第三章 王子に恋は難しい
第14話 王子に恋は難しい(1)
二度あることは三度ある————というが、雛にとって、それは四度目だった。
「うわっ!!」
「ひゃっ!!」
今朝も遅刻ギリギリだと、パンをくわえて走っていたら、あの曲がり角でおもいっきりぶつかったのだ。
(イタタタ……もう! こんなシーンはうんざりよ!! 勘弁してよ————どうせラブコメは始まらないんだから!!)
尻餅をついた雛は、また星野とぶつかったのではないかと顔を上げる。
どうせあのやけに整った顔のイケメン宇宙人に違いないと。
「もう……ちゃんと前を見て歩いてよね! 星野く————って、え!?」
しかし、そこにいたのはあのイケメン宇宙人とは別のイケメンだった。
(うわ……また違うイケメン! っていうか、美少年!!)
おそらく、中学生だ。
この近所には、制服が学ランの中学校があるため、そこの生徒だろう。
どこか憂いを帯びたような、大きな瞳が綺麗な美少年。
美少年は、尻餅をついている雛に右手を差し出した。
この手に捕まって、立てということだろう。
雛は手をつかもうとする。
だが————
「ちょっと……!? えっ!?」
その手は急に振り払われ、バランスを崩した雛は、また尻餅をつく。
「ふんっ!! この俺に触れようなどと、無礼な女め!!」
美少年はその綺麗な顔歪め、そう吐き捨てると去っていく。
ぶつかった謝罪なんてもちろんなく、雛は驚きすぎて声も出ない。
パクパクと口を動かしながら、立ち去っていく美少年の後ろ姿を見る。
(な……なんなの!? 無礼なのは、あんたでしょうが!!)
やはり、四度目もラブコメは始まらなかった。
* * *
「————……っていうことがあってね」
「そっか……それで、ヒナのスカートがこんなに汚れちゃったんだね」
不機嫌そうに登校していた雛を見つけて、話を聞いた星野は払いきれていないスカートの泥を払う。
パタパタと。
パタパタと。
「痛かったでしょう?」
さらには、どさくさに紛れてそう言いながら、いたわるように撫でている。
いや、揉んでいる。
「そりゃぁ……二度もあんな風に尻餅ついちゃったから流石に私のこの立派なお尻でも痛かったわよ————って、撫でるな!! 揉むな!!」
「あはは、ばれたか」
星野は名残惜しそうに手を離した。
これ以上やったら、あの熊さえぶっ飛ばす拳が飛んでくるだろう。
「じゃぁ、どこなら触っていい? 手ならいい?」
「どこもダメ!! 星野くん全部がイヤらしいから」
「……ええ、ひどいなぁ」
(まったく、イケメンだからってなんでも許されるわけじゃないのよ? あー……それに、さっきの中学生もムカつくわ。ぶつかったのは私だけのせいじゃないのに、謝りもしないなんて……)
怒りの治らない雛が、頬を膨らませているのを見て、星野は可愛いなぁ……ニコニコと上機嫌だ。
側から見たら、イチャイチャしているようにしか見えないのだが、本人たちにその自覚が全くない。
だからこそ、気がついていなかった。
そんな二人を、鬼の形相で影から見ているとある人物がいることに————
「それより、急がないと遅刻じゃない?」
「え……!? それはダメ!!」
すっかり忘れていたが、雛は遅刻しそうで走っていたのだ。
今日雛は日直で、いつもより少し早く学校に行かなければならなかったのに、結局ギリギリになっている。
「っていうか、星野くんも日直じゃなかった!?」
「え、そうなの? っていうか、日直って何?」
「————ああもう!! 説明している時間もったいないわ! 走るわよ!!」
「あ、待ってよヒナ!! 置いて行かないで!!」
星野は雛の手を掴み、足の速い雛に引っ張られながら学校まで走った。
やっぱりイチャイチャしてるようにしか見えない二人を、別の生徒たちが目撃し、嫉妬の炎をメラメラと燃やしているのだが、こちらにも二人は気づいていない————
だからこそ、この日の午後、体育。
ドッジボール。
————ズバーーーン
————バーーーーーン
「顔はダメ!! ホディよ!! ホディを狙うのよ!!」
全部、雛めがけて飛んでくる。
敵チームの女子たちの豪速球が。
(えっ!? なんで!? えっ!?)
「狙え!!! あいつを!! あいつを撃つのよ!!」
「私たちの星野くんを独り占めして、許さないんだから!!」
(えっ!? してない!? してないよ!?)
雛はそのボールを全てかわした。
当然、当たったら痛いからだ。
キャッチできないわけではない。
しかし、雛がボールを持ったら最後、うっかり女子に当ててしまったら、それこそ大変なことになる。
「く……ちょこまかと!!」
「当たれえええええええええええええ!!!」
「逃げるなぁぁぁぁぁああああ!!!」
(もう、なんなの!? 今日は一体、なんて日なの!?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます