5話 幼なじみと主人公の異変
始業式終わり、喫茶店にて。私は幼なじみの
「相談って言うのはね……ミナトのことなんだけど。なんだか、人が変わってしまったようなの」
ここで主人公【
ゲームでは私、ナジミ、ミナトの三人は幼稚園から小学校4年生、つまり10歳くらいまで一緒に育った。しかし親の都合でミナトはこの町を出て行った。そして高校1年生の春、ミナトはこの街へ戻ってくる……ところからゲームがスタートする。
ミナトというキャラクターは、とにかくモテる。異常なほどモテる。また、モテイベントが起きる。簡単に言えば、行く先々でヒロインがチャラい男(私にあらず)にからまれていて、ミナトがそれを助ける。かような展開が序盤では何度も繰り返された。結果、ミナト女を作りまくることになる。そしてミナトは優しいもんだから、ヒロイン達は彼に惚れて、次第に引かれていく……というシナリオだ。
私は一つ苦言を呈しておきたい。それはミナトに対するあまりのご都合展開についてだ。先ほどの女を助けるという展開が、序盤であまりにも頻発するのである。どうしてそんな都合良く毎回毎回美少女ヒロインがチャラい男(※私にあらず)に絡まれるのか。私は17年生きてきてそのような展開に恵まれたことがない。なんだこの差別。
まあ仕方ないのだ。ヒロインが惚れるためには、きっかけが一応必要なのだ。一番お手軽な惚れるきっかけは、ヒロインのピンチを主人公が救う。これが一番インスタントだからだ。それにしてもそのイベントに恵まれすぎだろうと私は制作者を何度呪ったことか。
まあ私の愚痴はさておきだ。
「ミナトがおかしい……か。そういえば私は最近のミナトと会っていないな。彼は今どうしてる? どうおかしい?」
またも目をむいているナジミ、と義妹のマイ。おそらくはあんたほどじゃないと思ってるのだろう。申し訳ないがスルーして欲しい。社会人になれば必須であるぞそのスキル。今のうちから教養として身につけておくのがベスト。
「え、っと……その……なんというか、前よりガツガツくるんだ」
「ガツガツ?」
「だからその……え、えっち……させろって……」
「ふぅむ……つまりは性交渉を強要してくるということか」
「え、あ、う、うん……そういうこと」
ゲーム俺なじは、言うまでもなく全年齢盤だ。ラッキースケベ的な展開(脱衣所で肌を見るくらい)は多々あれど、本番描写という物は一切合切排除されているのだ。
「びっち。それのどこがいけないのです? びっちとあの糞虫は付き合ってるのでしょう? 別にセックスしても問題ないのでは?」
「ちょっ!? おま、マイぃ~? お口わるわるよぉ?(※訳 マイ、口が悪いですよ)」
びっちは多分ナジミのことで、糞虫はミナトのことだろうことは推察される。だがヒロインにあるまじき口の悪さだと私は主張したい。
「マイ、君も淑女なのだから、友達をびっちだの糞虫だのと、言ってはいけません」
「え!? あ、あ、え、は、はい……」
マイは困惑していた。すまない。チャラオがどうにも仕事しすぎてしまうのだ。
「ナジミ。マイの言うとおり、付き合ってるなら、別にそういう関係に発展しても問題ないかと。もちろん、相手の気持ちを無視してするのはいけないことだとは思うけど」
「うん……だよね。でも……でもね。これ見て……」
ナジミはスマホを私に見せてくる。そこにはナジミとミナトとの会話が繰り広げられていた。
【なあ今日ひま? うちこない?】
【今日両親いないんだー】
【なあおい。今日こそやろうぜ】
【着信。通話時間6時間】
【やらせろよ】
【おい。セックスさせろよ】
【着信。通話時間7時間】
【せっかく終わるの待ったんだよ。やらせろよ】
【着信。通話時間8時間】
【やらせろ】
【着信。キャンセル】
【無視すんな】
【女の分際で】
【おれの女になったんだからやらせろよ。当然の権利だろうが】
【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】【着信】
「これは……」
「うわ、気持ち悪っ」
マイが嫌悪感丸出しにして言う。私も申し訳ないが同意だった。なんだこれは? 同じ男として、女性をあまりに尊重していない。自分の都合……性欲ばかりを優先させている。
「もう……最終的に……ブロックしちゃったの」
ぽた……ぽた……とナジミの瞳から涙がこぼれ落ちる。私は懐からハンカチを取り出し、彼女にそっと差し出す。
「ナジミ。これを使うといい。そんな悲しい顔は君に似合わない」
「うぐ……ぐす……チャラオぉ~……」
ナジミはハンカチを受け取り涙を拭く。彼女は辛かったのだろう。こんなふうに男から強く迫られたらそれは嫌な思いをする。
「あ、あた、アタシ……ミナト、好きだったの。でも、好きだったミナトは……優しくて、ピンチのときにはいつも駆けつけてくれる、あのミナトが好きだったの。でも……こんな……こんなの……アタシの好きなミナトじゃないよ……」
さめざめと涙を流すナジミ。ああなんと可哀想に。私は胸が痛んででしょうがなかった。だが一方でマイは非常に覚めた表情でいう。
「いやそれ、あなたの勝手な思い込みでは?」
「え…………?」
北極の風もかくやというほどの冷たい瞳で、マイはナジミに目線を送りながら言う。
「あの糞虫……ミナトが優しいなんて、あなたの勝手な思い込みじゃないですか」
「で、でも……確かに……昔は優しかったのよ? 少なくとも今みたいに、こんな性欲丸出しなんて……」
「本音と建て前という言葉をご存じない? 付き合う前だったから性欲を我慢していた、という文面に見えますよこれ?」
ーーせっかく終わるの待ったんだよ。やらせろよ
確かにマイが言うとおり解釈もできるだろう。だが、私には、どうにも【妙な違和感】を覚えた。
「つまりミナトは元々性欲モンスターだったんですよ。隠してただけで。でも付き合う前の女とさすがにいたすわけにはいかない。で、実際に付き合うことになりました。じゃあ気にしなくて良いですね、と本来の性格を出してきた……という可能性もありませんか?」
「そ、れは……」
「あなたが見ていたのは、あなたが見たいと思っていた……優しい港ミナトであって、その本性をあなたはまるで見ていなかった……見抜けなかったのではありませんか?」
マイからの指摘にナジミは黙りこくってしまう。ちっ、とマイはいらだちげに舌打ちをする。
「だいたいあなた! お兄様とあの糞虫と比較して、糞虫を選んだ! お兄様を捨てた分際で! 泣きつくなんて虫がよすぎるんですよ! このくそび」
「マイ。そこまでにしなさい」
「でもぉ……!」
私は手で妹を制する。
「マイ。君が私のために怒ってくれているのはわかった。ありがとう。君の主張は最もな面もある。優しいね」
「お兄様……」
「でも、ナジミを見てごらん。泣いてるじゃないか。そんな泣いてる子に、今みたいな酷い言葉を投げかけるのはどう思う? 心が弱ってる人間に、正論という名の石を投げつけて、一体何になる?」
私は立ち上がって、ナジミの隣に座る。彼女は振るえていた。唇も真っ青だ。ああなんて痛ましい。私はぎゅっ……と抱きしめる。
ここが私の行動か、チャラオとしての行動なのかは、判断は読者諸氏に任せるとしよう。だがナジミに泣いて欲しくないという気持ちは、チャラオも私も同じであることだけはご理解頂きたい。
「チャラオ……」
「ナジミ。君が苦しいのはわかった。相談してくれてありがとう。私は君に力を貸そう」
「でも……あたし、あんたを捨てて……」
「気にするな。私は別に君に捨てられたなんて思っていない。言っただろう? 私は君とミナトの恋を応援すると。そして君と幼なじみという間柄は変わらないと」
私はナジミのあたまをなでる。
「……ほんとに、助けてくれるの?」
「ああ、任せておくがいい。君に変わって、ミナトの真意を聞き出してくるよ。だからもう泣かないでおくれ。
かくして私は、豹変してしまった港ミナトの真意について、調査することにしたのだった。
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★ナジミ視点
アタシ……
でも去年、ミナトが帰ってきたとき……アタシの体には電流が走った。まるで、魔法がかかったみたいに、ミナトがかっこ良く見えた。
それまで、アタシはチャラオに引かれていた。言動は妙でも、優しいし。去年ミナトが帰ってこなかったら、アタシは彼に告っていたと思う。
でも……ミナトと再会して、アタシは……変わった。変わってしまった。ミナト以外を考えられなくなっていた。
それと同時に、チャラオに抱いていた気持ちを完全に忘れていた。好き。大好き。チャラオ……大好き、だったのに……。
どうして、アタシは好きって言えなかったんだろう……。アタシはなんで、ミナトを好きって思ってたんだろう。確かに去年は、好きだった。
付き合うことになって、幸せの絶頂だったはずなのに……。
ミナトから送られてくるラインに、気持ち悪い、って思ってしまった。急な豹変に、もう怖くて……気持ち悪くて……誰にも相談できなくて……。
だから……。
チャラオがアタシをかばってくれたこと、アタシの相談に応じてくれたことが、凄く……凄く……うれしくて……。
チャラオに抱きしめて貰ったとき……アタシは久しく抱いてなかった、彼に対する……胸の高鳴りを覚えていたのは事実。
……もう、わけわからない。アタシの気持ちが、わからない。ミナトをどうして急に好きになったのか、わからない。
アタシ……怖くて、不安で……だから……チャラオ。あんたに相談できて……すごく、うれしかったよ……。
ごめんね、ひどいこと言って。冷たくして。ごめんね……ごめんねえ……。
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