2章

12話 新しい朝《ゲーム》が来た



★????視点

※『運営から各員へ連絡』


※『個体名:渋谷チャラオが今日より主人公として実装される』


※『スキルステム実装、主人公交代による不具合が予想される』


※『よって、個体名:渋谷チャラオのメンター兼サポーターとして、運営側からサポートAIを送り込むことが決定した』


※『サポートAI、以下サポーターによる助言は主人公権限の一つであるため、個体名:渋谷チャラオとの接触については看過すること』


※『続いて運営から各員へ重要連絡』


※『××××(※権限不足により閲覧不可)からの介入が確認された』


※『××××は我々????に敵対する意思を依然として見せている』


※『××××よる介入に注意されたし。個体名:港ミナトのときのようなバグを生まないよう』


※『さしあたっては、××××側の走狗マウスに注意すること』


※『走狗マウスとは、××××側が送り込み、運用の邪魔をする敵対ユニットのこと。数は現状不明』


※『特に個体名:渋谷チャラオに近づく人物のなかに、××××の走狗が紛れ込んでいる可能性が高い』


※『各員、より一層留意されたし。すべては世界の秩序を守るため』


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★チャラオ視点


「む……朝か……」


 ごきげんよう読者諸兄、私である。主人公港ミナト……いや、元主人公との戦いを終えて翌日のこと。


 今日から本格的に学園生活が開始される。ゲーム俺なじのときには無かった生活がスタートするわけだ。不安はある。だがわくわく感は多い。


 私には明確な一つの変化が訪れた。その人は、突発的チャラ語の頻度が格段に減ったことだ。ミナトとの対決を終えた後から今に至るまで、チャラオっぽい言葉が外に出なくなった。自分の思うように動け、自分の思う言葉を話せるようになった。強制力の軽減、とでもいうのだろうか。


 しかしチャラオとしての強制力は減ったものの、今度は別の【役割】が与えられた。主人公。俺なじの顔としての役割だ。つまり、私はミナトの代わりに、主人公として、ふさわしい振る舞いを求められるというわけだ。


 今までチャラオは「うぇーい」だの「ありありありありありぃ~!(※訳 ありがとうございます)」などと、チャラついた言動を繰り返していた。しかし、これからはそうはいかない。


 ゲームの顔として、真面目に、誠実に、ヒロインと付き合っていく必要がある。私はヒロインたちを愛してる。だからこそ、彼女たちを泣かせるものは許さないし、私も彼女たちを泣かせるわけにはいかない。


 チャラチャラのチャラオは、もう居ない。今ここに居る私は、真面目系主人公、渋谷チャラオ……否、渋谷マジメオとでも言えばいいだろうか。マジメオとして私は頑張っていこうと思う所存。


「さて起きるかそろそろ」


 ふにっ♡


「あん♡」


 あん?


「え……?」


 私の隣は、全裸のナジミがいた。

 右手が、ナジミのパイオツカイデェ(※突発性チャラ語)


「アイエェエエエエエエエエエエ!? なんで!? ナジミなんで全裸ナンデェエエエエエエエエエエエエエエエ!?」


 お、お、お、落ち着け。落ち着くんだ私。素数を数えるんだ。1……、1って素数だっけ? ではに落ち着け。冷静になるのだ。


「そ、そうだ! これは夢だ! 夢なのだ! 朝起きたら全裸のヒロインがいたなんて! そんなエロゲー的なイベントが起きるわけがない!」


 私は立ち上がって部屋のカーテンを開ける。爽やかな春の日差しが、私の私室の中に入り込んでくる。


 がらっ、と窓を開ける。そして窓枠に足をかける。


「そう……これは夢! 夢からの脱却は死ぬこと! 鬼●でもそういう展開あった! 今、私は鳥になる! とう!」


 私は窓からジャンプした! そう、ここが夢なら私は現実に戻るはずだ! ……あれ? ではこれが夢でなく、現実だったらどうなるのだ?


「え?」


 ぐしゃっ……!



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→【バッドエンドN0.5064『夢見る世界にさよならしようか』】


→【ヒント:夢か現実か、確認する方法は他にもあるはずです。なぜ窓から飛び降りたのか。理解に苦しみます。バカなのですか?】


→【ロードします】


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「はうわっ!」


 な、なんだったのだ今のは……。なんだか悪夢を見た気がする……。確か全裸のナジミが私の隣に寝ていて、気が動転した私は現実に戻るとかいう目的で、窓からジャンプして死んでしまったような……。


『否。夢ではありません』


「うぉおおおう!?」


 突如として、私の脳内に女性の声が響いたではないか。なんだ、私の頭がついにバグってしまったのか。


『否。あなたの頭は正常です』


 にゅっ、と私の顔をのぞき込むように……。

「み、三毛猫……?」


 私は立ち上がる。枕元に一匹の可愛らしい三毛猫がいた。野良猫だろうか?


『否。わたしはサポーター。個体名:渋谷チャラオをサポートする、メンター件サポートAI』


「…………」


『問。渋谷チャラオ。なぜまた窓枠に足をかけているのですか?』


「どうやら私はまだ夢を見ているらしい……。三毛猫がしゃべるなんて現実ではありえない……とう!」





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→【バッドエンドN0.5065『夢見る世界にさよならしようかⅡ』】


→【ヒント:夢か現実か、確認する方法は他にもあるはずです。なぜ窓から飛び降りたのか。理解に苦しみます。しかも同じ展開を二度もやるなんて、アホにもほどがあります】


→【ロードします】


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「つまり君は、AI、なのか?」


 私は気づくとまた同じ朝を迎えていた。


 またしても全裸ナジミ&しゃべる三毛猫がいた。私は三毛猫から説明を受けることにしたのである。


『是。????より派遣されたAIです』


 一瞬、三毛猫のしゃべっている言葉がバグった。


「その????とは?」


 私の言葉も一部バグった。


『解。個体名:渋谷チャラオの現在の権限では知ることのできない情報です』


 う、うーむ……超展開すぎて話しが見えてこない。しかし三毛猫がしゃべっていること、そして二度死んで生き返っている自分。なにか異常な事態に巻き込まれてるのは事実。……まあ異常なのはこの世界に転生してからずっとなのだけれど。


「君は……私に、主人公をしろ、と命じてきたひと……なのか?」


 この超常現象に対する、私の持ち得る答えはそれしかなかった。ミナトとの対決時に聞こえてきた謎の声。天の声。その正体が彼女かもしれない。


『否。あくまで私は????から派遣されたAIに過ぎません。権限の付与は????たちが行っております』


 あいかわらず????はバグって聞き取れないが……そうか。何か大いなる意思から派遣されてきた、いわば使い魔的な存在なのか、彼女は。


「君が何物かは理解した。次に聞きたいことがある。さっき私は二度死んだ。でも生きてる。これは何なのだ?」


『…………』


「もしもし? サポーター氏? どうしたのだね?」


 突如として三毛猫サポーター氏は黙りこくってしまった。


「どうしたのだ? 三毛猫サポーター氏? なぜ急に黙って……」


「ちゃ、チャラオ……?」


 ……猛烈に、嫌な予感がした。振り返るとそこには、幼なじみの大田ナジミが、起きていた。


 私を見て、ひくひく……と口の端をひくつかせている。……全裸で。


「ああ、おはようナジミ」

「う、うん……おはよ。あ、あんた……だ、誰としゃべってたの?」


 む? なんだ。ナジミが何やら、痛々しいものを見る目で私を見てくるぞ?


「そうだナジミ。聞いてくれ。この三毛猫サポーター氏は私のメンター件サポートAI氏なのだ」


「へ、へえ~……」


 む? なんだ。ナジミが、私に不憫な者を見る目を向けてくるぞ?


「チャラオ……」


 ナジミは私の顔に、ぺたぺたと触れてくる。

「大丈夫? 頭……ぶつけた?」


 ……はい?


「なんでそうなる? 私はどこもぶつけてないぞ」


「そ、そっか……じゃ、じゃあ心のお医者さんいこうか?」


「む? なぜそうなるのだ?」


「だって……三毛猫がしゃべるなんて、ありえないでしょ?」


 ……言われてみれば、至極当然であった。そうか。ナジミは私が頭がおかしくなってしまったと誤解してるのか。


「誤解しないでくれナジミ。ほら三毛猫サポーター氏。しゃべりたまえ!」


 私は慌ててサポーター氏を持ち上げる。だが彼女はぐでぇ、としている。まるで本当の猫のように、顔をぺろぺろなめていた。


「おいいいいいい! なに猫のふりをしているのだ! サポーター氏!? サポーター氏ぃいいいいいいいいいいいい!?」


「チャラオ……あんた、ついに……前々から、なんか、急に紳士的な態度とって……頭おかしくなったなぁって思ってたけど……」


 そっちを頭オカシイと思われてることに異を唱えたいのだが!?


「チャラオっていばもっとこう、うぇえいとか、ありありありあり~とか、言うのが普通だったのに、急に真面目になったの……そっか、心の病にかかってたからなのね……」


「違う、断じて違う! 違うんだほら! サポーター氏はしゃべる猫なんだ! ね! ほら、しゃべって! サポーター氏ぃいいいいいいいいいいいいいいい!」

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