第17話 王子に恋は難しい(4)
女子のソフトボールの試合が始まり、雛は外野を守っていた。
隣のテニスコートの方に応援の生徒たちはほとんど集まっているため、誰も見ていないこの試合……
ソフトボール部の部員でない限り、バットに球を当てることは難しいためほとんど球なんて飛んでこない。
(暇だなぁ……外野)
退屈すぎて、あくびが出そうになっていたのだが時にまぐれというものはあるのだ。
ソフトボール部でも、もちろん野球の経験も全くない相手チームのバッターが、思いっきりスイングをしたら偶然にもそれが特大のホームランになったのだ。
高く、そしてものすごい速さで飛んでくる球。
(うっそ!!)
フェンスを越えて、行ったボールはコロコロと転がって車道に出てしまった。
このまま放っておくのは危ないと、雛がボールを取りに行くとそこで信じられないものを見た。
「————お前、兄さんをバカにしただろう!! 許さないからな!!」
テニスコート側フェンスの前で、学ランを着た中学生が、老人の胸ぐらを掴んでいたのだ。
最初は何か言い争っているのかと思ったが、老人は明らかに怯えている。
「ちょっと!! あんた何してるの!!?」
生徒の誰かに見られたら、強いことがバレてしまう可能性がある。
しかし、雛の体は勝手に動く。
幼い頃から武道家の家族に育てられている雛は、見て見ぬ振りができなかった。
老人をつかんでいた手を引き剥がし、中学生を抑え込む。
————ドサッ
「————痛い……! 痛いっ!! なんだこれ!」
「放して欲しかったら謝りなさい。この腕、へし折るわよ?」
(まったく、自分のしたことがわかってないみたいね……!! おじいさんにこんなことして!! 一体どんな教育を受けて来たらこうなるのよ)
その中学生は、謝る気は全くないようだったが、雛に押さえつけられて完全に身動きが取れない。
どうしようもなくなって、泣き出してしまった。
(————って、あれ? この子、この前の生意気な美少年じゃない……なんでまたこんなところに……?)
あの角で、雛とぶつかった美少年であることに気づいた時、そのどこか憂いを帯びたような、大きな瞳が綺麗な美少年は助けを呼んだ。
「兄さああああああああん!!! 助けてぇぇぇ」
(兄さん……?)
「————エイリ!?」
美少年の助けに応えたのは、ラケットを持ったままこちらに近づいてくる星野だった————
* * *
「ちんちくりん女め! 許さないからな!!」
星野の弟————エイリ・アノ王子は、さっと兄の背後から顔を出してそう言った。
目を真っ赤に腫らしているし、全く怖くない。
「こら、ヒナに向かってなんてこと言うんだ!! お前が悪いんだから反省しなさい、エイリ!!」
「……うっ」
エイリは雛のいうことは全く聞かなかったが、星野のいうことは素直に聞き入れて、あの老人に謝罪した。
その後、ずっとこうして雛を警戒し、星野の背に隠れているのだ。
(まったく……なんなのこの弟は…………)
エイリは黙っていれば、どこか少し影があるような美少年なのだが、口も悪ければ態度も悪いようだ。
兄に対して以外は……
「ごめん、兄さん。俺、兄さんがあのジジィに侮辱されていたのが耐えられなくて————」
「まったく、なにが侮辱だよ。僕のテニスが下手なのは事実じゃないか……ラケットってやつが重いんだよ」
アノ星にもテニスと似たような競技がある。
だが、道具の形や重さが違うため星野には上手く球がコントロールできなかった。
次のサッカーは、アノ星のものと近いらしい。
蹴るのはサッカーボールではなくて、丸い形のぶよぶよした生物の頭だが……
「っていうか、なんでこの星————しかも、日本にいるんだよエイリ。お前もここに候補を探しに来たの?」
「それは————」
エイリはちらりと雛の方を見て、目があうとすぐにまたプイッと顔を背けてくる。
雛は完全にこの弟に嫌われているようだ。
「————俺の候補じゃなくて、兄さんの候補を探しを手伝いに来たんだ。俺は兄さんが王になるべきだと思ってるし、自分が王になりたいとも思わないからね。だから、俺が兄さんが変な女に騙されないように、助けようと思って」
「……エイリ、それはありがたいけど、お前に助けられなくても僕なら自分でちゃんと見つけるよ。ほら、今だってちゃんとこんなにいいオシリのヒナを見つけてるし————」
「……だから、だよ!! 兄さん!!」
エイリは雛を指差しながら、主張する。
「こんなちんちくりん、兄さんにふさわしくない! それに、俺がこの女をお
この弟、めちゃくちゃワガママだった。
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