王子も、雛がはっきりと麗音と呼んだことに驚く。
王子はもしかして二人は知り合いなのだろうかと聞こうとしたが、その前に麗音の方が口を開いた。
「ねぇ、雛。もしかして、コレが例の男だったりする?」
不躾にも、王子を指差して————
「そ、そうだけど……」
「ふーん……やっぱり、そうなんだ」
先程までの笑顔はどこへ消えたのか、麗音は王子の顔をじっと品定めでもしているかのように見つめる。
「ふーんって、それよりなんで麗音が? まさかエイリくんが見つけた候補が麗音ってことじゃ……?」
「その通りだ。ちんちくりん女と違って、麗音さんは俺のお義姉さんになるのにふさわしいだろ?」
エイリは自慢げにそう答えた。
雛の顔は引きつっている。
「いや、待って……! そんなの無理よ!」
「はぁ!? なんでだよ!? これはお前が決めることじゃないだろう!? ちんちくりん女はさっさと帰れ! 俺の邪魔をするな!!」
「だから、無理だって!!」
「だーかーらー!! それはお前には関係が————……」
「————麗音は、
「……は?」
それは衝撃的な発言だった。
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