3章
24話 来日する姉
……ママコ氏におぼれた翌日。私はゆっくりと目を覚ます。
「……見知った天井である」
ごきげんよう、渋谷チャラオだ。先日は暴走するスキルに翻弄され、私は酷くメンタルをブレイクしていた。そこでママコ氏が私をケアしてくれたおかげで、なんとか立ち直ることができた次第。
「着衣の乱れも見られぬ……よし!」
ママコ氏を私の毒がにかけずに済んだようだ。ヒロインと二人きりだったのだが、違いが分からん……。
ともあれ深い眠りについた私は、いくぶんか頭がスッキリしていた。
「これからは……頑張らないと。より一層」
私は主人公としてのロールを負っている以上、このままではいけないし、うずくまったままでもいけない。
「サポーター氏」
『是』
窓際で寝転がっていた三毛猫サポーター氏が、私のベッドの上に乗ってくる。
「サポーター氏。昨日聞けなかったことを聞きたい。私のスキルについてだ。私は自分で使う意思を見せなかった。なのに
『解。
「
『運営に敵対する個体ユニットのことです。渋谷チャラオに干渉し、その動きを強制したのです』
つまりその走狗とやらのせいで、私は望まない説得をしてしまったわけか。
「走狗は、誰なのだ?」
『解。現状不明』
「不明?」
『是。運営側も把握しきれていない様子』
……上も理解してない謎の敵。このまま放っておけば、私はまたヒロインに手をかけてしまうだろう。
「となれば、私のするべきことは一つだな、三毛猫サポーター氏」
「みゃー」
「みゃー? どうしたのだ、サポーター氏? これからの作戦を聞いてくれ。私はまずその
「みゃーん」
「聞いてるのか? 冗談ではないぞ、これは急を要する自体……はっ!」
私は振り返る。そこには、生暖かい視線を向けるママコ氏がいた。
「ご、ご
私の義理の母、渋谷ママコ氏がそこにいた。
「ち、違うのだ! これは決して、頭がおかしくなったとかではなく!」
するとママコ氏はすべてをわかったような、優しい笑みを浮かべると、私をハグしてくる。
「おはよ、ちゃーちゃん♡」
「ご母堂……」
柔らかい。とほうもなく柔らかな体と甘い匂いに、私は溺れてしまいそうになる。このままずっとママコ氏にすべてを委ねて……。
はっ! い、いかんいかん。
「おはようご母堂。昨日は、見苦しいところを、申し訳ない」
「ううん、いいのよちゃーちゃん♡ これからもいーっぱい頼っていいんだからね♡」
「しかし迷惑なんじゃ……」
「迷惑なんてとんでもないわ♡ いいのよ、いっぱい頼って。家族じゃないの」
「ご母堂……」
なんと優しい人であろうか。思えば孤児になってしまった私を無償で引き取ってくれたのも彼女だ。
彼女の……愛。とてもつもない広い心に、私は……。
「ありがとう、ございます」
あまり、過剰に近づかないように、けれど、家族として、接することを決める。あまり彼女に頼り切りになってしまっては、自分が駄目人間になってしまう予感がした。
それくらい、ママコ氏の魔力はすごいのである。
★
朝食を食べた後、私はママコ氏と一緒にマンションを出る。
「そういえばアーネ氏は最近見かけないが、元気にしておりますか?」
アーネ。渋谷アーネ。私の義姉のことだ。彼女はとある事情で、日本を留守にすることが多い。
「そうね。またどこかのコンサートで賞をとったそうよ」
「ほぅ……それはすごい」
我が姉上は才気に優れる傑物なのである。ふと見上げると大きな看板があった。
鍵盤の前に座るアーネ氏が映っていた。銀髪のロング、スタイルバツグン。そして……才能。
容姿と才能に優れた凄い人なのだ。
「コンサートが終わったというのなら、そろそろ帰って来る頃合いだろうか」
「そうね」
「また家族で食事に行きたい物である」
「そうね」
……ママコ氏は、自分の娘のことだというのに、あまりリアクションを示さない。うーん、どうしたんだろうか。
私たちは信号待ちをする。そして……歩き出そうとして……。
ききー!
「え?」
ばたんっ!
ばたたたっ!
「渋谷チャラオ様ですね」
私の前には、黒服を着た大男が急に現れた。
背後には黒塗りのベンツ。
「は、はひ……」
実に情けない、生まれたての子鹿のごとき声音で応える。
「ご同行願います」
「ふぇ……?」
実に情けない、赤子のごとき(以下略)
「ちゃーちゃん!」
「ご、ご母堂……」
私は大男に連れられベンツにねじ込まれると、そのまま車が凄いスピードで走り出す。
あっという間にママコ氏が見えなくなる……。
「あ、あの……これは……いったい……」
すると……ふわっ、と誰かが私を優しく抱きしめてきた。
「……ちゃー。久しぶり」
「あ、姉上……」
黒塗りのベンツの中に居たのは、美しき姉、アーネ氏だった。
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★ママコ視点
ぬかった。大事なちゃーちゃんが、ほかの女に取られた。
私たちの蜜月を邪魔した不届き物。それは、私の娘、アーネだった。
黒塗りベンツの奥に、ちらりと見えた銀髪。あの子め、わたしの大切なちゃーちゃんを拉致して、一体何をする気かしら。
「……まあ、独占する気でしょうね。でも、爪が甘いわ」
私はスマホを取り出す。最近のスマホは便利ね。いろんなアプリがついてるのですもの。
「ちゃーちゃんに仕掛けてあるGPSをたどれば、一発で場所がわかるものね」
愛する息子がいつ連れ去られるかわからないのどから、母として、居場所を特定するため、GPSを仕込んでおくのは当然よね?
まあちゃーちゃんはそんなもの知らないけど。だって知られてしまったら意味ないから。
「さて。アーネ。わたしを出し抜いたつもりでしょうが、ふふ。無駄よ。すぅぐそこへ行くから、首を洗って待ってなさい。ふふ、うふふふふ」
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