第3話 UFOと熊と変質者と転校生(3)
星野のまさかの発言に、雛はまた殴ってしまいそうになった。
だが、教室には他にも掃除のため残っている生徒がいて、その他にもイケメン転校生を一目見ようと他のクラスの女子たちが廊下からこちらを見ている。
そんなことできるはずがなかった。
「な……何言ってるの? そんなこと、どこの国でも無理に決まってるでしょ? 変な冗談やめてよ。あははは……」
まるで「もぉ、やめてよぉ」と笑いながら軽くボディタッチするあざと女子のような行動を取る雛。
雛が何を言われたかわかっていない他のクラスの女子からは、あいつ、イケメンと仲良くしやがって!という視線で見られたが、ここで殴り飛ばすよりはマシである。
(これ以上、この変態と関わっていたら危ないわ。できるだけ近づかないようにしなくちゃ……)
「ジョーダン? ジョーダンって何デスか?」
「へ? いや、だから、えーと、ジョークよ! ジョーク!」
(知らない単語だったのかしら……?)
「……?」
星野は首をかしげる。
日本語は通じなくても、片言でも英語なら通じると思ったのだが————
(もしかして、海外から来たって先生が言ってたから英語喋れると思ったけど、英語圏じゃなかった? フランスとか……? それか、アジアとか?)
「————星野くん、日本に来る前は、どこに住んでいたの?」
「……何を言ってるかわかりません」
「え……?」
「日本語、ムズカシイですねー」
星野の目は完全に泳いでいて、逃げるように次の机の椅子を降ろしにいってしまった。
雛は不審な目で星野の横顔を見る。
『何を言っているのかわかりません』と言っていたが、それはこれまでのおかしなカタコトっぽい日本語とは違い、とても流暢だったのだ。
(いや、今絶対わかってなかった?)
掃除を終えると、星野はすぐに教室を後にする。
雛にはそれが余計に、逃げられたように思えた。
* * *
(うーん、怪しい……)
雛と星野は、帰り道がほとんど同じだった。
二人の間に距離はあるものの、その驚異の身体能力で視力もいい雛は、前を歩く星野の行動が気になって仕方がない。
星野が変態で、関わるべきではないということはわかっているのだが、自らの好奇心には逆らえなかった。
それに帰り道でも星野はあまりにも怪しすぎた。
「えっ!? そんなことが!? それは大変デスね」
「にゃー」
「なるほどなるほど、ありがとうデス」
その辺を歩いていた青い猫に話しかけたり————
「そうなんデスか……頑張ります」
「カーカー」
電線の上のカラスに何かを誓ったり————
(意思の疎通できてる? いや、まさかね……)
さらに一番怪しかったのは、トンネルでの出来事だ。
そこはあまり人が近づかない、幽霊が出ると恐れられている不気味なトンネル。
通行止めの古い看板はあるが、それも上からスプレーで落書きをされているような行政からも放置されているような場所だ。
星野はそちらに向かって歩いていく。
(え、あの先って確か樹海じゃなかった……?)
雛の記憶では、あのトンネルを抜けた先には今は使われていない廃坑になっていると聞いている。
その先に道はなく、先にある樹海もあまりいい噂はない。
(ま、まさか!! 星野くんは幽霊!? 妖怪!?)
そんな妄想が雛の頭を過る。
(実は妖怪で、人間に紛れて生活しようとしているとか!?)
それは、ついこの間観た妖怪アニメの影響だ。
(この先に、妖怪の住処が!?)
星野は一度トンネルの前に立ち止まり、キョロキョロと周囲を確認するが、雛がさっと電柱の陰に隠れたためその存在に気づかずに、暗いトンネルの中に入っていった。
(本当に入っちゃった!!)
雛は電柱から離れて、そっとトンネルの中を覗き込んだ。
夕方ということもあり、出口の方も薄暗い。
星野の後ろ姿は見えた。
(これ以上離れたら見失うか……)
意を決して雛はトンネルの中へ。
そしてトンネルを抜けた先にあったのは————
「な……なにこれ……!?」
森の中に、見たことのない物体があった。
茶碗の上にもう一つ茶碗をひっくり返して重ねたような形の、白い巨大な円盤型の物体。
照明が鮮やかにチカチカと七色に光ったりしている。
それはまるで————
(————UFO!?)
トンネルを抜けた先にあったのは、妖怪たちの住処ではなく、明らかにUFOだった。
そして星野は、そのUFOに向かって普通に歩いていく。
「リポポポリポポ」
星野がそう言うと、プシューっと白い煙が出て、円盤から階段が降りてくる。
————キュイイイイイイン
星野は降りてきた階段を登って、円盤の中へ消えていった。
(ふえええええええっ!?)
彼は、妖怪ではなく、宇宙人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます