第13話 ただしイケメンに限る(完)
「にゃー」
青い猫は、カメラをくわえたまま塀を乗り越え、道路に出る。
証拠隠滅を任されたのだ。
アノ星の王子が、盗撮を行なっていたなどと王家の恥である。
そう考えた、とある人物に。
「にゃー」
アノ星人は、あらゆる生物と意思疎通が可能な人種であり、それがこの地球人と脳の作りが違う理由の一つである。
公園で餌を貪るあの鳩も、服を着て散歩している真っ白なポメラニアンとだって会話が可能なのだ。
「にゃーにゃー」
「あぁ、わかった。お礼にこのチュールってやつをあげよう」
学校近くの公園で待っていたとそのある人物は、猫からカメラを受け取ると、コンビニで買った猫用チュールの封を開けた。
「また何かあったら、頼んだぞ」
「にゃー」
猫は美味しそうにチュールを食べ終わると、満足したのか、またのそのそと歩いて何処かへ消える。
「あの執事だけじゃ、頼りないからな…………俺が守らないと」
☆ ☆ ☆
「————……王子、いい加減になさってください」
「えー? なんで?」
宇宙船O1の今日の夕食は、ラーメンである。
それも、野菜増し増しの大盛りラーメン。
まだ箸をうまく使いこなせない王子は、慣れない手つきでなんとか麺を口に運びながら、空いている方の手には地球のスマホに似た端末を持っている。
ラーメンを食べながら、盗撮した映像を確認しているのだ。
それも、最初は尻の大きな女子を見つけるための再確認だったのだが、結局最終的にはどうしても雛の映像を繰り返し見てしまう。
「なんで? じゃぁないですよ!! 確かに、あの暴力女————小鳥遊雛の尻は王子のお好みでしょう。でも、まだ候補と決めるには早すぎると言ったはずです。候補となれば、アノ星の母となるのですよ!? それに、他の王子様たちの中で、一番良い尻と認められたものを連れて行かないと王位継承権が————」
「……わかってるよ。なんとしても長男の僕が王位を継がないと——だろ?」
アノ星では、長男が王位に
しかし、今は非常事態なのだ。
もっとも王家の嫁として相応しい候補者を連れてこなければ、長男であろうが王にはなれない。
アノ星の危機を救う王子こそ、次の王に相応しいと……そういうことだ。
「わかっていらっしゃるなら、早く別の女性を見つけてください。アノ星で、王子の帰りをお待ちになっている王妃様の為にも」
「うん。そうだね……でも、今のところヒナしかいないんだ。オシリだけじゃなくて、あんなに小さいのに力が強いのも不思議でかっこいいし。あの表情がころころ変わるのも見てて飽きないし……泣かれるとちょっと声がうるさいけど」
シッジーは、雛の泣き声が大きすぎたのを思い出し、眉間にシワを寄せる。
あれは公害レベルでうるさかった。
「とにかく、明日は土曜日です。学校はお休みですから、今度は街の方へ行ってみましょう。このシッジーが若者がたくさんいる場所を調べておきましたから」
「若者がたくさんいる場所?」
「ええ、大勢の人が集まっていたので、いいオシリと出会えるかもしれませんよ?」
シッジーの提案により、翌日人が集まる場所————大型ショッピングモールへ行った王子。
いつもの黒いパーカーに三本線のジャージ姿……という、おしゃれのかけらもない格好だったのだが、イケメンはそんな姿でも十分目立つのだ。
友達同士で買い物に来ていた女子中高生はもちろん、彼氏や夫と来ていた人もついつい二度見、三度見としてしまうほど、王子は輝いていた。
本人は一番人が通る通路に立ち、いいオシリを探していただけなのだが、そんなこと誰も気づかない。
これが、ごく普通のただの男であればやたら女性の尻を見ている変質者だと思われるだろうが、イケメンだとそうは思われないのだ。
「どうです、王子。いいオシリは見つかりましたか?」
「うーん……惜しいのはいるね。何人か服装でよくわからなかったけど————あ」
女性のオシリを観察していた王子は、ついにいいオシリを見つける。
しかし————
「————……あれ? 星野くん? なんでここに?」
「ヒナ!!」
それは偶然、母親と買い物に来ていた雛のオシリだった。
「あらあら……すっごいイケメン!! 雛、あんたの彼氏?」
「ち、違うわよ!! ただのクラスメイト!! 同級生!!」
「あら、残念。彼女は? 今彼女はいるの? いないなら、この子と付き合ってあげてくれない?」
「ちょっと!! ママ何言ってるの!!?」
「もう雛ったら……冗談よ! 冗談!! なーに本気にしてんの? あははは」
雛は顔を真っ赤にして怒っていたが、母親の方はニヤニヤと笑っている。
その母親のオシリも、なかなか良い形をしていて、王子は雛のこの素晴らしいオシリは母親譲りなんだなーと思った。
シッジーは、結局またこの暴力女かよ……と、呆れていたけれど————
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