7話 幼馴染を家まで送る
どうも、私である。幼馴染のナジミから、主人公ミナトの様子がおかしいという相談を受けた。私は彼女からの依頼を受けて、調査することになったのだった。
喫茶店で話し込んでいたらすっかり遅くなってしまった。
「ありがとね、チャラオ」
「なに気にするな」
「さっさと帰れびっち」
義妹でるマイはナジミにたいして敵意をむき出しにしいてる。どうにも彼女たちは馬が合わないようだ。できれば推しキャラたちは仲良くしてもらいたいである。人類平和が一番だ。
「さ、帰りましょうかお兄様」
「いや、待ちたまえ。ナジミ、家まで送っていこう」
「「え!?」」
ナジミは驚き目を丸くしてる。マイもまた目を大きく見開いているが、どことなく嫌悪感をむき出しにしていた。
「私と話し込んで遅くなってしまったのだ。送っていくのは当然だろう」
「チャラオ……」
「お兄様! ほっときましょうよこんなびっちのことなんて」
びっちびっちと、マイよ。婦女子がそんなハシタナイ言葉を連呼してはいけないと私は思うよ。
「そうはいかん。辺りはもう暗い。女性が一人で帰るのは危ないだろう」
「いいんですよ。こんなびっちなんて危ない目に合えば」
「そんなこと、私は許容できない」
「お兄様は優しすぎます……」
ナジミが申し訳なさそうに言う。
「いいわよ」
「いや、いいさ。どうせ家に帰ってもやることがないのだ。君は気にしなくていい」
「チャラオ……ありがとう」
かくして私は、ナジミを家まで送っていくことになった。
ややあって。
「マイ。なぜ私にそんなべったりとくっついているのだね?」
私の右隣にはマイが豪州産コアラのように抱きついて離さない。そしてチワワのようにうう、とナジミに向かって敵意をあらわにしている。キメラでしょうか。いいえ、可愛い妹です。
「そこのびっちが妙な気を起こして襲ってこないか、見張ってるんです」
「みょ、妙な気ってなによ……」
「お兄様を暗がりに誘い込んでぱくっと」
「し、しないわよ! なに馬鹿なこといってるのよ!
」
「どうだか。びっちのくせに」
「びっちびっちうるさいわよ! 処女だっつーの!」
「どうだか。お兄様によく見られたいから嘘をついてる可能性が」
「ないわよ! 正真正銘、はじめてだから! チャラオ!」
なぜ私に申告したんだろうか。あと大通りでそんなびっちだの処女だのという論争は繰り広げないでほしい。
暗くなった道を私たちは歩いている。
「さすがですお兄様」
「なによ急に?」
「わたしが車にひかれないよう、さりげなく道路側を歩いてるのです。そんなの事も気づかないのですか?」
「ぐ……た、確かに……」
「やはりお兄様は気遣いができる最高のお人です。どこかのくそ虫にも見習ってほしいものです」
くそ虫というのはミナトのことらしい。マイはすっかり彼を嫌ってしまってるようだ。私はどうだろうか。ミナトには苦労させられたが、現状マイなみににくいと思ったことはない。苦労はしたさ。でもそれはチャラオとして全うしなきゃいけない仕事みたいなものだったし、特ににくいとも嫌いとも思っていない。
「……確かに、ミナトはこういうことしてくれなかったわね」
「ふふん。でしょう? お兄様はできるお人なのです」
そんな風に歩いていた、そのときだ。
「ぐへへ~。おじょうちゃんたちぃ、かわいいねぇ~」
なんと正面から酔っぱらったサラリーマンが絡んできたのだ。なんだこの唐突なイベント発生は。まるでギャルゲーの主人公に訪れるイベントのようではないか。
「な、なによあんた……」
「ひっくぅ~。おれと一緒に飲みに行こうよねーちゃん。ねーねー、いいだろぉ~?」
俺なじでもこの手のイベントは多々見られた。女性に絡んでくるチンピラ、ないし酔っ払い。そこで主人公がすかさず追い払う。そして好感度が上がる。私チャラオには縁遠いイベントだと思っていたのだが。こういうのはミナトのイベントでは?
と、考え過ぎはいかんな。ミナトがいない以上、露払いはモブの私の仕事。ここは紳士的に追い払おう。向こうも酔ってる状態なのだ。
「うぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっす! どうもぉ! チャラオでぇええええええええええええええええええす!(※訳 すみません、ちょっといいですか)」
しばらく黙っていたチャラ語が急に仕事し出した。やめてくれ心臓に悪いから。ほら、マイもナジミもおびえているじゃないか。
「な、なんだよ……」
「おいおいおいおっさんよぉおお! 誰か知らねえけどおれっちのロードを邪魔する奴は粉砕☆玉砕☆大喝采! しちまうぞごらぁ!(※訳 どこのどなたか存じませんが、先を急いでおりますので)」
「ひ、ひぃいい……や、やばいやつだよぉお……」
酔っ払いサラリーマンがおびえた表情で、私から去っていく。わかる。気持ちはわるぞなんもなきサラリーマン。あなたよりチャラオのほうが不審者レベルで言えば上だ。
「ちゃ、チャラオ……ありがとう」
ナジミがほっとした表情で私を見上げる。
「あんた、ほんといいやつよね。いつも、守ってくれたり、励ましてくれたり……」
ナジミがうつむいてそんなことをつぶやく。頬が心なしか赤いのはなぜだろうか?
「あたし……ほんと馬鹿」
何を思ったのか彼女はそうつぶやいた。
「そう卑下するものではない。ナジミ。君は馬鹿じゃないよ」
「チャラオおぉ……」
その後私はナジミを家まで送り届けた。マイは終始不機嫌そうに、ナジミに向かって舌打ちをしていた。まったく、ハシタナイ。
~~~~~~~~~~~~~~~~
★ナジミ視点
チャラオが家まで送り届けてくれた。
あたしは家に帰って、ベッドにぽふんと、うつぶせに寝る。
「チャラオ……」
酔っ払いにからまれたとき、守ってくれた。チャラオ。いつもあんたそうよね。何か困ってる時があったら、無条件に助けてくれるの。
ちょっと懐かしかった。すごく……うれしかった。
「そういえば……チャラオと帰るの、久しぶりだな」
というか、不自然なほど、ここ一年くらい、チャラオと一緒に帰る機会がなかった。し、ああいう酔っ払いとか、チンピラがからんでくるのは、たいてい、ミナトと一緒にいるときだった気がする。
「また……一緒に帰りたいなぁ」
言って、アタシは罪悪感にかられる。あたしはチャラオを振った身。これ以上甘えるのは良くない。
あいつは優しいから、あたしが頼めばまた一緒に帰ってくれるだろう。でも、いけない。あたしはあいつを一度傷つけたんだ。甘えてはいけない、とわかってるのに……。
「…………チャラオ」
彼があたしを助けてくれたとき、どきどきした。すごく。ミナトに今まで感じていたような、胸のときめきをチャラオにも感じていた。
「……あたし、マイの言う通り、びっちなのかな……」
付き合ってる彼がいるのに、別の男にときめくなんて。
そのときだ。
ぶぶっ、と携帯が震える。
「だれ……ひっ!」
着信は、ミナトからだった。
ラインはブロックしたけど、着信拒否まではしてなかったのである。
しばらくすると着信が消える。
履歴には、
125件
「…………」
なんどもミナトはアタシに連絡を取ろうとしている。
なんで?
セックスさせろ……というラインの文面が頭をよぎる。
「きもちわるい……」
ミナトに今まで覚えていたときめきとか、胸のたかまりは、もう感じていない。
あるのは、あいつに対する嫌悪感だけ。
また着信があった。ミナトからだった。
あたしは怖くなって着信拒否した。
「チャラオぉ……」
こういうとき、今まではミナトにいてほしいと思っていた。
でも今は、切実に、チャラオにそばにいてほしいと思うようになっていた。
チャラオ……アタシ、ふしだらな女かな。マイのいうところの、びっちなのかな。
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