第5話 UFOと熊と変質者と転校生(5)


『————つまり、人間と宇宙人の間に産まれたヒューメイリアンってワケ』


 何というタイミングだろう。

 急いで帰宅した自宅のリビングでは、都市伝説の番組が流れていた。

 それも、UFOや宇宙人の話だ。


『もう宇宙人は普通に世界中にいるからね』


 怪しい黒スーツのタレントが、もっと怪しい外国人に直接取材をしたり、宇宙人に関する極秘資料なんかも公開されている。

 普段なら、胡散臭いなーと思いながら流し見する程度で雛はあまり興味がない番組なのだが、今の雛にとってそれは興味を持たずにはいられなかった。


『彼らの中には、何にでも擬態できる宇宙人ってのがいてね、人間に擬態してこの地球で暮らしてるってワケ————……要するに、彼らはこの星を支配しようとしているって話。人間の血液と脳が好物で————……』


(け……血液と脳!?)


『もし正体を知ってしまったら……わかるよね?』


(た……食べられちゃうの!? 宇宙人って、人間食べるの!?)


「このUFOが目撃された場所、あの樹海の近くだろ? 今度行ってみるか?」


 雛が夕飯も食べずにあまりに真剣にその番組を観ていたため、ソファーでビールを片手に観ていた父はそう提案する。

 父としては、最近あまり会話をしてくれなくなった反抗期かもしれない娘を気遣ってのことだった。

 そんなに興味があるなら、この父がそこへ連れって行ってやろうと……


「絶対ダメ!! 絶対ダメ!! 殺されちゃう!! 食べられちゃう!!」

「……そ、そうか」


 しかし全力で拒否されて、父はヘコんだ。

 娘とのコミュニケーションにまた失敗してしまった……と。


(見なかったことにしよう。うん、あれは見なかったことにしよう。そうしよう。そうしよう。うん)


 雛は生まれつきの驚異の身体能力で、熊でさえ素手で倒すような怪力の持ち主だが、幽霊や宇宙人のような未知の生命体————何者かわからない、触れることができないような存在がとても怖い。

 あのUFOのように、そこにあったはずの宇宙人が突然消えたりしたら、倒せる自信がないのである。



(星野くんは宇宙人だから……だからあんなにイケメンなのよ!! そうに決まってる!!)



 ガタガタと震えながら雛が自分の部屋に戻って行った時には、もう番組の放送は終了していて、ニュース番組に切り替わっていた。


『昨日、捕獲された熊が山に返すため護送中のトラックから行方不明になり————』




 * * *




 翌朝、雛はまた遅刻しそうになっていた。


「もう!! 何でこうなるの!!」


 昨夜あの番組を観た後、宇宙人に関する動画やらサイトを夜遅くまで観ていたせいである。

 関わっちゃいけないと思いながらも、怖いもの見たさ————というより、もし自分が星野は宇宙人だと気づいてしまったことがバレた時、どうしたらいいのかを考えたかった。

 そのせいで寝坊して、またこうして食パンをくわえたまま急いでいる。

 そして、段々腹が立ってきた。


(あんな宇宙人が転校してきたせいで! なんで、私がこんなにビクビクしなきゃいけないのよ!!)


 宇宙人のことを調べれば調べるほど、人間を家畜にするためだとか、人間と交配してこの星の人間を全員宇宙人にしてしまう計画だとか……地球人をさらって星に連れ帰ろうとしているとか————

 そういう都市伝説を知っていく度に、怖さを通り越してなんて勝手な奴らだろうという怒りに変わってきてる。

 結局、関わらないのが一番だという結論に至った。


 しかし————


「うわっ!!」

「きゃっ!!」


 また角を曲がった瞬間、ぶつかってしまう。

 あのやけにイケメンな転校生・星野に。


(う、嘘!? なんでまた……)


「大丈夫デスか? ヒナ」


 昨日とは違い、星野は雛を受け止めた。

 尻餅をついて痛い思いをすることはなかったが、顔を上げれば自分を見下ろす星野のイケメンすぎる顔が目の前に……


「危ないデスよ。また転んだらタイヘンです」


 そう心配そうに雛の顔を覗き込んだ後、視線を雛のお尻に向ける星野。

 さらに偶然なのか、わざとなのか、受け止めた際に星野の右手がちょうど雛のお尻の位置に。


「こんなにいいオシリ……大切にしないと。あ、ちょっと触ってもいいデスか?」

「なっ……なっ……!」


(関わりたくない……関わらないのが一番なのに————!!)


「いいわけないでしょ!! この変態宇宙人!!」


 つい怒鳴ってしまった。

 それも、この近所中に響き渡るほどの大声で————



「ウチュージン?」

「……あ」


(し、しまった!! つい口が————!!)


 もう遅い。


「ヒナ、ちょっと向こうでお話ししようか」


 カタコトの変な日本語だった星野の口調が、急に流暢に変わる。

 星野はニコニコと笑ってはいるが、雛にはそれがものすごく怖かった————




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