11話 闇へ消える元主人公、スポットライトを当たる主人公



★ミナト視点


「くそ! くそが! 最悪だ……チクショウ!」


 チャラオにナイフを刺したおれは、ひとり河川敷の高架下にいた。


「はぁ……ハァ……! なんだよ! なんなんだよこのクソ展開! おれは! 主人公なんだぞぉ!」


 それなのにこの仕打ちはあんまりだろ! 


「どこいった?」「こっちか!」

「ひっ……!」


 警察官が近くをうろついている。お、おれ……おれを探してるのか……!


 違う……違う違う……! お、おれは悪くねえ! ナイフはあいつが刺したんだ! あいつが自分で! おれは悪くないんだよぉ!


「む! あそこだ!」

「なんでだよぉおおお!」


 どうして! どうして都合良く、いや……都合悪く! 警官に見つかってしまうんだ!?


 こんなの主人公じゃない!


「ミナトは主人公なんだよ! 都合良く奇跡が起きて! 何も努力しなくても女が惚れる! そんな! 世界に愛された存在なんだよぉおおおおおおおおおお!」


 警察官がこちらに駆けつけてくる。

 俺は逃げようとして……足を滑らせる。


「げぼ! ごぼおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 お、おれは泳ごうとする!

 け、けどなんで!? か、か、体が動かねえ!


 あ、そ、そうだった……お、おれ泳げないんだった!?


 ……泳げないんだった? な、なんだそれは。そんな設定無かったはずだ!?


 でも、なんだ!? なぜかしらないけど、おれは泳げなかったってことになってる! 書き換わってる……事象が!


「ぐる……じぃ……! だ、だれかぁ~……た、たすけろよぉ~……!」


 がぼがぼと川の水を飲む。い、いきが……でき……いしきが……。


「な、じみぃ……まいぃ……だれでもいいよぉ……おんなどもぉ……おれを……たすけろよぉ……しゅじんこうの、ぴんちだろうがよぉ……」


 意識が消える間際、おれはミナトの言葉を思い出す。そうか……おれは……もう……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

★チャラオ視点


 あの後色々あった。警察官がやってきて、事情聴取された。今日はもう遅いと言うことで、詳しい話しは明日ということになったが。

「チャラオ……帰らないの?」


 ナジミの部屋にて、私は彼女のベッドに腰を搔けている。


「そんな顔の君を一人、置いて帰れないよ」

「ちゃらおぉ~……」


 ナジミが私に抱きついて、涙を流す。怖かったのだろう。彼氏の豹変に、ナイフの登場。これでおびえない方がどうかしてる。


「あのね……チャラオ……あたし、好き。あんたが……好き……」


 ……その言葉に、私は……驚きは、しなかった。うれしさも、あまり湧き上がってこない。


「気持ちはうれしいよ、ナジミ」

「じゃあ……もっと、うれしそうな顔、してよ」


 窓ガラスに映る私は、なんとも切なそうな顔をしていた。だってそうだ。


「ナジミ……君は、魔法にかかってるんだ」

「魔法……?」


「ああ。主人公補正、という魔法だよ」


 私はミナトとの対決のときに、確かに聞いた。天の声ともいうべき存在が、ミナトから主人公としての権限を奪うと。そして、私に譲渡すると。


 その天の声の正体はわからない。でもわかることはある。私にとって都合の良い展開が起きてることは……強制力のおかげなのだ。


「ナジミ。さっき雑誌を、腹に詰めておいたといっただろう?」


 それでナイフを防いで、致命傷を避けた。


「でも……私は、ほんとは雑誌なんて、いれてない」


「え? で、でも……現にお腹に雑誌あったじゃない?」


「そう、そうなんだよ。私は雑誌を腹に、自分で仕込んでない。なのに、雑誌を仕込んだ、と事象が上書きされてるんだ」


 そうだろう? だってそうでなきゃ、あまりに、都合が良すぎるじゃないか。ミナトとの対決を予期してなければ、雑誌に腹を詰めるなんて考えに思い至らない。


 ご都合主義、というなの強制力が主人公となった私に働いた。そして……事象が上書きされ、私は腹に詰めておいた、ことになった。と現実も、記憶も、書き換わっていたのだ。


「む、難しいことは……わっかんないわよ……」

「……つまり、天の声とやらは、キャラの記憶すら改ざんできるってことだ」

「記憶の……改ざん……?」


「ああ。だからナジミ。君が私に抱いている好意も……所詮は夢幻。私が主人公だから、という事実が、君に恋の魔法をかけてるだけなのだよ」


 天の声が何物か知らないが、事象を書き換えるくらいの離れ業をやってみせるのなら、人の気持ちだって書き換えるのは簡単だ。


 つまり……ナジミは私ではなく、主人公となった渋谷チャラオを愛している、ように、仕向けられている。主人公補正が、そうさせてるんだ……。


「そんなこと……ない!」


 ナジミが、はっきりとそういった。


「そんなことない! あたしは、チャラオが好き! 今のあなたが好き! 大好きなの!」


 彼女が私に抱きついて涙を流す。


「でも……君が好きな私は、私じゃ……」

「好きだよ! ミナトと付き合う前から、あんたのこと、好きだった……!」


 ……バカな。そんなの、原作では書いてなかった。そんな展開はなかったのに……。


「ミナトと付き合ってるときは、確かに、魔法がかかっていたみたいだった。でも! 今は違うの! 今の……あんたが好き!」


 彼女が私に顔を近づけてキスをする。甘いキスだった。私に体、魂を委ねるような……キス。


 私は突然のキスに戸惑うばかりだ。でも……さっきみたいな申し訳なさはなかった。


「チャラオ……大好き……」

「ナジミ……」


 彼女が微笑み、また唇を重ねる。この思いが、恋なのか、それとも、強制力というなの魔法なのか、わからない。


 でも……私は。彼女を愛おしいと、そう思う。この気持ちがどうか、魔法でないことを、ただ願うばかりだ。







【ハーレムエンド・Aクリア】

【ナジミがハーレムに加わりました】

【称号『幼なじみから恋人へ』をゲットしました】

【スキルを実装しました】



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

★????視点


※『各員へ。伝達』


※『個体名:大田ナジミにイレギュラー発生』


※『主人公補正のスキルが、ナジミの好感度パラメーターに寄与してないエラーが判明』


※『信じられないことだが、補正を超えて個体名;ナジミは個体名:チャラオに惚れている状態だと断定せざるをえない』


※『これはイレギュラー。だが良き変化だと現状は肯定的に捕らえることとする』


※『引き続き、個体名:渋谷チャラオの同行には留意されたし』


※『なお、個体名:港ミナトに関してはーー






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【★読者の皆様へ】


これにて一章終了です。

二章に続きます。


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