初仕事
五月 それは一年間のうちで一番死にだがりが増える時期だ。
五月病なんて聞いたことあると思う。
連休明けに鬱状態になり死にたいという人が増えるのだ。
この時期になると死神は大変だ。
死にたがりの手伝いで大変ってのもあるけど一番はあのナイフ女みたいなのの対処だ。
あんなのを死神として認めてはいけないという暗黙の了解があるらしい。
ちなみにナイフ女みたいなのをkillerと呼ぶらしい。
そんなkillerから身を守るために今僕はルカに鍛えてもらっている。
いや、サンドバックにされていると言う方がただしい。
早すぎて目で追えても体がその動きについて行けない。
ドスッ!
「はい また私の勝ち~」
くっそー マジで勝てない。
「そんなんじゃkillerに瞬殺されちまうよ~」
そんなのは僕が一番わかっている。
でもどうすればいい?
訓練し始めて約二週間。
何冊か体術に関する本も読んだしマンションの中にあるジムで体も鍛えている。
なのにルカとの差は縮まるどころかどんどん離れている気がする。
しかも仲間の中で一番強いのがルカではなくリンだそうな。
いったいどうすれば そんなことを考えているとリンがアドバイスをくれた。
「その戦い方は本当に君に合ってる?見るたびに戦い方変わってて面白いけどそんなんじゃルカは倒せない。戦い方を一つに絞ったらそれを極める! それが結構大事なことだよ。」
確かにそうだ。
一度負けただけでその戦い方はダメだと思い込んでいた。
ルカは強い 実戦経験も訓練量も僕よりはるかに上。
そんな相手に訓練二週間の僕が勝とうとしていること自体が間違いだった。
戦闘スタイルを決めそれだけを極める。
僕だけにしかできない戦い方。
そこから一週間戦い方を決めてそれだけを極めることを意識し訓練に励んだ。
そこからは今までよりはマシな戦いができるようになった。
だがまだサンドバックのままだ。
勝てないのは分かっていても悔しい。
そんなことを考えているとルカが僕に言う。
「さて、仕事だよついてきたまえ 助手」
いつルカの助手になったのか疑問に思いながらも彼女と現場に向かう。
今回はとある廃ビルの屋上 理由は先日病した奥さんの後を追いたいとのことだ。
何とも悲しい理由だ。
あわよくば説得できないかと思ったが厳しそうだ。
そうこうしているうちに目的の廃ビルに着いた。
階段を一段上がるたびに心臓がバクバクする。
今までにないほどの緊張だ。
屋上の扉を開けると今回の依頼人の男の姿が見えた。
ひげはここ最近剃っていないらしい。
目の下にあ遠目からでもわかるくらいの大きなクマがある。
「死神さんですか わざわざ来てくれてありがとうございます。」
暗く活気のない声でそう言う。
そんなのとは逆に明るい声でルカが男に話しかける。
「いえいえ これが仕事ですので。 そういう風に死にたいとかありますか?さすがに爆発とかはできないですけど。」
男はあらかじめ決めてきたかのように死に方を要求してくる。
「天国にいる妻に届くようになるべく派手な死に方でお願いします。」
派手な死に方か,,, メジャーなのはやっぱり飛び降りるとかなのか?
自殺で派手って少し難しい気がする。
これにはさすがのルカも悩んでいるようだ。
「じゃあ私が殺してあげる。きれいな血しぶきをあげましょ。」
聞き覚えのある不気味な声に少しゾッとした。
ナイフ女だ。
何でいるんだよ!
もうあの女僕たちの動き知ってるでしょ。
そんなことを考えているとルカが僕にとある提案をしてきた。
「カイ、お前が戦え。安心しな殺られそうになったら助けてあげるから。多分大丈夫だと思うけど。」
そう言うと僕が訓練で使っていた武器を渡してきた。
少し違うところがあるとすれば刃がついていることだ。
僕の武器は短めの刀二本。
前回同様女は何の前触れもなく襲いかかってきた。
攻撃を右に回避し反撃、もちろん避けれれる。
お互いに少し距離を取る。
女は少し驚いているようだ。
無理もないだろう つい一か月くらいまで逃げるだけで何もできなかった男が自分の一撃を避けて反撃までしてきた。
だがそれ以上に僕も驚いている。
戦えてる? 女の攻撃がはっきりと見える 体もついていけてる 訓練の時のルカに比べると女の動きは遅く感じた。
少し安心した、この約一か月 ただサンドバックしていたわけじゃないんだ。
報われた気がして少し泣きそうだ。
そんな気持ちを即座に切り替え、今度は僕のほうから攻撃を仕掛ける
その場には金属同士のぶつかり合う音が響く。
武器的にも筋力的にもおそらく僕のほうが有利 それでも攻撃が受け流される。
さすがとしか言いようがないナイフさばき。
でも今の僕なら勝てる!
僕は強気に攻撃をする。
決して受けに回ってはいけない 武器を振るスピードは重さが軽いナイフのほうが有利。
逆にいえば武器の重さがある僕が攻撃し続ければ女はいつか受けきれなくなる。
攻撃を続ける。
それから四、五分は攻撃をし続けただろうか。
とうとう女は攻撃を受け流せなくなり僕の一撃を受けた。
女は顔普段よりもさらに気味の悪い笑顔を見せる。
「はっはっはっはっは!すごい、すごい!君この前の死にたがりだよね。すごいよ!よく一か月でここまで強くなったねぇ。ああ、君みたいな子はお姉さん壊したくなっちゃうなぁ。」
これまでにない殺気を僕に放つ。
さすがに怖かった。
その場にいたルカや死にたがりの男も、本能的に身構えるほどだった。
それから女はナイフを僕めがけて投げると同時に逃げて行った。
ナイフをかわした瞬間に体中の力が抜けた。
とりあえず僕の勝かな。
拍手が一つ ルカだ。
「いやー おみごと。さすが私にサンドバックにされていただけあるね。」
サンドバックにしているという意識はあったのか。
戦いが終わったからといって僕たちの仕事が終わったわけではない。
男の手伝いをしなければいけない。
派手に死にたいというからにはやはり飛び降りかな?
考えていると男が話し始める。
「実は妻の遺品の中にこの封筒が入っていたんだ。怖くて読めていなかった。心のどこかで妻が死んだことを信じたくなかったんだど思う。でもさっきの君の戦いをみて少し勇気をもらった。死ぬかどうかはこの封筒の中を見てから決めるよ。」
そう言うと男はゆっくりと封筒を開ける。
中には僕が思っていた通り手紙が入っていた。
手紙にはこう書かれていた。
”私の愛する夫 鈴木 恭也へ
まずはごめんなさい。実は前に一人で病院に行ったときにあと一年くらいしか生きれないって言われてたの。でもなかなか言えなかった。きっと悲しい思いをさせてしまうと思ったから。せめて私が生きている一年間くらいは笑っていてほしかったから。
きっとあんたのことだから私の後を追おうとか考えてんのかな?気持ちはうれしい。
でもあんまり早く来なくてもいいよ。せめてあと一年は生きて。あんた足早いんだからすぐに追いつけるでしょ(笑)
それじゃあバイバイ 見てるから”
泣き崩れる男。
無理もない、そう思わせる手紙の内容だ。
男は泣きながら言った。
「しばらくは生きてみます。」
その言葉を聞いて少し安心した。
考え直してくれてよかったと思った。
「帰るか」
ルカがそう言いそのビルを後にする。
帰りの車の中ルカが言う
「私が死神として活動し始めてから人が死ななかったのは今回のを合わせても片手で数えるくらいしかない。初めての仕事でkillerを追い払うだけでなく自殺を考えなおさせるなんてすごいね。君には何かそういう才能でもあるのかもね。」
嬉しそうにそう言うとさっさと寝てしまった。
死神は自殺を手伝う仕事。
でも今回みたいなことがあってもいいんじゃないかと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます