第23話 初めましての恋煩い(4)
星野にとって生まれて初めての席替え。
何しろアノ星ではこれでも王子なわけで、座る場所は決まって一番いい王族が座る場所なのだ。
場所を変えて欲しいとか、誰かの隣に座りたいとか、そういう概念がなかった。
「うーん、でもこのくじ引いたらヒナと離れちゃうかもしれないってこと?」
「そうよ。くじなんだから、当然でしょ。どこに行くかわからない……公平なの」
「それは嫌だなぁ……僕はヒナと離れてやっていける自信ないよ。やめようよ、席替えなんて」
「何言ってるの!? 席替えは大事よ!! 学校生活では一番重要なイベントなの!!」
とにかく星野と距離を取りたい雛は席の番号が書かれた紙切れをしっかりと小さく折りたたみながら、星野の質問に答えていると、何だかいつもより他のクラスメイトから見られているような気がしてきた。
(なんだろう……? やっぱりみんな席替えが楽しみなのかしら?)
雛はそう思ったが、クラスメイトたちはこちらを見ながらヒソヒソと何か噂話をしているようだ。
「やっぱり付き合ってるのよ……」
「嘘でしょ? 星野くんが……?」
「じゃぁ、あの話マジなの? そんなに激しくやってるとか……すげぇな」
「やっぱり顔がいいとやることも早いな」
「あんなに小さいのに、あいつもやるなぁ……」
(————なんの話……?)
断片的にしか聞こえなくて、一体何の話だかわからなかった。
普段なら、星野とこうして何かしていると女子たちの嫉妬の炎に燃えているような視線が痛い程度なのに……
(まぁいいわ。これで星野くんと離れることができれば、たまたま隣の席で、たまたまグループ分けとかされるといつも一緒になっちゃうだけで嫉妬されるのも終わりよ。前みたいに、普通に青春を謳歌してやるんだから……ああ、でも————)
箱にくじを入れて、ぐるぐると混ぜながら雛は考える。
(————シッジーとの約束があるから、さっさと候補は見つけないと。そうすれば、星に帰るんだろうし)
このクラスに、星野にふさわしいお尻の生徒がいないなら、他のクラス……学年から探し出せばいいと。
なんなら、あの生意気な弟の方が別のところからいい候補を捕まえてくるかもしれないと。
「あ、もうなんだよエイリのやつ……」
「————ん? エイリくんがどうかしたの? まさか、新しい候補を見つけてきた!?」
「うん、それはもう大量に」
星野がスマホのようなアノ星の端末を見て不機嫌そうな顔になった。
数日前もエイリから候補になりそうな女性のお尻画像が送られてきていて、星野の端末はお尻画像のデータでいっぱいになっていたのだ。
「でも安心して、ヒナ。どんなに送ってこようと、僕にはヒナ以上にいいお尻なんて————……お?」
そのうちの一枚が目に留まり、星野はマジマジと画面を見つめる。
(あ、あれ? もしかして、いいお尻が見つかった!?)
雛が覗き込むと、そこにはまぁ、見事なプリッとしたお尻。
「これはいいお尻ね」
「……ヒナもそう思う? 僕もこのお尻は他とは違う気が————って、大丈夫だよヒナ。僕はヒナ一筋だから。確かにこのお尻は気になるけど、ヒナのに比べたら……」
「あのねぇ……星野くんが一筋でも、私は候補になる気はないのよ?」
「え、なんで……?」
「なんでって————……宇宙——……から隕石が降ってきたとしても、そんなことはありえないからよ!」
「え?」
星野は首を傾げたが、ヒナは視線をこちらを見ているクラスメイトたちにちらりと向ける。
それで星野も理由がわかったようで、悲しそうに眉を八の字にする。
(危ない危ない。うっかり宇宙人の嫁になんてなれるわけないって言いそうになったわ)
「わかったよ。それじゃぁ、とりあえずえーと、お尻以外の画像も送ってもらう。僕にもタイプがあるからね。仕方がないけど、とりあえずだ。とても残念だけど……本当は、本当はヒナがいいんだけど……僕の星はとっても遠いから、そこを受け入れてもらえないと困るし」
そうして、送ってもらった画像には、それはそれは可愛らしいロリータっぽいワンピースを着たお嬢さん。
「おお、ちょっといいかも……」
「え? 良かったじゃない! 私にも見せて?」
星野は画面を雛に見せようとしたが、その瞬間、エイリから電話がかかってきて画面が切り替わってしまった。
そして、星野が電話にでると、さっそく紹介する約束を取り付けたという。
しかも、今日の放課後、校門の前で待ち合わせることになったらしい。
「へぇ、そうなんだ。早いわね」
(よし、これで星に帰ってくれるわ!! 二人がうまく行くように、手助けしなきゃ!!)
雛はそのお嬢さんの画像を見ることはなかったが、これで一安心だと上機嫌になる。
そのため、この後行われた席替えの結果が、雛が前で星野がすぐ後ろの席というたいして変わらないものだったことも気にならなかった。
そんなことより、早く放課後にならないかなーと思っていた。
しかし————
いざ放課後、校門前で星野と話しているそのお嬢さんの姿を見て驚愕する。
「————れ、麗音!?」
ロリータっぽいワンピースの裾が、風にふわりと揺れた。
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