第12話 ただしイケメンに限る(5)
無事に健診を終えて、教室に戻った雛は自分の席についた。
(はぁ……なんか、ものすごく疲れたわ)
ただでさえ、人とは違う強靭な肉体である雛にとって、健康診断や体力測定は色々と数値で出てしまうため、調整するのが大変なのに星野のせいで盗撮の手伝いまでさせられて……
いくら体力も凄まじい雛であっても、疲れを感じていた。
腕をだらんと力なく下げて、机に頬をくっつけて、ふと隣の星野の席を見る。
(早く星野くんのお嫁さん候補……見つけないと————)
戻って来ていない星野が、無事に健診を終えていることを願いながら、目を閉じて、雛はそのまま眠ってしまった。
しばらくして、比較的静かだった教室が騒がしくなるまでは————
「————……おい、星野ってやつはいるか!?」
どこかのクラスの男子生徒が、雛のいる教室に乗り込んで来たのだ。
ガラリと大きな音を立て、教室のドアを開けた彼は、かなり怒っているようだった。
その後ろにも、数人同じように怒っている男子生徒がいる。
(……え、何?)
彼らは盗撮犯として、教師たちに捕まった野球部の仲間だった。
「ほ、星野くんなら、まだ戻って来てないけど……? 星野くんが何かしたの?」
近くにいた学級委員が、恐る恐る答えると一番怒っている坊主頭は大声で言う。
「女子の盗撮をしてたのはあいつだ!! 間違いない!!!!」
(え……ええええええええええええっ!?)
「やったのは先輩たちじゃない!! 目撃者だっているんだ!! 星野って呼んでいた声も聞いた。逃げるよって……、女の声だった!!」
「そうだ、あいつが犯人だ!!」
「そうだそうだ!!」
(ど、どうしよう……!!?)
先輩たちが濡れ衣を着せられたのだと、彼らは主張する。
星野のせいで、盗撮が問題になれば大会に出場できなくなるかもしれないと言うのだ。
今この教室にいるクラスメイトは女子の方が割合が多い。
健診が終わって戻って来ている男子は、ごくわずかで、それもみんな気の弱そうな男子だけ。
同じクラスの男子は、自分たちは関わりたくないと彼らから目をそらしたが、女子たちは強かった。
「何よそれ!! 星野くんがそんなことするわけないじゃない!!」
「そうよ!! あの星野くんが、盗撮だなんて!!」
女子たちは星野を擁護する。
「あんたたち、ひがんでるんでしょ!? 星野くんがかっこいいからって、変な言いがかりつけようとしないで!!」
「星野くんなら、盗撮なんてしなくてもいくらでも女子の着替えくらい見れるわよ!!」
(え、えええええええ!? そういう問題!?)
「むしろ、星野くんにだったら見られたいわ!!」
「そうよ!! 星野くんにだったら……どんな姿だって————きゃーっ!!」
「ちょっと、やめてよ!! 変な妄想しないでよ恥ずかしい!!」
「何よ! あんただって、星野くんにだったら何されたって嬉しいくせに……」
「それはそうだけど……」
「星野くんになら、痴漢されてもいい」
「わっかるー!!」
しかし、次第に何やら変な方向へ妄想が膨らんで行き、盛り上がり始める。
怒っていた野球部員たちは、ポカーンと口を開けたまま呆然としていた。
頬を赤らめながら、きゃっきゃと妄想を話し合う女子たちを見て、雛は思う。
(イケメンって、怖い————……)
もう、野球部そっちのけである。
「な……っ!! ふざけんな!! イケメンなら……イケメンならなんでもいいのか!?」
一人勇気をだして、そうツッコミを入れた男子もいたが、女子たちは口を揃えて言い放った。
「「「いいに決まってるでしょ!?」」」
相当ショックだったのだろう。
野球部員たちは、しゅんと肩を落としながら帰って行った。
それと入れ替わるように、何も知らない星野が戻ってくる。
「お……? どーしまシタ? 僕のハナシ、してませんでシタ?」
「し、してないわよ!! 気にしないで、星野くん!!」
「そ、そうそう……ははははははは」
「……?」
教室に向かっている最中、何度か自分の名前を呼ばれた気がしたのだが女子たちがそそくさと自分の席に大人しく座る姿を見て、星野は首を傾げた。
その手には、盗撮映像が収められたスマホのような端末があったのだけど、誰も気づくはずがない。
(うーん……これなら、わざわざ盗撮なんてしなくても、頼めばみんなお尻くらい喜んで見せてくれるんじゃないの?)
雛は呆れながら、星野を擁護していた女子たちを見てそう思った。
「ん……? ヒナ? どーしましたカ?」
「……なんでもない」
(——……まったく、顔だけは本当にイケメンね。宇宙人じゃなければいいのに……)
机に頬をくっつけたまま、星野のイケメンすぎる顔を眺めている雛を不思議に思いながら、星野は席に着いた。
星野も真似をして机に頬をくっつけて、雛の顔を眺める。
「何見てんのよ……」
「ヒナだって……」
「…………」
見つめ返されて、雛は何も言えなくなった。
もし、星野が宇宙人だということを知らなければ、転校初日に殴り飛ばしていなければ、雛も他の女子たちと同じようにこの顔に騙されていたかもしれない————
そんな考えが一瞬、頭をよぎったが、雛は考えるのをやめた。
(くそぅ…………綺麗な顔しやがって!!)
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