第15話 王子に恋は難しい(2)


「はぁ……はぁ……一体どうなってるの?」

「……なんで当たらないのよ」


 ボールは雛一人になってもまったく当たらず、必死に投げていた敵チームの女子たちの方が疲弊し、授業が時間が終わる時間の為そこで試合終了。

 いつの間にか、ただの体育の授業だというのに白熱した展開。

 雨が降り始めてしまって、グラウンドから体育館に移動してきた男子たちから雛は喝采を浴びている。


「すっげぇ……あの子、よく避けるな」

「どうなってんだ?」


(し、しまった……つい、ボールに当たりたくなくて、全部避けちゃった!)


 雛は他の誰よりも運動神経もいいのだ。

 だからこそ、運動部に入ったら入ったで無双してしまうため、どの部活にも所属していないし、去年新入生の交流会で同じようにドッジボールをやった時は程よいところでぶつかって外野に出た。

 運動神経がいいのがバレて、どこかの部にスカウトされる————なんてことを避けるためだ。

 運動部活になんて入ったら、普通の女子高生として過ごしたいという願いは叶わない。


 あの時の努力むなしく、うっかり注目されてしまっている。


(ひぃぃぃぃ……やっちゃった! 見ないで! 私を見ないで!)


 恥ずかしくて顔を伏せたまま、雛は更衣室に戻ったが、これがきっかけで球技大会の選手に選ばれてしまった。

 二種目でなければならないため、ソフトボールも。


 一方、星野はサッカーとテニスだそうだ。

 しかし、地球のスポーツのルールなんて知らない為、星野はクラスの男子に教えてもらっていた。


「サッカーとテニスだなんて、星野くんって本当になんていうか王子様って感じよね」

「そうそう!」


 放課後練習している星野の姿を見て、女子たちがそう言っているのを聞いて、雛は一瞬ひやりとする。


(そりゃまぁ……本当に王子様だけど……)


 ぼんやり男子に混じって普通にボールを追いかけて走っている星野を見ていると、一人異常なイケメンがいるというのは目立ってはいたが、宇宙人には見えない。

 やたらイケメンであることを除けば、それが実はアノ星人の王子様だなんて誰にもわからないだろう。


(そういえば、他の王子たちも同じように嫁候補を探してるって言っていたわね……他の王子たちも、こんな風にどこかの星で人々の中に混じって生活してるのかしら?)


 雛がふとそんな風に考えていると、グラウンドのフェンスの向こう側の道路を、あの青い猫が優雅に歩いているのを見つける。

 青い猫は、道路の上からじっとこちらを見ている下校途中の学ランの中学生の前でピタリと止まった。


(あれ……? あの子、この前の……)


 視力がいい雛は気がついていたが、おそらく向こうは気がついていないだろう。

 あの曲がり角でぶつかった生意気な美少年は、猫を抱き上げると、そのまましばらくグラウンドの方を眺め、星野たちの練習が終わった頃に帰って行った。


(——……誰か、知り合いでもいるのかしら?)



「あ、ヒナ!! どだタですか? 僕の華麗なシュート! 初めて決めたデスよ!!」

「え……? あ、ごめん。見てなかった」

「ええ、そんな! ひどいよ!! なんで見てないの!?」


 相変わらず学校で話す時はカタコトな星野だったが、頑張っていたのに雛に見てもらえてなかったことにショックを受けて、普通に流暢になっている。


「仕方がないじゃない。見てなかったんだから……それより、早く着替えてきなよ。臭いよ?」

「……失礼だなぁ! 僕の汗は臭くないよ! 爽やかな汗だよ!」


(何その理論————)




 ☆ ☆ ☆



「————それで、真剣に候補探してますか、王子」

「……し、してるよ! してる!!」


 ここ最近、どうも嫁候補探しよりも地球の学校生活を楽しんでいるよに思えて、シッジーは王子に訪ねた。

 王子が雛を気にっているのはわかっているが、もっと真面目に取り組んでほしいとシッジーは思う。


「いいですか、そのサッカーとかテニスとやらで球と戯れている場合でも、あの暴力女の尻だけ追いかけているだけではダメなのです。今の学校にいい候補がいないのであれば、別の学校に転校するということも考えなければ……」

「いや、そんな。まだ一ヶ月くらいしか経ってないのに……」

「悠長なことは言ってられないのです!! 他の王子様たちは、王子がこうしている間にも、候補をさがして宇宙を飛び回っておいでですよ? それに————」


 シッジーは、他の王子たちの最近の動向を調査した結果をモニターに映し、王子に見せる。

 そこには、色々な星で候補を次々と見つけている他の王子たちの姿が……


「ほら、皆さんこんなにもう候補を見つけているのです。あとは、親の承諾だけだとか……そこまできているのですよ!? 少しは焦ってください」

「うっ……ごめん」


 王子は反省したのか、うなだれたまま自分の部屋に戻って行った。



「まったくもう……うちの王子はいつまでも子供で困りますね」


 シッジーは呆れながら改めてその調査結果に目を通す。


「それにしても、エイリ王子がいる場所……ずいぶん地球に似ている気がしますが————気のせいでしょうか?」


 王が息子たち全員に嫁候補を見つけてくるよう指示し、兄弟は宇宙で散り散りになっているはずだが、三男であるエイリ・アノ王子の最近の映像を見てシッジーはそう呟いた。



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