25話 姉も病んでる



 私こと渋谷チャラオはある日、登校の途中で、謎の男に拉致された。このまま東シナ海あたりにうち捨てられるのかと危惧した私の前に現れたのは、1つ上の義理姉、渋谷アーネだった。


「あ、姉上……久しぶりです」


 私は黒塗りのベンツのなかにいる。となり座っているのは、銀髪の麗しい美少女。


 サファイアのような美しい、青い瞳。長くつややかな銀髪。そしてママコ氏に引けず劣らずな大きな乳房。


「……ちゃー。……久しぶり」


 ちゃー、とは私の愛称だ。アーネ氏は私をぎゅっと抱きしめてくる。自分の胸に私の頭を乗せてくる。


「あ、あのぉ……当たるのですが……」


「?」


 不思議そうな顔で、アーネ氏は尋ねてくる。


「……当ててるのよ?」

「あ、そうですか……し、しかし婦女子がそのような、破廉恥な行為をするのはいかがなものかと」


 アーネ氏はとびきりの美人。こんな姿、誰かに見られたら、そいつに闇討ちされること間違いなしだ。すぐに離れてほしいのだが……。


「……彼氏といちゃつくのに、破廉恥も何もないでしょ?」

「いや彼氏って……姉上、私は別にあなたと……」


「……ちゃーはワタシの。ワタシは、ちゃーのもの。あいたかった……」


 ぎゅっ、とアーネ氏がワタシのことを抱きしめてくる。少々、不思議ちゃんなところのある姉なのだ。


「……ちゃーは、会いたくなかった?」


 悲しそうな瞳で私を見下ろしてくる。それは、ない。


「会いたかったです姉上」

「……そう♡」


 アーネ氏は顔を近づけてきて、ちゅっ、と私の唇にキスをする。


「……ワタシもあいたかった。ずっとずっと、会いたかった」


 ちゅ、ちゅ♡ とついばむようなキス。今に始まったわけじゃない。このお方は、私が引き取られてからずっと、過度なスキンシップをするようなかたであり、それが当然だと思ってるのだ。


「あ、姉上……キスはその……」

「ちゅ♡ んちゅ♡ ちゅ……♡ ちゅぅ……♡」


 アーネ氏のキスは止まらない。唾液で顔がベタベタになる。でも不快感はない。甘い……唾液に味があるのではないかと錯覚してしまう。そして熱い……熱いキス。すぐ近くにある彼女の整った顔つき。クールな印象を受ける彼女が、情熱的なキスをしている。そのギャップに私はくらくらしてしまう……。


 い、いかん! だめだ!? これ以上は! 説得してしまぅううう!


「あ、姉上! 離れてくだされ!」


 私はアーネ氏を押し返す。だが勢いがつきすぎて、私は彼女をソファに押し倒す形になってしまった。ソファに銀髪が、扇状に広がる。うすいワンピースの向こうには、たわわに実った柔らかな乳房があって、重力を受けても少し横にたれていた。


「す、すみません……」

「……ん。いいよ。きて、ちゃー」


「い、いいというのは?」

「……セックス。しないの? いいよ、ちゃーに抱かれたい。むしろ、抱いて。初めて、もらってほしい」


 ……なんともストレートすぎるものいいだった。アーネ氏は昔からちょっと変わったところがある。ずっとこういう態度なのだ。


「あ、姉上……婦女子がそんな言葉を使ってはいけません」

「……変?」


「変です」

「……ちゃーも変。なんかしゃべり方が変」


 アーネ氏も本編に登場するヒロインだ。去年は強制力があって学生をやっていた。しかし強制力のくびきから解放された彼女は今、本来の仕事に戻っている。


 そう、世界的ピアニストとして、活動をしているのだ。


 まあそれはさておき。


「……しゃべり方へんだけど、ちゃーはちゃー。ワタシの大好きなちゃー。ね……して? ワタシの体で、気持ちよくなって?」


 渋谷アーネは、本編でもこういうちょっと不思議ちゃんプラスえろいお姉さんキャラだ。今向けている感情を、ミナトに一時期向けていた。


 でも本編が始まる前は、すごいブラコンで、いつもキスしたりハグしたりしていた。そこには男女としての好意が……あったのかわからない。でも……。


「姉上。それはできませぬ。我々は姉弟です」


 私はあくまで、弟としてのスタンスを貫く。私がヒロインに関わると、ヒロインの人生を破壊しかねない。私の持つ力は……そういう魔力を秘めているから。


 ヒロインたちをみな愛してる。愛してるからこそ、私のこの力で、運命やら性格やらをねじまげたくない。彼女たちはありのまま、幸せでいてほしい。


「……? 姉弟で、セックスするのって、なにか……変?」


 ……私の思いとは裏腹に、アーネ氏はいけいけどんどんだった。


「……だってセックスって愛する人同士でするんでしょう? ならいいじゃない。ワタシはちゃーを心から愛してる。ちゃーも好きでしょ?」


「そ、それは……確かに好きです。で、ですが姉上、その好きは家族としての好きであって……」


「……ちゃーの言ってること、難しくてわからない。でも……」


 アーネ氏はぐいっ、と体を起こして、私を押し倒す。


「……ここは、正直だね♡」


 つつぅ、とアーネ氏が私の股間の紳士(※隠語)をチャーグルしてくる(※隠語)。


「あ、姉上!? それはいけませぬぞ!」

「……ふふ♡ いけないってなぁに?」

「ああいけません! それをつかんではいけません! あー! いけません姉上ー! あー!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

★アーネ視点


 ワタシは渋谷アーネ。名前なんてどうでもいい。大好きなちゃーのお姉ちゃん。これ重要。これだけが重要。


 ピアニストやってる。なんか才能があった。別にこんな才能なんていらない。でも周りがワタシをほっとかない。


 ある日お母さんがピアノの先生を呼んできた。ワタシが適当に弾いた。さっさとチャーと遊びたかった。チャーは好き。好き好き。大好き。


 ずっとそばにいてほしい。チャーは世界。チャーは宇宙。ワタシにとっての大切な大切な人。絶対に手放したく人。


 でもピアノの先生に演奏を披露してから世界が変わった。ワタシはあれよあれよという間に天才と呼ばれるようになった。そんなのどうでもいいのに。


 でもワタシは考えた。チャーを養うためにはお金がいる。


 ワタシの夢。

 それはとてもささやかなもの。


 地下シェルターつき一戸建てを買って、チャーと永遠に暮らすこと。


 シェルターは結構高い。個人では買えない。でもワタシのピアノは金を生むらしい。だからピアニストとして頑張ることにした。


 頑張って金を稼いで、チャーを養ってあげるの。地下シェルターつきのおうちで、朽ち果てるまでずっとずっと二人きりで過ごすの。うふふ♡


 ……ああ、一時期ちょっとワタシ、変になっていたけど。でも今は正常に戻った。チャーしか見えない。チャーを愛してる。チャー。好き。好き……♡ 大好き……♡ 


 チャーを閉じ込めたい♡ チャーを独り占めしたい♡ チャーのすべてがほしい♡ ちゃーの体も、せーえきも、ちゃーの子供も、ぜぇんぶワタシのものにしたい♡


 チャーの心も体も、ぜぇんぶほしい♡ ああ、好き……好き……♡ 大好きだよ……ちゃー♡

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