キースの性格

 殿下がお帰りになられるので、私とお義父さま、お義母さま、ノア先生とノエル、それに使用人達が外に出てお見送りする。


 馬車に乗ろうとした殿下はピタリと動きを止め、私の方に振り向いて声を張った。


「それじゃあ、護衛はキースに勤めてもらうことになったから。ソフィア嬢の意見も聞かずに勝手に決めてしまったけど、どうしてもキースじゃないと難しくてね。オリヴァーは王国でやらなくちゃいけないものも残ってるから」


 柔らかな笑みで言われ、私は頷くかわりにカーテシーで返事をした。


 殿下が馬車の中に入るのを見届けたオリヴァーさんは急いで私の元に来て耳元で囁いた。


「……キースにはお気を付けて」

「え?」

「前にも見たでしょう? 可愛いものを見ると抱き着く癖があります。それに、それだけじゃなくて……抱き着くならまだ可愛い方なんですよ。本当なら俺が護衛につきたかったのですが……前の失態もあるので今回はキースに」

「抱き着く他になにかあるんですか?」

「キースは生き物で可愛いと思ったものを虐めるのが大好きなんです。虐めっていう可愛いレベルというよりも拷問に近いような。とりあえずキースの性癖には気を付けて」

「わ、分かり……ました??」

「その顔はわかってないんですね。仕方ないですが」


 オリヴァーは私の顔を見るなり呆れたため息をつき、再度「気を付けて」と念を押し、馬車に乗る。


 つまりキースさんの性格はヤンデレに近いということかな。


 ちらりと横目でキースさんを見ると、ずっと笑顔を絶やさずに見送っていた。


 これ、もしかしなくても……フラグ立ってる??


 その心配が杞憂だと良いんだけど。



 ーーーーーーーーーーーーーー


【オリヴァー視点】


「殿下、どうしてキースなんか護衛に? 色んな意味で危険なのは殿下がよくご存知でしょう」


 馬車が走り出して数分、俺は向かいに座っている殿下に聞いた。


「ノア殿とノエル殿も居る。それに……護衛相手に危害は加えないさ。キースの腕はオリヴァーよりも上だ。それにキミは一回失態を犯している。護衛は任せることは出来ないよ」

「ですが……」

「キースはほんわかしているけど、仕事はちゃんとするさ」


 そのほんわかさが危険なんだ。等と口が裂けても言えないのは上下関係があるからなんだけど。


 あんまり意見は言えない。俺はグッと言いたいことを我慢した。


 キースの危険度は一番近くにいた俺がよくわかっている。


 ほんわかしてるのは獲物を無警戒にさせるため。気を許した獲物を一気に狩るのがキースだ。


 拷問が大好きで可愛いものが傷を負う瞬間を楽しんでる。常識の範囲を超えてかなりイカれている。


 だからこそ、ソフィア様に危害を加えられるかもしれないのに、殿下は至って冷静だ。余程信頼してるようだけど……。


 念入りにノアさんに頼んでたみたいだからキース+ノアさんが護衛に自然となりそうだな。


 最初の時も殿下のことだからソフィア嬢に選ばさせると思い、キースの印象を悪くしてドン引きさせたのに。


 キースの可愛いもの好きを利用させてもらった。おかげでドン引きには成功したから良かったものの、キースの顔に恐怖してたから場を緩ませようと必死にもなっていたけども。


 俺でさえも油断すれば傷を負わされるというのに。ソフィア様だと確実に殺られると思ったが、あの時も殿下は「流石に護衛相手には手を出さない。俺にもたまに可愛いって言われるけど傷を負わされたことは無いよ」って言われた。


 確かに、それも一理あるかもしれない。でも、男性と女性の可愛さは違う。だからこそ、我慢出来るのかどうか心配だ。


 俺を選ばさせたがあそこであんな失態をしなければ……。


 なんて、後悔しても遅いが。


「心配しなくても大丈夫だよ。キースがソフィア嬢に手を出したら……ソフィア嬢にキースの秘密をバラすからって言っといたから」


 俺が心配していたら殿下はニコッと笑った。


 秘密って……あれか。キースだけじゃなく俺・た・ち・竜騎士の秘密か。


 あれはごく一部の人しか知らない。かなり知られたくない内容だ。あの秘密はキースにとってトラウマがある。いや、竜騎士のほとんどの人がトラウマを抱えてると言ってもいいかもしれない。それをバラすって言われたら何がなんでも性癖を我慢するだろう。


 それは少し安心する。


 俺は窓の外を眺め、ふぅっと息を吐いた。


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