第9話 ただしイケメンに限る(2)
宇宙——……それは無限に広がる、我々地球人にはまだまだ未知の世界。
そんな宇宙のはるか彼方の星から、彼らがこの地球へ嫁候補を探しに来たのは、地球人が一番近い生命体であったからだ。
そして、偶然か必然か、その中でも日本という国は言葉も似ていた。
だが、いくら外見が地球人に似ていようと、彼は宇宙人なのである。
それも、アノ
また、そんな異星の王子様がこんな宇宙開発の進んでいない地球にいるということが知られてしまえば、無知で野蛮な研究者に捕まってしまうかもしれない。
決して、星野がアノ星のホシャ・アノ王子であることは知られてはならないのである。
「————えー……明日の全校健康診断は何があろうと全員参加です。当日体調不良・忌引等の理由で休んだ場合、後日必ず受けてもらうからな……指定の病院で」
担任の渡辺は、まさか自分の生徒に宇宙人が一人紛れているなんてつゆ知らず、帰りのホームルームでそう言った。
雛は、明日は星野を休ませればいいと思ったが、そうなると病院で受けなければならなくなる。
(指定の病院って——————どこ!?)
街の小さな病院なら、なんとかごまかせるかもしれないが、もしも大きな病院だった場合、最悪の事態が起きかねない。
「先生、指定の病院ってどこですか?」
雛が不安に思っていると、別の生徒が一人手を上げて質問した。
渡辺はめんどくさそうに答える。
「そんなの、大学総合病院に決まってるだろ? ウチの学校から一番近いんだから……」
(お、終わった……)
「あー、それから、当然だが健康診断は男女別で行う。男子、お前らに忠告しておくが、女子の検査を覗くなよ?」
* * *
放課後、星野と宇宙船O1を訪れた雛がことの次第を伝えると、王子の夕飯の準備をしながら話を聞いていたシッジーは、お玉を持ったまま驚いた表情で雛の方を向いた。
「————全校健康診断?」
趣味で色々な星の料理の研究をしているシッジーは、地球の料理を研究中だ。
調理器具もホームセンターで買って来たようで、船内は今、カレーの美味しそうな匂いが充満している。
「はい、どうしたらいいでしょう? いくら見た目が似ているからって、色々調べられたら宇宙人だってバレちゃうでしょう? 血液検査とかもあるし……」
「いや、それほど違いは…………」
「え?」
シッジーはお玉を置いて————
「リポリポ」
と謎の言葉をつぶやくと、シッジーの前にA4サイズほどの画面が出現した。
(な、何これ!?)
カレーの匂いですっかりSF感が無くなっていたが、ここは宇宙船。
UFOの中だ。
今の地球上にはない宇宙技術がふんだんに使われているのだ。
全て光の粒子のようなもので構成されているタブレット端末のようなその画面を指でちょちょいと操作して、シッジーはとあるデータを雛に見せる。
「これは、この星の人間と呼ばれる生命体の平均的なデータと、王子のデータを比較したものなのですが……」
しかし、雛には読めない謎の文字で書かれていて、雛は顔をしかめる。
「あ、シッジー。これじゃぁヒナは読めないよ。日本語にしないと……」
「ああ、そうでしたね。王子のそういう気遣いのできるところにはこのシッジー感服いたします」
星野に言われてシッジーがもう一度何か操作をすると、みるみるその謎の文字は日本語に翻訳されて表示された。
「え……っこれって————」
そこに表示されていたデータは、人間とほとんど変わらないものであることが雛にもわかる。
人体を構成されている物質や、臓器の位置なども全て同じ。
違うのは脳の形が若干違うくらいだ。
「アノ星とこの星は、本当によく似ているんだよ。だからこそ、候補探しの地に選ばれたんだ。脳まで調べられたら、バレるかもしれないけど……どこまで調べるの?」
さすがに学校の健康診断で、脳まで調べることはない。
雛はホッと一安心して、明日の健康診断に望めると思った。
星野も、安心したような雛の表情を見て、ニコニコと笑う。
「脳まで調べたりはしないわ……そんな機械学校に用意できるわけないし——……病院ならそういうのあるけど。ちょっと制服脱いで身長測ったり体重測ったりするくらいだから」
「————……脱いで?」
「え、うん。だって、体重測るのに制服着たままじゃ重いでしょ?」
(こんなに人間とたいして変わりないなら、脱いだって構わないじゃない。何をそんなに気にして……————)
「この星の検査は、服を着たままじゃできないの!? 脱ぐの!?」
「え? 脱がないでできるの?」
アノ星の検査は、服を着たままできるのだ。
全身スキャンで、全てわかる。
それが普通で、実は星野は、男女別に行うと言う渡辺の発言の意味をよく理解できていなかった。
「じゃぁ、あのスカートってやつで全然形がわからないオシリが見えるんだね!?」
「えっ!?」
アノ星の王子の嫁候補探し……一番重要なのは、あくまでもお尻である。
「やりましたね、王子! これで候補探しが捗りますよ!! 堂々と女性の尻を確認できる!!」
(いやいや!!! そこまで全部脱ぐわけでもないし、男女別だってば!!!)
「本当にあの邪魔なスカートのせいで触らないとよくわからなくて……困っていたんだ。あ、もちろん今の所、一番いいオシリはヒナだよ?」
「はぁっ!?」
そんなことを、笑顔で言われても困る雛であった。
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