第4話 UFOと熊と変質者と転校生(4)


(いやいや、待って!! そんな事ってある!?)


 転校生が宇宙人だった————なんて、信じられるはずがない。

 妖怪かもしれないと疑ったのも、ほんの冗談だ。

 本気でそう思っていたわけではない。


(UFOに見えるデザインの建物————そうよ、きっと、これは家なのよ!!)


 見たことのない巨大な物体ではあるが、そういうデザインの家だと思えば何もおかしなことはない。

 星野は海外にいたということは、きっと日本人の感覚とは違うのだと思うことにした。


 しかし————


「え……?」


 ————その巨大な物体は、急に姿を消した。

 雛の目の前で、透明になったのだ。


(ええええええっ!?)


 雛には、それが急に消えたようにしか見えない。

 いくら海外のデザインだとしても、そんなことができるとは思えない。

 マジックショーにしては、大掛かりすぎる。


(なによこれ……一体どうなってるの!?)


 その時、雛の脳裏を春休みに話題になったUFOの映像がよぎる。

 それは飛行機やヘリコプターでもドローンでもなく、鳥の動きとも違う動き。

 そこにあったはずの白い円盤のようなものは、一瞬消えたと思ったら、別の場所に出現し、また消えてを繰り返していた。


(ま……まさか————本当に?)


「にゃー」

「ふぇっ!?」


 唖然としていた雛は、急に猫の鳴き声が聞こえてきてビクリと肩を揺らす。

 UFOに驚きすぎて、いつの間にか雛の後ろに青い猫がいたことに気がつかなかった。


(猫……?)


 猫は雛のすぐそばを横切ると、UFOがあった場所まで優雅に歩いていく。

 そして、その猫も消えた。


「消えた……って、あれ?」


(さっき、星野くんが話しかけてた猫……あの猫じゃなかった?)


 気がついて、ゾッとする。


(————あの猫、もしかして宇宙人に改造されちゃう!?)



 とんでもないものを見てしまったと、雛は急いでその場から逃げ出し、暗いトンネルの中を全速力で駆け抜けた。

 途中ですれ違ったトンネルの幽霊にも気づかずに————




 ☆ ☆ ☆




「リポポポリポポ」


 ————キュイイイイイイン



 未確認飛行物体————宇宙船O1オーワン船内。

 この星を地球とする我々人類から見ると、確かにこの船はUFOである。

 それは今の地球人の技術では到底作り出すことのできない、地球に存在しない物質でできたこの船は、宇宙間を自由に行き来できる家でもあった。



「————王子!! どうされたのですか、そのお顔の傷は!! 制服もボロボロではないですか!!」

「大丈夫だよシッジー。ちょっと失敗しただけ……女の子を怒らせちゃってね」


 このO1の責任者ホシャ・アノ王子は、初めての学校を終えて少し興奮気味だった。

 執事であるシッジーは、せっかく用意した制服がもう汚れてしまったことや、綺麗な王子の顔に傷ができていて気が気ではないのだが————


「女の子を!? しっかりしてくださいよ、初日から何をなさっているのですか……」

「はは、ごめんごめん」

「すぐにお着替えください! そのようなお姿では、王子としての威厳に欠けてしまいます」

「わかったよ」


 シッジーに促されて、王子は制服を脱ぐとシッジーが調達してきた黒いパーカーと三本線のジャージに着替え、椅子に座った。

 この格好は身動きが取りやすく王子のお気に入りだ。

 この地球という星————特に日本という場所は王子たちの使う言語に酷似しているが、身につけるものの素材やデザインが違う。

 初めて着た時はそれがとても不思議で、少し怖かった。


「気をつけていただかないと困りますよ王子。大事なお身体なのですから……それで、学校とやらには、になりそうな女性は見つかったのですか?」

「うん、それが……同じクラスにいいのがいてね」


 王子は嬉しそうにニコニコと笑いながら、そのについて話す。


「偶然触っちゃっただけだけど、あまりにいいオシリだったから、撫でちゃったんだ。すごく怒られたけど…………」


 王子の星では、女性は顔や胸よりもお尻の形が重視されている。

 要するに、安産型のプリッとした立派なお尻である。


「それはようございました。しかし、この星では見知らぬ女性の尻を勝手に触るなどと怒られても仕方がないことですよ! 先日も、うっかり王子が確かめようとしたせいで警察沙汰になったのですからね!」

「だって、それは……スカートの上からじゃ形がよくわからなかったから」


 王子の星では、王子に尻を触られることは合法な上、さらに栄誉あることなのだが、そんなものは地球では関係ない。

 立派な痴漢行為である。


 言語と外見は似ているが、あちらの常識はこちらでは非常識だったり————

 優秀な宇宙航海士たちの情報により、地球に潜伏するため色々とデータを得てはいるが、まだまだわからないことは多い。


「それにしても、この星の女性はみんなあの子みたいに強いのかな? シッジーも殴られたんでしょ?」

「ええ、それはもう、角を曲がったら、たまたま出くわしただけなのに、腹に一発。まだ痛みます……それに、気づいたら車で運ばれている最中で……抜け出すのがいかに大変だったか」


 くどくどと昨日自分の身に起こった悲劇について語りながら、シッジーは汚れてしまった制服を備え付けの洗濯機に入れる。


「今度もしあの女に出くわしたら、絶対に復讐してやるのです!!」


 復讐に燃えるシッジー。


「ふーん。そうなんだー」


 自分で話を振ったくせに、すでにシッジーの復讐話には興味がなく、こっそり撮ったの写真をニコニコと眺める王子。


「にゃー」


 そこへ現れた青い猫は、王子の足元で何かを訴える。


「ん……? この船の前に誰かがいる?」

「にゃー」

「それは大変だ……! この船が見つかったら、宇宙問題になってしまう」


 王子は猫を抱きかかえ、すぐにモニターで周辺の様子を確認するが、誰もいなかった。





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