早めに答えを見つけたい
出迎えてきてくれた義両親は困惑な表情をしたけども、すぐに笑顔になってアレン様を招き入れる。
話しぶりからして、アレン様が来ることを事前に知っていたみたいだけども……私と一緒だとは思わなかったからそこに驚いていた。
私は義両親と挨拶を交わした後、寝室に向かう。
アレン様はノア先生に用事があり、義両親もアレン様に話したいことがあるらしい。
私に聞かれるとまずい話題なのか、寝室に行くようにと言われてしまった。
貴族のいざこざはよく分からないから助かったけど少し寂しいよね。
リリーに軽食を持ってくるように頼んで寝室に入る。
扉を閉めると、その扉にもたれるように背中を預けた。
ゆっくりとその場にずり落ちるように座り込む。
ふと、馬車でのアレン様の言葉を思い出した。
ーー俺との婚約を前向きに考えてくれないだろうか。
真っ直ぐに私の目を見て言うアレン様は真剣そのもので……。
危うく、頷くところだった。
胸の高鳴りが収まらない。私は推しとして好きだはずだ。
恋愛じゃない……それなのに、鼓動が収まらなくて困る。
この気持ちって……本当に私のものなのかなってたまに疑問を持つ。
これまでに何度もアレン様にドキドキしてきた。それと同時に切なくて苦しい気持ちも。
それは、アレン様の中にいた悪役令嬢の気持ちそのものだった。その気持ちを敏感に感じてしまっていた。
「……自分の気持ちなのに」
この感情がなんなのか、分からない。でも、ちゃんと考えてみたいとは思ってる。
私の気持ちを優先してくれてるんだもん。真剣に告白してくれたから、私も真剣に考えてみようと思う。
それにしても、アレン様の懐の深さに感服する。
迷惑かけたくはないのに、ものすごく迷惑かけちゃうし、その度に笑って許してくれる……。
でも、たまに怒ってくれるよね。そんなところが居心地良くて泣きたくなるほど安心してしまう。
私はハッとなり、首を大きく左右に振る。
愛情ってどういうのかよく分からないけど、確かなのは私のことを嫌ってないことだ。
最初は国の平和のために私と婚約して、結婚後は人目が付かないように隔離する目的だと思ってた。
今は、どうしてか……アレン様の告白を信じたい。好意を寄せてくれていると思い込んでしまう。
それと同時にこのままで良いのかと迷ってしまう自分がいる。
……早めに答えを見つけたいな。
ゆっくりと立ち上がると、扉を叩く音がした。
返事をすると、ノエルが心配そうな声を出していた。
「姉上……話があるのですが」
何事かと思い、扉を開ける。
「ノエル、どうしたの?」
「いえ、その……」
口篭るノエルに首を傾げだ。とりあえず部屋の中に入るように促すが、ノエルは首を左右に振る。
「……タオルに軽めに魔法を加工されてるのですが、宜しかったら」
「え??」
「熱を冷めるためのものなのですが、姉上、若干頬が赤いので熱でもあるのかと」
私はノエルからタオルを受け取ると頬に当てた。ひんやりしてて火照った顔が熱が冷めるのがわかる。
……気持ちいい。
「もしかして、殿下に何か言われました?」
「だ、大丈夫よ。緊張してしまったの。赤くなってるのも緊張が解れたからかな」
「そうですか」
なんとか誤魔化したかなと思ったらいきなり顔を覗き込まれた。
「姉上は殿下のこと……、いいえ、なんでもありません。まだ顔が赤いのでゆっくりお休みくださいね。殿下が帰る頃に侍女が呼びにくると思うので、それまでは人払いしときますね」
……良心が痛む。純粋に私の体を心配してくれるなんて、本当に良い子だな。その純粋さが今は心にグサッと刺さってるけど。
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