26話 誰も触れない二人だけの国(※監禁)



 通学途中、義姉のアーネ氏によっていずこへと連れて行かれた。気づいたら、黒塗りのベンツから、いつの間にか豪華な部屋のなかにいた。


「こ、ここは……?」

「……起きた、ちゃー?」


 アーネ氏が台所からスタスタと近づいてくる。どうやら私はソファに寝かされていたらしい。


「……ここは、愛の巣」

「あ、あいの……す、ですか」


「……そう。ちゃーとワタシ、ふたりだけの国……」


 テーブルにマグカップを置くと、アーネ氏が真横に座る。ぴったりとくっつくように座っている。というか、押しつけてくる、おっぱいを……。


「あ、アーネ氏。お胸が当たっております」

「……いいの。当ててるから♡」


「淑女としてそれはどうかと……」

「……外ではおしとやかだよ。ちゃーにだけえっちになるの♡ ちゃーにはいっぱいえっちなことしたいの♡」


 すりすりと頬ずりしてくる。まずい。私の中の力が暴走しかねない。説得ワカラセが発動してしまう! 静まれ!


「アーネ氏……まず、落ち着きましょう」

「……わかった」


「わかってくださりましたか」

「……ちゃーが落ち着いてって言うなら、その通りにする。何でも言うこときく。ちゃーに従うのがうれしい。気持ちいい。幸せな気分になるから」


  ……これは不用意に発言できないな。うっかりチャラ語で妙なこと言ったらほんとに実行しかねない。沈黙は金。だが状況をまずは把握せねば。


「アーネ氏。私はつい先ほどまでベンツの中にいたはずだったが、ここは?」

「……ちゃーと暮らすための、マンション」


「ほう、マンションですか。いつの間に」

「……昨日買った。ちゃーと二人で暮らしたいから。来日に合わせて」


 姉の行動力に私は脱帽させられる。


「ち、ちなみにこのマンションはどこにあるのです?」


 するとアーネは、しっ、と唇の前に指を立てる。


「……ひみつ」

「いや秘密って……」


「……だって必要ないもの。外のことなんて。ちゃーは、ずぅっとここで二人で、暮らすんですもの」


 つつ……と背筋にいやぁな汗が垂れる。


「あ、アーネ氏? ずぅっとって? いつまで?」

「? 死ぬまで」


「あ、あはは! いやだなぁアーネ氏ぃ! 冗談がきついですぞ!」

「? 冗談じゃないよ。ちゃーはここでずぅっと暮らすの。もうお外にでちゃいけません」


 ……我が姉は、どうやらピアニストとして海外に飛んでいた時間が長いからか、どうやら日本での常識が少々かけているらしい。


「アーネ氏、それは日本では、監禁……というのですぞ」

「……うん。知ってるけど?」


 だから何って顔されてしまった!


 私は慌てて、窓のそばへと向かう。だが……ガラス張りの大きな窓は、真っ黒に塗りつぶされていた。


 走って玄関へと向かう。扉を開けようとするが、がちゃがちゃ、とハンドルをいくら動かしても、あかない! なんだこれ!?


「……ちゃー。どうした?」


 振り返るとアーネ氏が不思議そうに首をかしげていた。


「あ、アーネ氏……外に出たいのですが……」

「……うん。いいよ。ついてきて」


 よ、よかった……そうだ。まさかね。現代日本(正確には違うけど)で、監禁なんてしないよねーっと思いながら私はアーネ氏の後をついて行く。


 そこはベッドルームだった。


「……座って」

「あ、アーネ氏? 外に……」


 するとアーネ氏は、VRゴーグルを取り出して、私の頭に乗っける。


「こ、これは……?」

「……VRギア、だよ」


 説明しよう。VRギアとは、かぶることで仮想現実を楽しむことができる、超最新鋭のゲーム機である。


 この俺なじの世界では、VR技術が、私のいた世界より発展してるのである。ゲームの中でゲームができるとは。


「ぶ、VRギアを使って……なにを?」

「? お散歩したいんでしょ」


「い、いやいや、仮想現実じゃなく、現実の、お日様の下で歩きたいのですが……」


 するとアーネ氏はゴーグルを外して、表情を変えずに言う。


「……だめ」

「え?」


「……ちゃーは、だめです」

「だ、だめとは……?」


「……お日様のもとに、出すわけにはいきません」


 悲報、私、捕まっちゃいました。


「あ、アーネ氏? これは犯罪……」

「……大丈夫。愛があるから」


「いや確かに愛はありますがしかしこれは……」

「……大丈夫。マンションから出ないなら、何してもいいから。ワタシ、束縛するタイプのカノジョじゃないから」


 今現在進行形で超行動を制限されてるのですが!? え、ギャグ? アーネ氏なりのジョーク? え、本当に私このまま監禁エンドですか……!?


「……ご飯も、お風呂も、トイレも、好きにしていいよ。この中で過ごすんだったら。ネット見て、だらだらごろごろ、ずぅっと過ごしていい」


「し、しかし生活費は……」


「……だいじょうぶ。ワタシ、ピアノでもうけてお金いっぱいあるから。ちゃーは、なぁんにもしなくていいから。ワタシがちゃーを、死ぬまで養うから」


 覚悟の決まった顔でアーネ氏がそういう。


「し、しかしさすがにそれは気が引けるというか……」


 それではまるで、紐ではないか。


「……大丈夫。ちゃーには、いっぱいめーわくかけたから。去年、いっぱい、傷つけちゃったから」


 ぐいっ、とアーネ氏が私を押し倒す。おなかの上に馬乗りになっていた。


「あ、姉上……?」


 ぐいっ、とアーネ氏が着ていた服を、上半身だけ脱ぐ。ぷるん、と大きな、形のいいおっぱいが揺れる。


「……去年は、ちゃーを、いっぱいいっぱい、傷つけた。だから……これは贖罪。ちゃー……」


 彼女は私の手を取って、そのまま自分のおっぱいに、ぐにゅっと握らせる。


「……ワタシはあなたに尽くす。ワタシの全部を上げる。お金も、生活も……この体も。ぜぇんぶ、ちゃーが好きにして、いいんだよ♡」

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