第7話 UFOと熊と変質者と転校生(完)


「————あの時の熊が、この人なの!?」


 全く見覚えのない初老の男に、いきなり怒られて意味がわからなかった雛は、驚きの事実を知った。

 一昨日、雛が殴り倒したあの熊がこの男だと言うのだ。


「私はただ、王子がこれから通われる学校への道に危険がないか見回っていただけなのに……それをいきなり……っ!!」

「いや、いや、待ってください!! この人が熊って、意味がわからないんですけど……!?」

「あー……このシッジーはね、見たものに擬態できるんだ。そういう星の生命体なんだよ」

「……み、見たものに擬態!?」

「うん、今の姿も本当の姿じゃない」


 星野の説明によると、この宇宙には様々な星があり、そこには色々なタイプの生命体がいるとのこと。

 シッジーのように擬態する能力を持っている宇宙人や、目がたくさんある宇宙人だったり、未来を予言できる宇宙人だっているそうだ。

 このジッシーの本当の姿は、地球の生命体で例えるならトカゲやワニが二足歩行しているようなものである。


「で、でも、だからって、どうして熊の姿で?」


(今みたいに普通に人間の姿をしていたら、私に殴られることも、熊が出たってニュースになるようなこともなかったと思うんだけど……)


「それは……なんかカッコよかったからだ!! 大きくて……」

「ええっ!?」


 なんでも、初めて地球に降り立った時、この山で偶然出会ったのが冬眠明けの熊だった。

 その熊も、急に見たこともないUFOと遭遇して、驚いたことだろう……。

 シッジーは熊が人間にとってどれだけ危険な動物かわかっていなかったのだ。


「とにかく!! 王子、このままこの暴力女をおめおめと家に帰すわけには行きませんよ!? この船のことも、我々がこの星の人間ではないことも知られてしまった以上……タダで帰すわけには」

「……じゃぁどうするって言うの?」

「殺すしかないでしょう」


(こ……殺す!?)


 シッジーは雛を殺す気満々だった。

 雛をキッと睨みつけ、いきなり殴られた復讐に燃えている。


「何言ってるんだ。ダメだよそんなの……ヒナは誰にもこのことを話さないって言ってるんだから、問題ないだろう?」

「甘いですよ王子!! 甘すぎです!! いいですか!? 王子はを見つけるまではこの星から出るわけにはいかないんです!!」


 こんな暴力女がそんな約束を守るとも思えないと、息巻くシッジー。

 星野は困った顔で、ちらりと雛の方を見た。


(えっ!? 嘘でしょ……私、やっぱり殺されるの!? 候補って何!?)


「いや、その……今のところ僕的にははヒナでいいんじゃないかと思ってるんだけど」

「なんですって!?」


 シッジーは星野の発言にハッと気がついて、雛の後ろに回り込んだ。

 そして、ジロジロと雛の尻のあたりを見つめる。


「…………王子、確かにふさわしいかもしれません。でも、こんな暴力女は私が認めませんよ」

「ええ、なんで?」

「なんでもです!! は一人しか選べないのです!! それをこんな暴力女でいいなんて、お父上も認めるはずが……————」

「あ……あのっ!!」


 なんだか雛を置いて、くどくどとお説教が始まりそうだったため、雛は話に割り込んだ。


「わ、私、絶対に言わないです!! 言わないって約束します!! あなたにも、謝罪します。何度だって謝ります!! 殴ってごめんなさい!!」

「謝って済む問題じゃないんですよ! 暴力女はちょっと黙って————」

「約束します! 約束しますから……こ、殺すなら、私が約束を破った時にしてくださ……い……っ……ひくっ」


 雛はまた泣き出してしまった。


「うわああああああああああん」


 それも、船内に響き渡るくらい大きな声を上げて泣いた。


「シッジー!! ヒナを泣かせるな!! やっと落ち着いて話ができてたのに!!」


 星野は眉間にシワを寄せ、シッジーを睨み付ける。


「そ、そんな、私は王子のことを思って……」


 普段あまり怒らない星野に怒られて、ショックを受けるシッジー。


「大丈夫だよ。殺さないから、落ち着いて……ヒナ。泣き止んで。ほら、これ飲んで」

「……ひっく……うん」


 星野はなんとか雛を泣きやませようと必死だった。

 先ほどのトンネルの前で泣かれたときもそうなのだが、雛の声は大きい。

 この小さな体のどこからそんな声量が……?っと、思ってしまうくらいだ。


 シッジーはそんな星野の様子を見て、ため息をつく。


「はぁ……わかりましたよ。王子がそのようなお考えなら、誰にも話さなければ殺しません。しかし、だからと言って、この女をに決めてしまうのはいくら何でも早すぎます……」


 少し冷静さを取り戻し、どうすべきか思案した後、シッジーは何かを思いついたようで、ポンと手を叩いた。


「そうだ! 良いことを思いつきましたよ、王子!」

「いいこと?」

「とりあえず、殺す話は一旦なしにしますね。その代わり、暴力女! えーと、名前は何だったかな?」

「ひ、雛です! 小鳥遊雛!」

「よーし、小鳥遊雛!! あなたは学校で王子の正体がバレないように見張りなさい!! そして、探しを手伝いなさい!! そうしたら、私を殴ったことは許しましょう」

「えっ?」


 シッジーの話によると、学校に行っている間、星野が宇宙人であることがバレる行動をとってしまわないかとても心配なのだという。

 かといって、シッジーが一緒に学校に通えるものでもない。

 円滑にを探すために、同じ学校にいる雛は適任だ。


「…………え、えーと、そのさっきから言っているって何のことなんですか?」


(話してる感じからして、星野くんが地球に来た目的って……このことだと思うけど……一体、何の候補を探しているの? それに、この人、さっきから星野くんのこと、王子って呼んでるけど…………)


「そんなの、王子のに決まっているでしょう!? 我々は、そのためにわざわざこの星へ来たのだから……」

「よ、嫁!?」

「で、どうしますか? やりますか、やりませんか? やらないなら、今すぐここで殺します。死体は人間の血と脳を好む輩も宇宙にはいますから、そいつらに売れば結構な金になりますし————」

「や、やります!! やります!! だから、食べないでぇぇぇぇ!!」


 こうして、雛は星野将輝——本名・ホシャ・アノ王子の嫁候補探しを手伝うことになった。


 しかも————


「あ、ついでに、王子の身辺警護もお願いしますね」


 ボディーガードとして。


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