16話 豹変チャラ男に戸惑うクラスメイトたち



 フウキ先輩と別れたあと、私は教室へと向かう。ここ、私立アルピコ学園(変な名前だ)が私の通う学校である。


 なんでも、制作者のひとりの母校から、そのまま名前を拝借しているらしい。権利的に問題ないのだろうかそれは……。


 アルピコ学園2-A組。そこが、私の通う教室だ。こないだは入学式だけだったので、今日から新体制での、新しい教室がスタートする。私は期待に胸を膨らませながら扉を開ける。


「皆の衆、おはよう」


「「「!?」」」


 私が教室に入った瞬間、クラスメイトたちの視線が突き刺さる。なぜか全員そろって、鳩が豆鉄砲くらったような顔をしていた。


「おはよう」

「お、おは……よ……?」


 驚きにみちみちた教室の奥へと進んでいく。私の席はどうしてか一番奥の窓側で会った。こういう時普通は出席番号順だろうが、しかし気づけば後ろだったのである。


 これも強制力のなす技だろうか……。


「ふむ?」


 私の周りだけエアポケットができたように、席と席の間に空間が空いていた。ふむ……これは……。


『問。これはどういう状況でしょうか』


「うぉう!」


 窓側を見ると、さんの部分に三毛猫サポーター氏が座っていた。


「なぜここにサポーター氏が……?」


『解。わたしはサポートAI。渋谷チャラオのサポートを行うのが仕事です』


 なるほど、サポーター氏がそばにいやすいように、私の席が窓際の一番後ろにされたという訳か。


『問。なぜ周りの生徒たちが渋谷チャラオと距離を取っているのです?』


「ああ、多分それは……」


 私を見るクラスメイトたちの眼が……なぜか、ほっとしていた。


「……よかった、いつものチャラオだ」

「……良かったぁ、なんか入ってきたとき別人かと思ったよ」


「……よかった、やっぱチャラオと奇行セットだもんね」


 ……とまあ、こういうわけである。


『是。渋谷チャラオの教室での立ち位置が、奇行を繰り返すぼっちだと判明しました』


 やめていただきたい、その不名誉な認識……!


『告。称号【ぼっち】を獲得しました』


 そんなふめいよな称号は即刻破棄したい……!


 ……とまあ、冗談はさておき。その通り。私、渋谷チャラオの学校での評価は、奇行を繰り返す変人なのだ。


 金髪、急にうぇえいとか言い出す、そして風紀委員にしょっちゅう呼び出される。そんなクラスメイトがいたらどう思う?


『解。変人』


 その通り。ゆえに私の教室での扱いは、自然と、そうなってしまったのだ……触らぬ神に祟りなしと言えばいいか。みんなあまり関わろうとしないのである。


 ちなみに皆が最初に驚いていたのは、私が急に髪の毛の色を黒く染めて、服装もちゃんとして、そして言葉遣いが直っていたことを起因とする。


『問。つまり普段からチャラ男だった人間が、急に真面目になったことで、皆戸惑っているという認識でFA』


 FA? ……ああ、ファイナルアンサーか。うむそのとおりである。


 ……って、あれ? サポーター氏と私、声に出してないで会話できてる。


『告。サポートAIとの会話は、一定範囲内であれば、脳内での会話が可能です』

 

 ……それはもっと早く言って欲しかったのである。ナジミにしても、みなにしても、猫とフレンドリーに話す変人扱いではないか。


『告。既に遅いかと』


 ううむ……反論できない!


「チャラオ。大丈夫だったの?」


 ナジミがいそいそと私の元へとやってきた。

「ああ、問題ないよ。心配かけて悪かったね」


「よかったぁ~……」


 ほぉー……と安堵の息をつくナジミ。彼女には不安がらせてしまって申し訳がない。


「……あれ? なんで大田おおたさんとチャラオが?」


「……なんか仲良くね?」


「……どうしたんだろう、港くんの彼女だよね?」


 ざわ……と周囲がざわつく。皆からの注目が、私に浴びせられる。それはそうか……。港ミナトと、大田ナジミが付き合ってることは、去年同じクラスだったら知ってることだろう。


 2-Aには去年と同じクラスメイトが、ちらほら見かける。彼らからすれば、急に私とナジミが仲良くなっているのを見て、戸惑っているのだろう。


「にーさーん♡」


 そこへくわえて、私の義妹こと渋谷マイが、笑顔で手を振りながらやってくる。


「「「!?」」」


 マイもまた、同じクラスなのである。


「……ああ、びっちも一緒か」

「な、なによ! びっちじゃないし!」


 がるるる、とナジミがくってかかる。一方でマイはすました顔で、私の腕に抱きついてきた。


「えへへ♡ 兄さんとまた一緒のクラス♡ とてもうれしいです♡」


 同棲しようと来たマイであったが、一度家に帰るように説得したのである。ゆえに彼女は、私とナジミが付き合うことになったことは知らない。


「あ、ああ……マイ。実は君にあとで話があるのだ」


「話し……? 婚約のお話でしょうか?」


 なぜそうなる?


「いや、重要な話しというか……」


 すると……。


「あ、アタシとチャラオ、付き合うことになったから」


 ピシッ……! と教室の空気が固まる。


「な、ナジミ……く、空気を。空気を読んで……ほら……」


「あ」


 しまった、とばかりに口を大きく開くナジミ!


「……ど、どういうこと?」「……ミナトと付き合ってたんじゃ?」「……チャラオと付き合う!? まじで!?」


 ああ、クラスメイトたちからの視線が!


「……へえ」


 マイは極低温の声音と、ブリザード並みに冷たい目線を、ナジミに向ける。


「……面白い冗談ですね。愛しいお兄様が、あなたごときびっちと? 一緒に付き合えるわけないじゃないですか」


 猛烈に嫌な予感がした。

 私は止めようとした。だがナジミが……。


「び、びっちじゃないし! しょ……じょでも、ないけど……」


「「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」」」


 ナジミ……もう少し君は、思ったことを口に出さない訓練をしてくれたまえ!


「……ほぅ」


 マイがぶち切れ、クラスメイトたちは驚きまくり……私、困惑。ああー……平穏から遠ざかっていく音ぉ~……。

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