15話 風紀委員長もヒロイン
ママコ氏と別れた私は、ナジミと供に学校へと向かう。
「あたし……おばさんに嫌われてるのかしら」
私の隣を歩くナジミがぼそりとつぶやく。浮かない顔の彼女を見ているとやるせない気持ちになってくる。
「すまない。母は少々子供に対する愛情が過剰で……おそらく私と付き合うことになったからか、ちょっと怒ってるのだと思う」
「だよね……どうしよう……」
思い詰めた表情のナジミ。
「だって……将来の
「え? なんだって?」
「い、今の無し! き、気が早かったわね……うん……ごめん……」
途中でナジミの言葉が妙に聞き取りにくくなったような……。
『告。パッシブ・スキル【難聴】が発動しました』
「うぉ!」
急にサポーター氏の声が聞こえてきた。周囲を見渡すと、塀の上に愛らしい三毛猫が座っていた。
「ぱ……」
パッシブ・スキルとはなんぞや、と思ったがここで会話するのは悪手だろう。隣にナジミが居るし、ここは天下の往来だ。猫と仲良くトーキングしたら不審者扱いされるだろう。それは避けたい。
「どうしたの?」
「いや、何でも無い……学校へ向かおうか……」
しかしパッシブ・スキル、か。ネットゲームなどでは、自分で制御できない系のスキルだった気がする。
スキル。これは中々に厄介だ。なにせ、原作の俺なじには無いシステムだったから。どうしても対応が後手に回ってしまう。
……それに、称号についてもわからない。【エロゲー主人公】を得た私。そしてメロメロのナジミ。どんなスキルをゲットして、発動したのか、わからない。
「わからないことほど、わからないことはない……」
家に帰ったらサポーター氏に色々と聞かねば。いつの間にかサポーター氏も消えていた。
そんなこんなあって学校に到着。
「げ、校門の前で荷物チェックしてる……チャラオどうしよう……」
「む? 本当だ。……あそこにいるのは、【フウキ先輩】ではないか」
凜としたたたずまいに、お下げの緑色の髪。つるりとしたおでこに眼鏡という、いにもな風紀委員キャラ。
彼女は【品川フウキ】先輩。3年生の先輩キャラだ。
……まあ風紀委員なのにその髪の色はどうなのという突っ込みは野暮である。ここはギャルゲーの世界。日本人ではあり得ない髪の毛の色も許容される場所だからな。
「そこのおまえ、マンガ雑誌は学校に不必要だ! 没収!」
フウキ先輩が男子生徒からマンガ雑誌を奪い取る。
「ひ、ひでえ……」
「なんだ? 貴様、風紀委員に逆らうのか?」
じろり、とにらみつける先輩。生徒は萎縮してすごすごとマンガを提出。
校則を守って、地味な見た目をしている彼女だが、その眼光は鋭い。男子が相手だろうとズバズバと物を言うキャラクターである。
そして彼女品川フウキ先輩もまた、ヒロインであり、去年はミナトに惚れていた人物である。
「次……! む、大田ナジミ……と、誰だ貴様?」
じろり、とフウキ先輩が私をにらんでくる。
「見覚えのない生徒だな」
「あ、いや……品川先輩。私です。チャラオ。渋谷チャラオです」
「は……?」
フウキ先輩が目をむいている。
「じょ、冗談……だろう? 渋谷……チャラオだと?」
「はい。正真正銘、渋谷チャラオです」
「? ?? ???」
先輩が困惑していた。無理もない、以前の私とは、かけ離れた見た目をしているから。
じっ、とフウキ先輩が私に顔を近づけてくる。分厚い眼鏡にお下げ、そして肌の露出を見せない見た目。だが眼鏡の奥には綺麗な瞳があった。
「し、渋谷……貴様……なのか?」
「いかにも渋谷チャラオである」
フウキ先輩が目線をそらして、だが……ぎゅっ、と目を閉じる。
「こい、渋谷。貴様には直接指導せねばならぬことがあるのでな!」
ぐいっ、と先輩が私の手を引っ張る。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
ナジミがフウキ先輩を呼び止める。じろり、とフウキ先輩がにらみ返す。すごまれて……ナジミが一歩後ずさる。
「なんだ? わたしは渋谷に用事がある」
「べ、別にチャラオは校則違反してないじゃない……」
反論する声が小さくなる。それはそうだ。男子生徒すら萎縮してしまう、風紀委員長様なのだから。怖がってしまうのも無理からぬ話だ。
「ナジミ。大丈夫だ。すぐに教室へ行く」
「うう……わかったわ。何かあったら連絡してね!」
私はフウキ先輩に連れられて、人気の無い場所までやってきた。
さて。
「渋谷……」
彼女は……私の前で跪いて、スッ……と頭を下げる。
「すまなかった……! 渋谷……!」
私の前で、土下座してきた。……どうにも私はDOGEZAと縁があるようだ。なに、土下座属性でも出てるの?
「いきなりどうしたのです、品川先輩」
「君に、去年は理不尽な暴力をしてしまった! 本当にすまなかった!」
理不尽な暴力……。心当たりが、ないわけではない。
去年、つまり本編シナリオ中、私は幾度となく品川フウキ先輩から注意を受けていた。
それは仕方ない。言動チャラオ男と、鬼の風紀委員。水と油のような存在だ。
チャラオは何度もフウキ先輩からからまれた。私の見た目を注意し、時には手が出ることもあった。それを止めるのがミナト……というのがゲームでのからみだった。
チャラオを通してミナトは、フウキ先輩と仲良くなっていく……。というのがフウキルートである。
「去年の私は、どうかしていた。生徒に手を上げるなんて言語道断だった! すまない、本当にすまなかった……!」
地面にその綺麗なおでこをこすりつけるフウキ先輩。
「気にしないでください、品川先輩。仕方なかったんです」
ゲームの強制力が関係しているのだ。風紀委員キャラ、という面を強化したかったのか、フウキ先輩のチャラオへ暴力は少々過激だった。
だが確かに倫理的に言うなら、手を上げるまでするのはおかしいし、しかも手尾をあげていたのはチャラオだけだった。
「自分でも、どうしてあんな、君にだけ手を上げていたのかわからない……ただ、君を見ていると……つい……」
先輩は私に対して、一年あまり、暴力を振るってしまったことを悔いてるのだろう。それゆえの土下座だったのだ。
「本当に気にしないでください、先輩。先輩からの愛の鞭に気づかず、ずっとチャラ男ファッションを続けた私が悪いのです」
というより強制力の性なのだが……まあ言動を見直さなかったチャラオも悪いと言えば悪い。
「渋谷……」
「今日よりこの渋谷チャラオ、心を入れ替えました。見た目も、言葉も、これからは先輩のお手を煩わせないよう、留意いたします」
「そ、そうか……」
「ええ、では」
私は先輩に頭を下げ、その場を後にする。しかし先輩には余計な謝罪をさせてしまった。気に病む必要は無いというのに。彼女は彼女の使命を全うしただけにすぎないのだから。
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★フウキ視点
渋谷チャラオ……彼は変わったな。とても真面目になっていて、驚いた。しかも、私のあんな暴力的振る舞いを許してくれるという。
「…………」
とくん、と心臓が高鳴る。真面目な姿になった彼は、とても、その……魅力的だった。
「……はぁ」
彼が真面目になってくれたことを、うれしいと思う反面、どこかさみしい気持ちになった。
もう……彼を注意することができない。そう思うと……胸が締め付けられてしまう。
「渋谷……くん」
私の指導の結果、生徒が一人更生してくれた。それは喜ぶべきなのに、私の心は全く喜べない。さみしい、悲しいという感情がしめている。
……そうだ。彼はあっさりと許してくれたが、私のしたことはやはりまだ許されるべきではない。
償わないと。そうだ、ちゃんと時間をかけて償いをしないといけない。そうだ、だからこれは……決して、個人的に、彼に会いたいとか、そういうアレでは……ないのだ。
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