tempo

少しだけ年齢を下げて

意味なんかないと言ってみせた。

格好が悪い気持ちになる、

紙なら今すぐ墨を落として

丸めて捨てているが。

日の当たらない場所は冷たくて、

陰の強い場所は勢いよく

温められているので、風が強い。

育ちすぎたりんごみたいな君が

風に流され飛ばされてきた。

いきなり目の前に現れたりして

お互い丸く、丸くした目で

見つめあっていたりして

地球は空気を読むように自転を少し

止めたりして

体は大きく斜めに揺れて

慌てて足でバランスを取って

手を差し伸べて大丈夫かと、

触れ合ったとき、今、瞬間

聞こえたでしょうあなたにも

ヴィーナスの声が

男ではない、あなたという人間

この世でたった一人のおとこ。

会いたかったと体から聞こえる

ほら、死ななくて良かったでしょうという

霊と霊魂たちの音がする、

言葉にできない言葉が支配する。

あいたかったよ。

リンゴのいい匂いがする

出会いは春でも夏でも冬でも、

秋ですらなかった。

これからはわたしとあなたがあって、

ここからはわたしもあなたもないのよ

ふたりになって溶けあえるはず、

そしてりんごを生むのよ。

足で立つしかないのよ、

隣人に分けてもらった美しいりんご。

見たことのない人間が隣にいる

私のことばを耳で聞いている、

そんな気がする。

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