死神のお仕事 後編

けっきょく次の日は学校を休んだ。

家にいる間は昨日のことが頭から離れなかった。

死神は気味の悪い作り物のような笑みを浮かべ、自殺を決意した者を確実に殺す。

この国に生きる多くの人たちは死神に対しこのような考えを持っている。

が、昨日僕が出会った死神はちがった。

笑顔は自然だったし、死なないほうがいいと言っていた。

昨日のは本当に死神だったのか?

ただ死神ごっこをしていただけの女の子だったのか?

考えれば考えるほど分からなくなる。

ただ、その時の僕は死にたいとは思っていなかった。

今はただ知りたい。

死神とは本来どんなものなのか。

世論が間違っているのか 彼女が死神として異質な存在なのか

どうにか彼女とまた会うことはできないか

そんなとき彼女から連絡先の書いてある紙を受け取ったことを思い出した。

僕は急いで昨日来ていた衣服を調べた。

出てきたのは洗濯されて少しいい匂いがするぐちゃぐちゃの紙だけだった。

もうだめだ そう思った瞬間だった

僕の脳裏をある考えがよぎった

もう一度昨日と同じ場所で死のうとすればまた会えるのではないか?

僕は急いで昨日のマンションの屋上に向かった。

屋上に着いてからは昨日のように二、三十分くらいウロチョロしていた。

「君死にたいの?」

昨日と同様背後から声をかけられた

ぱっと振り返るとそこにいたのは昨日の彼女ではなく 気味の悪い作り物のような笑みを顔に張り付けた女だった。

死ぬことが目的ではなかった僕は ”いいえ” と答えようとした

その瞬間だった、女は刃渡り数十センチはあろうナイフを抜き僕にものすごいスピードで襲いかかってきた。

紙一重のところでかわし全速力で逃げる。

何かを考える余裕なんてない。

走って 走って 走って

とうとう体力が切れた俺はその場に座り込む。

ここまでくれば そう思い後ろを振り向くとナイフを持った女が立っていた。

息切れもせず先ほど同様の笑みを浮かべて立っていたのだ。

極度の緊張と恐怖で僕は声一つ上げることができない。

「安心して 痛くしないから」

冷たい声でそう言うと女は僕にナイフを振り下ろした。

僕は恐怖で目を閉じた。

おかしなことに数秒たっても刺された感触がない

ゆっくりと目を開けると女のナイフを昨日の彼女が日本刀のようなもので受け止めていた。

「元気してた?」

その場には似合わない明るい声でリズミカルに話しかけてきた。

「死神さん! あいつは何なんですか!? 」

ひどく焦った声で問いかける。

彼女はいかにも余裕って感じの声で質問の答えを返してきた。

「前にも言ったけど私の名前はルカだよ。 あいつは私と同じ死神だね。名前までは知らないけど。」

まだいくつか質問したいことがあったがナイフ女は待ってくれない。

先ほど同様ものすごいスピードでルカに襲いかかる。

ルカはその攻撃をスッとかわしナイフ女の首めがけて刀を振るう。

ナイフ女は距離を取る。

僕は戦いとか武器の扱いとか詳しい訳じゃない。

そんな僕でも目の前で戦っている二人は達人級の使い手だと分かる。

そのくらい人間離れした戦いが繰り広げられている。

まさに死闘そのものだ。

勝負の結果は不意に訪れた。

一瞬の隙をつきルカがナイフ女に一撃を食らわせた。

殺してはいないが動くことはできないだろう。

時間にして約5分 今の戦いはもっと短く感じられた。

「お待たせ~ さてと 君は何故にまたこの場所に? 死にたいなら連絡してって言ったよね?」

少し疲れた顔で質問してきた。

「君に質問したいことがいくつかあって君に会いたかった。 でも紙を洗濯しちゃってね(笑)」

ルカは笑いながら僕を少しからかってきた。

数十秒たった頃ようやく飽きたのか、からかうのをやめて質問の内容を聞いてきた。

僕は、死神とはなんなのか、何故自殺を手伝うのか、さっきの女はなんなのかなどの質問をした。

少し考えたのちに彼女は答える。

「死神っての君が考えてるように死にたい人の前に現れ自殺を手伝う人のこと。さっきの女も死神だね。いろんなタイプの死神がいるけどさっきみたいなのは珍しいね。君運悪いよ(笑)」

それから少し険しい顔をしながらなぜ自殺を手伝うのかをゆっくり話し始めた。

「数年前友達が私の目の前で自殺したんだよ。その子は死ぬのがへたくそで、最後まで苦しみながら死んだ。私思った、死ぬ時くらい苦しまずに楽に死んでほしい。それが私が自殺を手伝う理由かな。」

数秒の間シーンとした時間があった後、ルカは振り返り帰ろうとした。

何を話せばいいかわからない。

何か話すことがあるのだろうか?

彼女が屋上の入り口のドアに手をかけた瞬間、僕は無意識に声を出していた。

「ぼ、僕も君みたいな死神になりたい! 君について行っちゃだめかな?」

驚いた顔をして振り返った。

そんな彼女の顔にはかすかながら喜びも混ざっているように見えた。

「本気会かい? 人を殺すんだ 決して楽しくはないし辛い。君は目の前で人が死ぬのを直視できるのかい?」

彼女の答えを聞いた僕は少し悩んだあと自分なりの答えを彼女にぶつけることにした。

「死にたがりだったからこそ死にたがりの気持ちは分かる。彼らが欲しいのは優しい言葉なんかじゃなく速やかな“死”だ。苦しませてはいけない。楽に殺してあげたい!」

彼女はニッと笑った

「行こう!」

元気よくそう言うと彼女は僕に手を差し出してきた。

僕は迷わず手を取った。


これは決して正義ではない。

はたから見ればただの人殺しだ。

でも、死にたくても死ねないのはつらい。

僕はそれを誰よりも知っている。

そんな人たちに安らかな死を運ぶ。


僕たちは死神だ。
















































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