ハーレム系ギャルゲーの親友キャラに転生した~主人公が個別エンドを迎えたら負けヒロインが全員病んでしまい、俺がフォロー入れたら修羅場になった~

茨木野

1章

1話 ギャルゲーの世界の親友キャラに転生した

 私がギャルゲー世界に転生したと気づいたのは、だいぶ早い段階だった。


 転生前の私はしがないサラリーマン(童貞)をしていた。幼き頃から異性からモテたこともちやほやされたことも一度たりともなかった。言うまでもなく童貞である(強調)こんな人生を用意してくださった神に対して責任追及したいと何度思ったことだろうか。


 そんなある日私の熱烈ラブコールが天に届いたのか、私は朝目が覚めて起きたら別人になっていた。


 鏡に映っているのは金髪のイケメン。神様もついに私の熱い思いに答えてくれたのか、はてまた私の惨めな人生に同乗してくれたのか、素晴らしい贈り物をしてくれた物だと小躍りした。


 だが……まて。ちょっと待てと。


 鏡に映っている自分(細マッチョイケメン)、どこかで見たことがあるぞと?


 そして私の大好きなギャルゲー【やはり俺の幼なじみはこんなに可愛い。間違いない】。通称、【俺なじ】の世界であることに気づいた。


 このタイトルで驚くなかれ、ハーレム物である。誰がここから期待できるか。開発責任者に問いただした物が続出したらしい。私もまたはがきを投函しまくった口だ。


 俺なじのメインヒロインは、タイトルにもあるように幼なじみの少女。だが多種多様なヒロインをそろえている。


 主人公プレイヤーは幼なじみを含めたあまたのヒロインから一人を選び、そして個別エンド、ないし、ハーレムエンドを迎えるというのがゲームの筋だ。


 さて。


 俺なじの世界に転生して、一瞬だけ天国を味わったものの、すぐに地獄であることに気づいてしまった。


 私が転生したのは俺なじの主人公、の恋のアドバイスをする親友キャラ【渋谷チャラオ】だったからだ。


 ……開発者よ。なんだこの名前は。適当すぎるだろう。あんだチャラオって。やる気あるのか……否。やる気が無いのである。


 そもそもギャルゲーとは主人公にゲームプレイヤーが自分を重ねて、女子達との素晴らしい体験をするのが主目的とされている。


 親友キャラなんぞ言ってみれば、女子と親密になるため、その子の情報を引き出すための情報端末であれば良いのだ。酷い言い草だが端役なんてそんなものである。


 さて、チャラオに転生した私であったが、特段未来を変えようとは思わなかった。


 私には義妹、幼なじみ、義姉、義母がいる。


 というかチャラオは幼い頃に両親を事故で失い、隣に住んでいる家族に引き取られたというバッグボーンがあるのだ。無論本編では語られてない、開発者のブログに書かれていた。本当にチャラオのことはどうでもいいのだなと、本編をヤリ進めててそう思っていた。


 そして残念なことに、義妹、幼なじみ、義姉、そして義母、全員が主人公のヒロインとなる。無論他にもヒロインはいるが。


 義母は学園の教師、義姉は先輩として、義妹と幼なじみは主人公と同じクラスという配役なのだ。


 主人公は特に理由も無くヒロイン達(私の家族)に惚れられ、そしていい思いをする。ちやほやされまくる。


 そして悲しいことに、ヒロイン達は主人公に関わった途端、私へ冷めた態度を取りだしたのだ。


 まあ当然と言えば当然だ。彼(主人公)に恋しているのだから、他の男(私)と仲良くして、勘違いされてしまって困る……ということなのだろう。


 主人公が学園に転校してから、途端に義妹も、義姉も、幼なじみも、そして義母も、私に対して距離を置くようになった。

 

 よくこれでグレなかった物だと私は私自身を褒めてやりたい……!


 そうはいっても私はこのゲーム事が大好きだったので耐えることができた。そうじゃなければ今頃発狂してこの世界からさよならバイバイしていたことだろう。


 そして本編は進んでいき、主人公はハーレムを築いた。私の家族だけでなく、学校内外問わずに女を節操なく作りまくった。


 たいがいの女が私とゆかりのあるものたちばかりだったのは、制作陣に殺意を一瞬覚えたが……。


 おそらくは親友キャラの私が、攻略対象である女子達の情報を持っている事に対する理由付けをしたかったのだろう。それにしたってチャラオに冷たすぎるだろ。なに、制作者はチャラオに家族でも殺されたの?


 私は不平不満はあれど、しかしキャラクターたちを愛していたので、キャラの恋を応援した。主人公に情報を渡したり、二枚目を演じたりと、役割をこなすという意味だ。


 そうして主人公は見事、幼なじみとゴールインを果たす。いや良かった良かった。ハッピーエンド。ふたりは幸せなキスをしてゲームが終わる……。


 ……さて。


 ここからが本題である。


 俺なじは、攻略対象キャラクターと結ばれたらそこで終了だった。つまり主人公は幼なじみルートを攻略して、ゲームだとそこで終了になる、はずだった。


 ところがどっこいここは現実。ゲームのように結ばれてハイ終わりとならない。人生は死ぬまで続いていく。そう、続いてしまうのだ。


 ……さて状況を整理しよう。主人公は節操なく女にいい顔をしまくって、結果ヒロイン達は主人公にほれ、そして彼と結ばれようと頑張っていた。みな例外なく主人公のことを深く愛しており、好きだった。


 そんななかで主人公が一人の女を選んだ。となると、残りのメンツはどうなるのか? いわゆる負けヒロイン達は、どうなるのか?


 ……結果、全員病んだ。


 当然である。寝ても覚めても主人公のことばかりを考えていた女子達の心から、主人公が急に離れていったのだ。


 失恋のショックは相当なものだったのだろう。事実、主人公が幼なじみエンドを迎えた翌日、攻略対象キャラ達の精神状態はかなり不安定だった。中には自殺までしようとした女もいた。


 私はキャラクター達を愛していた。だから頑張って、彼女たちを必死になって励ました。愛するキャラ達の死に様なんて見たくないのである。


 そうして主人公がエンディングを迎えてから、半月後。


 修羅場ができた。

 私の周りで。

 なんでや。

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