8話 義妹とお泊まり



 幼なじみのナジミを家まで送り届けたあと、私は自宅へと戻ってきた。義妹のマイもなぜかついてきた。


 本当なら私は彼女を実家へ置く炉届けようとしたのだが、マイは天岩戸もびっくりなほど頑なに、私の家に行くといってきかなかった。結局妹のわがままを聞くことになり、マイは私の家に泊まり気にきたしだ。


「おいしい! おいしいです! お兄様の手料理!」


 1kの自宅マンションにて、私の作った料理をマイが実においしそうに食べる。もぐもぐと頬を膨らませながら食べる様は普段よりも幼くそして可愛らしく見えた。


「それは重畳」

「お兄様がこんなにお料理上手だったなんて知りませんでした! 今まで食べてきたなかで、一番おいしいです!」


 ゲームでのチャラオは家事全般が苦手だったからな。一方で私は非モテ童貞が長かった。つまり一人暮らしが長かったゆえに、ある程度の料理スキルはあるのである。非モテの悲しき日々が研鑽する機会を与えたのだと私は涙をのんで自分の手料理を食べるのである。


「おいしい! 世界一です!」

「そんな大袈裟な」


「大袈裟なものですか! ほんと……こんなおいしいもの、今まで食べたことがありません!」


「ふむ? そう……か」


 忘れそうになるがこの世界は、私の元いた世界とは異なる場所。つまり……異世界なのだ。料理の文化も当然、現代日本それとはことなるものだった。


 ……言われてみると俺なじの世界の料理文化は、結構元いた世界と比べると劣っていたし、また味付けも薄かった気がする。現代っぽく見えても、ここは地球とは違うルーリングのもとに成り立っているのだなぁと実感する。


「お兄様、お店開けばたちまち大繁盛しますよ! こんな素晴らしくおいしいものを作れるんですから」


「ありがとう。だが私は別に料理で食ってこうとは思ってないよ」


「では……将来の夢は?」

「公務員かな」


「こっ……!?」


 妹よ、驚く気持ちはよくわかるぞ。少し前まで「うぇいうぇーい」言っていたちゃらんぽらん兄貴が、急に堅実な道へ行くと言い出したら驚くことだろうからな。


「私の夢は、小さくてもいい、家庭を持って、慎ましく暮らすことなのだよ。庭付きの一個建てに、家族は妻と子、犬をかって、平凡な日常を送ること……」


「最高です! 素敵な夢です! ぜひそうしましょう!」


 賛同してもらえてうれしい。だがぜひそうしましょうとはどういうことだろうか? まああまり意味は無いのだろうとは思う。


 ほどなくして。


「ごちそうさまでした!」


 食事を終えたあと、私はカラになった食器を片付ける。


「妹よ。お風呂は前と後、どちらがいい?」


 男の入った後のお湯なんて嫌い! というかもしれない(本編中は実際に言われた)。


「? 何言ってるんですか?」

「ああ、だからお風呂は私の入る前と後どちらが……」


「え? あ、ああ……そうですね。後で」


「わかった。では私は先に風呂を頂くとしよう」


 少し言いよどんだのは何だったのだろうか。ついうっかり「お兄ちゃんとお風呂なんて死んでも嫌だ」なんて言おうとしたのを我慢したとかだったらだろうどうしよう。お兄ちゃん死んじゃう。まあ本編中(去年)とちがって今の妹との関係は良好だから、そんなことは言われないとは思う。……願いたい。……ないよね?(願望)


 ほどなくして湯船に風呂が溜まった。私はゆっくりと風呂に浸かって頭上を見上げる。


「ふぅー……濃い1日であった」


 妹の電撃的な襲撃から始まり、ナジミの相談とイベントが目白押しだった。明日以降は是非とも、平穏に過ごしたいものである。


「ミナト……か」


 ナジミと別れたあと私はミナトに話がある、とラインを送った。しかしラインは既読スルーされている。


 オカシイ、と思った。本編のミナトとチャラオは親友だったはずだ。だというのに既読スルーは少々、いやかなりオカシイ。


 おかしな点があるとすれば、本編のミナトが、ゲーム次代とは若干異なる動きを、結構な頻度をしていたことがあげられる。もしや……と思うところが一つある。


 つまり、ミナトも転生者であるのではないか、という可能性だ。かなり現実味のある推論だと思っている。証拠も多々ある。私はなんとしてもミナトにあって真相を聞き出さねばならない。推しキャラの幸せのために。


「お兄様♡」

「きゃーーーーーーーーーーーーーー!」


 絹を裂くような悲鳴。女性ではなく私の口から出てしまった。


「ちょまてよぉ……! 愛するぷりてぃマイまい? おれっちが潜水艦のーぱんちら号なんですけどぉお!?(※訳 ちょっと待ちたまえマイ。兄が風呂に入ってるのだが?)」



 思わずチャラ語がぽろっとこぼれるほどに私は動揺していた。素数を数えよう。1……2……。1は素数だったか? あれ?


「あ、いつものお兄様です♡」


 チャラ語に安心するのは本当に辞めて欲しいと思いつつ、私は股間を隠して言う。


「兄がまだ入ってるが?」

「? それが何か問題でも?」


「ありよりのありでぇえええええええええええええええええええええす!(※訳 問題大ありだ)」


「良かった♡」


 良かった!? まさか今のセリフ、義妹の中では「問題ない」と解釈されてるのやもしれない。若者言葉わからない。怖い。


「マイよ。さすがに若い男女が同じ湯船に入るのは倫理的に問題がある。でなさい」


「それは問題ないです♡ お兄様とわたしは家族。家族でお風呂に入ることの、いったいどこがいけないというのでしょう?」


 強いて言えば私たちの間に血縁がないことなんだがそれは……。だが、待て。マイにそのようなことを言えば、悲しんでしまうかも知れない。マイは私を家族と言ってくれているのに、血が繋がってない他人だからと言うのは気が引ける。


「……おけまるでぇす!(※訳 ……わかった、一緒に入ろうか)」


「はい♡ ああ、お兄様とお風呂……♡ 最高です♡」


 その後マイはお背中流しますだの、頭あらいますだのと、甲斐甲斐しく世話を焼いてきたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

★マイ視点


 お兄様のお家にお泊まりすることになりました。ああ……最高……。


 お兄様の料理は、まるで天国にいるような心地へ連れてってくれるほど、美味しかったです。


 言葉では表現できない刺激と快楽。こんなの知ってしまったら、もうお兄様の作るご飯しか食べれない体になってしまいます。


 それほどまでに、お兄様の作られたお料理はどれも美味しかったです。すべて独占したい……。特にびっちには絶対に渡したくありません。


 お兄様、素敵。かっこよくて、優しいだけでなく、家事もできるなんて。……だからこそ、余計に、私はあのミナトとか言う糞虫に惚れていた自分が信じられない。


 ミナトは、今思い返すと何もできない人だった。勉強も運動もできない。料理もできない。優しい、ただそれだけのステータスしかない男でした。


 でも不思議ですね。去年はそれだけあれば、ミナトが男性としてとても魅力的に見えたのですから。今はもう便所の落書きなみに魅力を覚えませんが。


 お兄様はナジミとか言うびっちを助けるつもりですが、個人的にはそんな必要ないと思っています。だってお兄様よりミナトを選んだのは、他でもないあの女自身なので。


 それはお兄様も承知していることでしょう。それでも、困っている人のために動く。本当にお兄様は最高の男性です。優しくて、かっこよくて、素敵……♡


 お兄様が寝静まった後、わたしは追い炊きして、もう一度風呂入る。お兄様の入っていたお湯に包まれながら、私は何度も自分を慰めた。


 ああ……お兄様……お兄様ぁ……♡ 好き……♡ すきぃ~……♡

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