第22話 初めましての恋煩い(3)


「ヒナ!! なんで避けるの!?」


 翌週の月曜日、星野は雛が登校する時間帯を狙って校門まえで待ち構えていた。

 人前ではカタコトの日本語を使っていたのはどうしたのか、星野の流暢な日本語にその場にいた生徒たちは驚いていたが、気づいていないようだ。


「こ、こないで!!」

「大丈夫だから、ないもしないから!! っていうか、ほら、ほら何も持ってないよ!! 後ろにも立たないし!!」


 雛がファイティングポーズで身構えているため、星野も同じように身構える。

 まるで、某格闘ゲームの開始前のような二人。

 担任の渡辺は校門前で偶然そんな光景を目撃して、体力ゲージが見えたような気がして、そんなバカなと首を左右に振った。


「理由を教えてよ! どうして僕を避けるの!?」

「い、言ったでしょ!? 私に変なことするからよ!!」

「してないよ! それに、僕は知らなかったんだ……地球人は後ろから抱きしめると爆発するなんて!!」


(なんだそれは!?)

(意味がわからない!!)

(どいうこと!?)


 その場にいた人間がみんな心の中でツッコミを入れる。

 あまりに意味不明な星野の発言に、みんな一斉に雛の方を見る。

 どういうことか説明してほしいと……


「何よそれ!? 誰がそんなこと言ったの!?」


(お前も知らんのか!!)


「ヒナが言ったんじゃないか!! 話しかけないでって……一緒にいたら心臓がもたないって、爆発して死んじゃうって」

「なんでそれが、後ろから抱きしめたら爆発するになるわけ!? どういう頭してるの!? バカなの!?」

「ば、バカ!?」

「星野くんが私に何かしたんでしょ!? またあの時みたいになるのが怖いのよ……!!」

「ぼ、僕がいったい何をしたっていうんだよ……!! わからないよ!!」


 流石に教師として、この二人の言い争い……というか、痴話喧嘩を止めた方がいいかと、渡辺は仲裁に入ろうとする。

 校門前で生徒たちが言い争っているなんて、ご近所から苦情が入るかもしれない。

 この二人、朝から無駄に声が通るのだ。


「したじゃない!! だから、私の腰が動かなくなったんでしょ!? それで立てなくなったのよ!! そうに決まってる!!」

「え!? 腰!?」


(え、えええええええ!?)

(おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!!)

(こいつら、朝からなんて話を!!?)


 みんなをめちゃくちゃ勘違いさせるまさかの発言に、渡辺はめまいがした。

 これはやはり、止めなければ……いくらそういうことに興味のあるお年頃とはいえ、教師として不純異性交遊を認めるわけにはいかない。


「こら、お前たち!! 朝から何をしてるんだ!! 職員室に来い!!」


 この後、二人は渡辺に連れていかれたが、その場にいた生徒は他の生徒に話してしまい、星野と雛がそういう関係であるという噂は全校生徒に知れ渡ることになる。



 * * *



「まったく、男女交際をするなとは俺も言っていない。今時、校則でも禁止してないからな……」

「いや、交際してないですって」

「でもあれはよくないぞ? いくらなんでも朝っぱらから校門の前でヤったヤってないなんて話は……」

「だから、そういうことではなくてですね」


 雛は否定したが、渡辺は腕を組んで難しそうな表情をしながら何度も同じようなことを言ってくる。


「星野、お前もあまり激しくしちゃダメだぞ? 小鳥遊は体が小さいし、ちゃんと気遣ってやらないと……」

「す……すみません。ヒナが可愛すぎて、つい我慢できなくて……」

「ちょっと!! 星野くんも、誤解されるような言い方しないでよ!!」

「え? 誤解って何? ついお嫁さんになってって言っちゃったことのどこが?」

「な、なんだって!? もうプロポーズしたのか!? 星野、お前、展開早すぎるだろう!? ……いや、お前帰国子女だったな。お前がいた国では普通なのか?」

「もう、ややこしいから余計なこと言わないでよ先生!!」


 なぜか関心している渡辺に、雛はイラっとする。


(まったくもう……なんでこうなるのよ)


「ま、まぁとにかくだ!! 遊びじゃなく、真剣に交際する分には、俺は何も言わない。けども、我が校の評判を落とすような行動はしないように!! 喧嘩もするならせめて校内でしてくれ。校門前であんなに騒がれたらご近所の方々からクレームが入るからな……」


 渡辺は一度咳払いをすると、星野に紙数枚と紅白の抽選と書かれた上に丸く穴が空いている箱を渡して言った。


「騒いだ罰として、二人でくじを作れ。今日中にな」

「……くじ? 一体なんのくじですか?」


 いきなりのことに、意味がわからず星野が首をかしげる。

 もうすっかり、カタコトになるのも忘れていた。


「席替えだよ。今日の六時限目のホームルームで席替えをするからな。そのくじだ」


(せ、席替え!?)


 これでやっと星野と離れられると、雛はガッツポーズ。

 だが、星野はまだ首をかしげている。


「ヒナ、セキガエって何?」


 アノ星には、席替えがないらしい————



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