第二章 ただしイケメンに限る
第8話 ただしイケメンに限る(1)
「ねぇねぇ、星野くん! こっち向いて!」
「きゃーっ!! 星野くーん!!」
「かっこいい……!! 星野くんイケメンすぎるんだけど!!」
イケメンというのは、すごいものである。
ただ顔がいい。
それだけで、積極的な女子たちは次々と彼に話しかけてくるし、すれ違っただけで目がハートになっている。
転校して来てからたったの三日目で、おそらく彼はこの学校の女子みんなから好意を持たれているのだ。
その中には————
「あらーずいぶんいい男ねぇ!」
「芸能人か何かかい? 綺麗な顔……」
購買のおばちゃんや、女性教師……さらには、一部男子生徒も、彼を見るとポッと頬を赤らめるのであった。
(みんな騙されないで……! この人、この星の人間じゃないから!! 宇宙人だから!! それも、女の子一人、星に連れて帰ろうとしてるからね!?)
雛は心の中でそう訴えたが、もちろんそんなことを口に出してしまったらアウトである。
星野が宇宙人であることは、絶対に言ってはならない。
それならやはり関わらないのが一番なのだが、雛はその宇宙人に拐われる候補を探すのを手伝う兼ボディーガードにされてしまった。
ようするに、うっかり星野が宇宙人だとバレないようにサポートしなければならないのだ。
もし候補が見つかる前にバレたら、雛は殺される。
「ちょっと、あの子なんなの? なんか、星野くんといっつも一緒にいない?」
「そうよね! それ、私もそう思った!!」
同じクラスで、隣の席。
さらに、移動するときも常に一緒にいる雛に気づき、そう言った嫉妬の念を向けてくる生徒も少なくはない。
せっかくできた友達とも、そのせいか距離を取られている感じがする。
雛の自分が怪力であることを隠して、普通の女子高生として過ごせていた平穏な日々は、うっかり星野の秘密を知ってしまったせいで、崩れ出していた。
(私だって、好きでこんなことしているわけじゃないのに……)
「ヒナ、どしマシタ?」
「……なんでもないわ。っていうか……その変な日本語やめてよ。普通に話せたでしょ?」
「ダメです。ここではソレ、言っちゃ」
星野はすっと雛の耳元に顔を近づけると、小声で言った。
「日本語ペラペラなのに、日本の常識を知らなかったら不審に思われるでしょ? いくら僕の星と言語が似てると言っても、知らない単語だって、別の意味で使われているものだってあるんだから」
「わわわわわわわかったわよ! わかったから、顔近づけないで!!」
雛は、ぱっと星野から離れる。
星野の息が耳にかかり、ぞわぞわっとして、一瞬で雛の顔が真っ赤になっていた。
さらに、ちょっと涙目にもなっている。
「おー……ごめんなさい、ヒナ…………もしかして耳、弱いデスか?」
「はぁぁ!? ばっかじゃないの!?」
周囲にいた生徒たちから、嫉妬の炎が燃え上がっているが、二人はまったく気づいていなかった。
「あ、ところでヒナ」
「な、なによ……」
そんな中、星野は転校した日に担任の渡辺から渡されたプリントを雛に見せる。
そこには、今月の行事予定が書かれていて、星野は明日の日程を指差した。
「明日の全校健康診断ってナニをするデスカ?」
「あぁ、それは……身長と体重を測ったり、視力とか聴覚とか————」
全校健康診断とは、全校生徒全員が受ける健康診断だ。
この高校では、それを丸一日かけて行う。
身長、体重、視力、聴覚、心電図等の他に、握力などの体力測定もあったりする。
雛は去年、握力をだいたい平均の女子くらいに調整するのにものすごく苦労した。
もし本気を出したら、測定器が壊れていただろう。
(————……あれ、ちょっと待って)
説明しながら、雛はあることに気がついた。
ついさっきまで真っ赤になっていた雛の顔から、急に血の気が引いていく————
「…………」
「ん? どうかシマシたか?」
急にピタッと止まってしまった雛に、星野は首をかしげる。
(血液検査もなかったっけ……? っていうか、そもそも見た目は地球人だけど、違う星の生命体なのよね? 星野くんって……)
「ヒナ……? ヒナ?」
「…………」
「おーい、聞こえてる?」
声をかけても雛が返事をしてくれないため、星野は屈んで雛をよくみようと顔を近づけたが、目を見開いたまま固まっているようだった。
(健康診断なんてしたら、宇宙人だってバレるんじゃないの!?)
まだ候補を探し始めてすらいなにのに、このままでは、シッジーに殺される。
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