2話 新生活スタート
私は大好きなハーレム系ギャルゲー【俺なじ】の世界に転生した一介の童貞である(威風堂々)
転生後の私は、ギャルゲーの親友キャラ【渋谷チャラオ】として真面目に、本編の主人公の恋のお助けをした。
この俺なじというゲームは、主人公が高校1年生として入学するところからスタートする。1年間かけてヒロインたちと仲良くなり、3学期の終業式に、好感度の最も高いキャラクターとエンディングを迎える。
そして現在、私は高校2年生に進級した。正直ここからはシナリオにない部分である。この先に何が待ち受けるのかは定かではない。不安である。しかし希望もある。
新学期初日の朝。私は自室で目を覚ます。ここは1kのマンションだ。そう、賢明なる読者諸氏ならばすぐに違和感を覚えただろう。
『家族ヒロイン(義妹たち)、どこにいるの?』
と。
今からご説明しよう。私は恋に破れしヒロイン達のアフターケアを行った。その結果、負けヒロインたち全員が、私を巡って修羅場を展開したのである。
俺なじのヒロインは、一筋縄ではいかない、かなりピーキーな性格のキャラクターが多い。全員に共通して言えるのは少し『病んでいる』こと。ようするに、依存心が大きいのだ。
ゲーム本編中なら、その依存する心が主人公に向いていた。だが今彼は別の女に夢中。となると持て余した依存心はどこへ行くのか? 別の依存先に向かうのである。そう、私だ。
なぜだ? 私はただ、大好きなキャラクター達が立ち直れるように、少し話ししたり、お茶したり、映画を見に行ったり、おいしい食事を食べに行ったりした程度である。
私の行動はあくまでもキャラ愛によるもの。別に下心は一切無かった。付き合いたい、と言う気持ちよりも、彼女たちにまた笑顔になって欲しい。そういう純粋な思いからの行動だったのだが……なぜか血で血を洗うレベルの修羅場へと発展したのだ。
私が原因で家族内に不和が生じてしまった(ヒロインの一部に義妹、義姉、義母がいるのだ)。どうすればいいのか考え、そして私は結論を出した。
『身を引けば良い』
私が居るから争いが起きる。なら私が居なくなれば争いは起こらない。コペルニクスも驚くこと確実な発想である。天才チャラオと呼ばれてもおかしくはない。……やはり知能指数が著しく低下するような名前なため誠に勝手ながら固辞させてもやおう。
ともあれ、私がいると義妹達がバトルロアイヤルを常時やる羽目となるため、一人暮らしをすることを提案した。
『そうねえ……いいんじゃないかしら、一人暮らし』
『そーね。その方が都合が良いし』
『とても良いと思います。そのほうが邪魔入らないですし』
と、家族からの賛同は、驚くほど、不自然なほど、あっさりと得られた。
ともあれ私は2年生になった春から、一人暮らしをするに至ったのだ。高校生。一人暮らし。なんと魅力的なワードだろうか。これからの青春に胸がわくわくして仕方ない。
なんと言っても、本編はもう終わったのだ。主人公と幼なじみが結ばれた。つまり渋谷チャラオとしての役割は終わったのである。これからは自由に何をしても良いわけだからな。
と、わくわくしていたそのとき。
私はふと、スマホに通知が入ってることに気づいた。
スマホを手に取って見ると、【
小学校時代、このゲームの主人公は親の都合で転校したが、高校入学時にまたこの街へと戻ってきた。そして美しく成長したナジミにドキドキする主人公。そこから徐々に恋へと発展していく……。というのがメインシナリオ、通称【ナジミ】ルートだ。
……しかし今も思っているが本編キャラの名前適当すぎやしないだろうか。ナジミなんて女子につける名前ではないだろう。私は常日頃から憤慨していた。もっと可愛い名前あるだろうがと。まあわかりやすさ重視にした、と開発者のブログに書いてあったのでそれ以上は言及しないが。
そんなナジミから、こんなラインが来ていた。
【ミナトの様子が変なの】
ミナト、とは本編の主人公【
【ミナトがね、なんか、人が変わったみたいになっちゃってて……】
人が変わった? どういうことだろうか。ナジミからのラインが来たのは、深夜だった。
【とにかく、急に違う人みたいになって……わたし、怖くて。どうすればいいのかわからなくて……あんたよりミナトを選んだ、わたしから頼られても迷惑だろうけど……お願い、相談に乗ってくれないかしら? あんたが便りなの】
何が起きてるのかは、私にはわからない。しかし彼女が悩んでいることだけは、文面から伝わってきた。
私はどうするか? 当然、彼女の相談に乗ってあげよう。私は俺なじのキャラクター達を愛している。みんな幸せになって欲しいと願っている。たとえ結ばれてしまい、私に心が向かないとしても、推しキャラには笑顔で居て欲しいのだ。
そうと決まれば話が早い。私は返事を打つことにした。精神的に不安定な彼女を動揺させないよう、極めて紳士的に、誠実な、文章を心がけ送信する。
しゅぽっ。
【へーい!マイラブリーがーるナジミ!今日も愛してるぜ!Fu〜!】
しゅぽっ。
【とりま今日会って話そうぜ★ひさしぶりにおまえのチャーミングな顔をおがみながらおれっちと愛のらぶらぶとーくすんべ!】
しゅぽっ。
【ガッコ終わったらおれらの思い出がつまった喫茶店でまってな!愛するナジミんのためにちょっぱやで駆けつけるからよ!】
しゅっぽっ。
【じゃあとでな。愛してるぜ(^з^)-☆】
ふぅ……これでよし。あとは放課後、ナジミに会って事情を聞くだけだ。たとえ彼氏ができようとも、推しの幸せは
さて。
今日から新学期。私は新しい制服に着替えて洗面台に立つ。そこにはたいそうお顔の整った長身のイケメンがいる。転生前だったら「かーっぺっ!」とつばを吐きかけたくなるレベルの顔面偏差値をお持ちだ。
本編のチャラオはずっと金髪ロン毛だった。だが今の私は髪の毛をバッサリ切って、そして黒く染めている。
本編の最中は、ゲームの都合上金髪ロン毛スタイルだったが、正直邪魔でしょうがなかった。しかしもう本編は終わった。別にあの髪型にこだわる必要も無い。本編中は切ろうとしても【強制力】を受けて、散髪、というか髪型の変更ができなかった。
【強制力】については後日説明させてもらおう。読者諸氏におかれては、先ほどのラインの件も含めて驚かれたことだろうから、念のため。
ともあれ髪型も変えて、心機一転。これから待ち受ける新生活に胸を膨らませながら、私は家を出た。
だが。
ドアを開けたら、
大きなボストンバッグを持って。
「おはようございます、お兄様」
妹は私と目が合うと、躊躇なくその場で跪く。そして上体を倒して、三つ指を突き、深々と頭を下げる。唖然とする間も無く妹はこう言い放った。
「どうか
ここで一句。
わが義妹。
初手で土下座だ。
なんやって?(心の俳句)
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