4話 俺の義妹と幼なじみが修羅場ってる



 新生活に胸を膨らませる私の元に訪れた義妹、そして幼なじみたちの手によって、初日から平穏クラッシュの憂き目に遭った……。


 その日の放課後。


 私は喫茶【あるくま】へとやってきた。ここは開発者の一人が愛用してる実際の喫茶店をモデルとしていると開発ブログに書いていった。どうでもいいがブログに何でも書きすぎじゃないかと思う今日この頃。


 ごきげんよう、修羅場である(白眼)。


「なんであなたがここに居るんですか?」

「それはこっちのセリフなんだけど?」


 状況を説明しよう。始業式を終えた私たちはその足でここ喫茶あるくまへとやってきた。元々幼なじみの【大田ナジミ】から、相談を受けていたのだ。そして約束を履行するべく放課後、こうして喫茶店に来たら、我が妹もなぜかついてきたという次第。


「端的に申しましょう。消えろ」

「はぁ? 消えろってなによ。邪魔者はあんたなんだからそっちが消えなさいよ」


「ウルサイびっち」

「びっ……! 誰がびっちだ! こっちはまだ処女だわ!」


「自己申告ですよね」

「あるわよ! 見せる!? 処女ま」


「ちょーーーいちょいちょいちょいちょいちょりすきぃーだいすぅう! 二人ともくぅううううううううううる!(※訳 二人ともちょっと落ち着きたまえ)」


 思わずストップをかけてしまった私ナイス。だがチャラ語が唐突に漏れてしまう。なんと不便な体だろうか。呪われし我が身を作った開発者に責任追及したい。責任者はどこだ。永久にタンスの角に小指をぶつける呪いをかけたい。


「チャラオ……なんで妹いるのよ」


 私の目の前に座っている、ピンク色の髪の美少女。大田ナジミ。私の幼なじみだ。身長は150センチくらい。ツインテール。そして巨乳。猫みたいにつり上がった目。ツンデレ美少女幼なじみ、というのがパッケージに書いてあったうたい文句だ。どうでもいいことだがこの世界の住人は皆常識の範疇を逸脱した色合いの髪、そして名前をしている。だがそういうゲームだということでご容赦いただきたい。


「私もそれは気になっている。なぜついてくるのだマイ」


 ぎょっ! とナジミが目をむく。


「ど、どうしたの……あんた? 頭打ったの……?」


 普段のチャラオ(とチャラ語)を知っているナジミからすれば、今の私のしゃべり方がたいそう奇異に映るようだ。まあ致し方ないだろう。


「お兄様を否定するなくそビッチが」


「ちょーおま! マイりとるプリティまい? それはちょちょちょい、口が悪すぎしたうきょうは相棒なんつってなんつって!(※訳 妹よ、少し口が悪いぞ)」


「あ、いつものチャラオだ。安心した」


 ナジミよ、それで安心されても凹むのだが……。


「びっち。おまえは兄さんを裏切って、他の男とくっついた分際で、よくもまあ恥も外聞も無くお兄様に近づけた物です」


 妹がけんか腰にそう言う。まあ確かに言いたいことも怒りたい気持ちも理解できなくはない。ナジミは妹が言うように、すでに恋人がいる状態なのだ。


「あ、あたしだって……わかってる。チャラオを、裏切ったって……。今でも、傷つけてるって……」


「わかってるんじゃないですかこのビッチ。さっさと失せろ。二度とお兄様に近づくな」


「落ち着きなさい、マイ。そこまで言うことはないよ」


 ぎょっ、とナジミとマイが驚く。


「マイ。ナジミは彼女は私を傷つけるとわかった上で相談を持ちかけている。嫌がらせに映るだろうが見た前、彼女の辛そうな……顔……」


 ナジミの顔は辛そうと言うより、くっそ驚いているような顔をしていた。まるでファミレスに来たらパンダがMacBookを使って執筆活動してるのを見かけたような感じだ。たとえがわかりにくくてすまない。


「辛そうな顔してるじゃないか(ごり押し)」

「お兄様……」

「チャラオ……あんた、ほんと、いいやつね」


 ナジミはうつむいて、テーブルに頭をこすりつける。


「ごめん、チャラオ。あたし、あんたを裏切ってしまったわ。本当にごめん」


 裏切った。それは、私ではなくミナトと選んだことを指しているのだろう。


「気にするな。裏切りもなにも、好きなのだろう、ミナトが」


「うん……でも」


「ならそれでいい。私が望むのは君の幸せだ。君が幸せならそれでいい。たとえ私でなく彼を選んだとしてもな」


「チャラオ……」


「相談があるのなら聞くさ。私たちは幼なじみだ。たとえ他の男と付き合うことになろうとも、そこの関係は永久不滅だ。違うかい?」


 ナジミが潤んだ目を私に向けてくる。美少女に涙。これほど似合う要素はないだろう。この涙に惚れない男は男手はない。チンコついてないだろうそいつ。


「お兄様!」


 だんっ! とマイがテーブルをたたく。


「許すのですか!? このメス豚を!? お兄様の心を傷つけた、この女を!?」


 するとナジミがキッ、とマイをにらみつける。


「お言葉ですけど、あんただってチャラオのこと傷つけたじゃない。お兄様大好きとかぬかしといて、ミナトに媚びうってたのはどこのどいつよ?」


「うぐ……!」


 強制力の影響で、マイはミナトを愛するように仕向けられていた。だってそういうシナリオだから。でも仕方ないことなのだ。モテない男に複数人のヒロイン達が好意を持つように、世界が、このゲームが、渋谷マイというキャラクターに強要したから。


「あ、あのときの私は……私じゃなかったんです」


「はっ! なにそれ。アタシだって確かにチャラオを傷つけたけど、あんたほどじゃないわよ。チャラオは偉いわよね。今まで好意を持ってくれて妹から裏切られて、それでもなお兄として妹を応援しようとしてたのだから。その優しさに甘えて、他の男にうつつを……」


 どんっ! と私は思わずテーブルをたたいてしまった。冷静沈着を心がけている私ではあるが、さすがに今のは看過できなかった。


「ちゃ、チャラオ……」


 私は真面目な顔でナジミに言う。


「とりま、今のdis、よくねーべや。おれっちの愛するぷりてぃぷりてぃリトルマイまいに謝れYOめーん?(※訳 今のは言い過ぎだ。妹に謝ってくれ)」


 チャラ語ぉおおおおおおおおおおお。仕事しすぎだろうおまえ。


「お兄様……愛するって……♡」


 ぽっ、と頬を赤く染めてマイ。一方でナジミは「そうね……」と反省の色を見せて頭を下げる。


「悪かったわ。言い過ぎた」

「……わたしも、すみませんでした。びっちとか言って」

 

 と、とりあえず二人が一時的に仲良くなってくれて良かった。ふぅ……修羅場は回避できたようだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


★マイ視点


 わたし、渋谷マイはチャラオお兄様を愛している。


 病弱なわたしのことをいつも励ましてくれるお兄様が大好きだ。恋に悩み、破れたあとも、変わらず笑顔を向けてくれるお兄様が……世界で一番大好きだ。


 だからこそ……ああ。だからこそ……!


 自分が許せない!


 どうして!? どうして!?


 わたしは、あんなミナトなんて男を、一時的とは言え愛してまったんだ!?


 世界で一番愛してるのはお兄様のはずなのに!?


 わたしの心も、体も、初めても、全部あげると決めた相手は、お兄様だけだったのに!


 わたしは、あの男に好きと言ってしまった。

 き、き、キスまでしてしまった!

 気持ち悪い……気持ち悪い気持ち悪い!


 どうして!? わたしは……あんなのを愛しいと思ってしまったのだ!?


 去年の私は……思えばおかしかった。


 頭が急にもやがかかったようになって……


 ミナトってごみを見ていると、不自然なほどドキドキしてしまっていた。


 一方で、愛するお兄様をみると、なぜだか知らないけど【突然】、嫌悪感を抱くようになってしまったのだ。


 断言しておく。あのときのわたしは、わたしじゃなかった。


 何か強い意志に支配されていた……としか言いようがない。わたしがお兄様以外を愛するなんてあり得ないのに……。


 ……あの雌豚の言うとおり、たしかにわたしの行いは最低だ。


 お兄様を傷つけていたのは事実だ。でも……。


「とりま、今のdis、よくねーべや。おれっちの愛するぷりてぃぷりてぃリトルマイまいに謝れYOめーん?」


 お兄様は……あの雌豚にそう言ってくれた。

 わたしをかばってくれた。

 愛してるって、言ってくれた……。


 ああ、好き……大好き……好き……好き……♡


 今でもなお好きと言ってくれる、優しいお兄様が大好きだ……♡ 愛してる……これからはずっと、彼を愛そう。


 一ミリもぶれることなく、お兄様に尽くそう。彼が頼めば体も開くし、体を売れと言われれば売ろう。お兄様の忠実なるしもべ……いいえ、奴隷になるんだ。


 お兄様に尽くそう。そう、わたしは、お兄様の愛の奴隷……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る