第21話 初めましての恋煩い(2)
(うーん……どうしよう……)
一階で家族会議が行われているとはつゆ知らず、雛はカーテンも閉めずにすっかり日が沈んで暗くなっていることにも気が付かずにいた。
悩んでいるのだ。
星野とどう接するべきか。
(あれから星野くんにまた何かされるんじゃないかって、怖いのよね……)
あの保健室での一件以来、雛は星野を避け続けていた。
あんな風に体が動かなくなったのは初めてだったし、あそこまで自分の鼓動が激しくなったこともない。
きっと星野がアノ星の道具を使った————もしくはその生命体特有の能力か何かでそうなったのだろうと、怖くなったのだ。
自分の怪力が通用しないような、未知のものは雛にとって怖いもので、星野に話しかけられる度に警戒し、つい身構えてファイティングポーズをとってしまう。
その度に、クラスメイトや先生に不審に思われて、ごまかすのが大変なのだ。
(一体どういう仕組みなのかわからないけど……毎日毎日心臓に悪いわ。登校時間が被らないように早めに家を出ても、結局隣の席だし————)
「はぁ……早く席替えしないかなぁ」
ため息と同時に出た独り言。
「何、席替えして彼氏の隣に座りたいとか?」
「いや……なんでよ。今隣なのに、私は離れたくて————……って、麗音!?」
雛が驚いて声が聞こえた方を見ると、麗音がドアの前に立っていた。
「い、いつからいたの!?」
「たった今だよ。まったく……電気も点けずに何してるの? 雛」
麗音は電気を点け窓の方へ行くと、カーテンを閉めながら雛に尋ねる。
「何か悩んでるなら、聞こうか?」
「いや……その……星————……」
思わず口に出してしまいそうになったが、雛はハッと気がついて両手で自分の口を塞いだ。
(ダメダメ!! 星野くんが宇宙人だなんて話、いくら麗音でも話しちゃダメ!! シッジーに殺されちゃう!!)
星野が宇宙人であることは、たとえ家族であろうと親友であろうと誰にも話してはいけない。
もし話せば、雛はシッジーに殺され、その亡骸は宇宙に売られてしまう。
聞いてしまった麗音もきっと同じだろう。
(ど……どうにかして誤魔化さなきゃ……!!)
麗音は何も言わない雛の様子を見て、やはり何か隠しているのだと察する。
「何……本当に、彼氏ができたとか?」
「か、彼氏!?」
(え、なんの話!?)
「仁兄ちゃんが言ってたよ? 雛に男ができたんじゃないかって……恋煩いってやつなんじゃないかって————」
「こ、恋煩い!?」
(いやいや、なんでそうなってるの!? 恋煩いって————そんなわけないでしょ!?)
宇宙人相手にどうしたらいいかを悩んではいるが、恋煩いではない。
しかし、まさかそんな悩みを抱えているなんて誰も想像しないだろう。
完全に勘違いされているが、これを否定したら、それじゃぁ一体何を悩んでいるのかと聞かれてしまうかもしれないと雛は考えた。
「そ……そ、そうなの!! クラスにね、その、彼氏じゃないよ!? 彼氏じゃないけど、その……すごく気になる人ができて————」
(そうよ、そういうことにしておこう。言えないもの……宇宙人のお嫁さん探しを手伝わされて、その宇宙人のせいで悩んでるなんて————)
「そう……なんだ。じゃあ、雛は初めての恋にどうしたらいいのかわからないんだね? 目があっただけで緊張して、本当はずっと見ていたいのに気づかれたら恥ずかしいから直ぐ目を逸らしちゃったり、その人がそばにいると心臓がドキドキしたりするの?」
「し……心臓がドキドキ……? うん、したした!!」
(まぁ、あれは星野くんが何かしたせいだけど……)
「このままだと、ずっと緊張しっぱなしだから疲れちゃうじゃない? それで悩んでるの……どうしたら、あまり関わらないで済むかなって……同じクラスで席も隣だから」
「ふーん……」
麗音は少し不機嫌そうな表情をしていた。
切りそろえられた前髪の裏で隠れているが、綺麗に塗ったファンデーションが、眉間に寄ったシワのせいで崩れている。
「————って、こんなこと麗音もわかんないよね? ごめん、気にしないで……」
「何それ……自分だって恋人の一人もできたことないくせにって、バカにしてる?」
「いやいや!! そんなことは!! だってほら、麗音は特殊っていうか————」
「まぁ、確かに特殊な人間かもしれないけど……人を見る目は十分あるつもりだよ? 雛よりもずーっとね」
麗音はそう言うと、今度は急ににっこりと可愛く笑った。
ロリータっぽいワンピースとメイクで、まるで大きなお人形っぽいが、こういう表情は幼い頃の面影が残っている。
「どんな男か見極めてあげるよ。変なやつだったらさっさと諦めるべきだし、脈ありそうだったら、いい作戦を考えてあげる」
「え……?」
「だから、一度その男に会わせてよ。ね? いいでしょう?」
麗音は雛に顔を近づけて、迫ってくる。
イトコ同士だが、ほぼ姉妹のようなもので、可愛い妹のような麗音の押しに、雛は弱かった。
「わかったよ……でも、どうやって? 学校は関係者以外立ち入り禁止だよ?」
(私から星野くんに話しかけるとか、したくないんだけど……)
「大丈夫、何かしら理由つけて行くから。雛は案内だけしてくれればいいよ」
「そ、そう……?」
(本当に……?)
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