南風/えーきち への簡単な感想
応募作品への、主催者フィンディルから簡単な感想を置いています。
指摘については基本的に「作者の宣言方角と、フィンディルの解釈方角の違い」を軸に書くつもりです。
そんなに深い内容ではないので、軽い気持ちで受け止めてくださればと思います。
南風/えーきち
https://kakuyomu.jp/works/16817139554714634519
フィンディルの解釈では、本作の方角は北北西です。
初読時の印象では北西だったのですが、時間が経つごとに北に寄っていった感じですね。ただまた変わる可能性はあります。
まず、えーきちさんが西を志すときには「環境が人を作る」タイプの人物造形が多いのですが、これはやや北的なアプローチだと思います。「過去のこういう経験が、このキャラの価値観を作ってるんだ」というエンタメ的造形に準じたアプローチですから。西特有の「その人に生来から備わる性質」みたいなのがあまり香ってこない。
そしてオレンジ11さんも仰ってましたが、生い立ちが“作品的にテンプレ”である。西であることに個性を求めていると思うのですが、西としてはこの生い立ちは“作品的に没個性”なんですよね。もちろん現実に虐待や毒親の環境で育った方はいらっしゃいますからそれを“テンプレ”という言葉に抑えこむのは不適切ですが、そういう現実に真正面から向きあう作品なら“作品的にテンプレ”という見え方にはならない筆致になるはずです。
あるいは生い立ちは“テンプレ”であっても、過去と現在に割く文字数リソースの配分でも見え方は変わります。本作は過去6現在4ですが、過去2現在8くらいまで現在を上げても良い作品だと思います(視点者が「男」ということで過去がある程度厚いことには重要な意味があるでしょうから、バランスは相談ですが)。過去が“作品的にテンプレ”であっても、現在の書きようによっては十分鮮烈な印象になります。
以上から、「環境が人を作る」タイプでバックボーンをしっかりしっかり作って「女」の重心を安定させたいという作者の不安が覗き見えるように思います。本作は西だと、読者も作者自身も納得させたい。ここにまず北を感じ、同時に西のパンチの弱さを感じました。
もうひとつ北を感じたのが、本作には実は筋が通っているんじゃないかと感じられるところです。
「女」が家出をしなかった理由、家出をした理由、いずれも根拠となるものが用意されています。そして「女」が(今回の)「男」の元から去った理由、金を捨てた理由についても、実は作者のなかでは正解に相当するものが用意されているんじゃないかと感じさせるところ。
答えははっきり書かないよ自由に解釈してね、でも作者の解釈はあるしその根拠となる文も逐一作中に書かれているよ解説しようと思えばできちゃうよ、というような塩梅をフィンディルは感じました。非常にえーきちさんらしいなとも感じたんですけども。この塩梅が二読三読で察せられてくると、西が段階的に弱くなっていくのかなと思います。
ただエンタメ主戦場の作者としては、非常に上手く隠していると思います。創意工夫が凝らされていると思います。意欲を感じます。
初読時では北西でしたから、その印象を与えられただけでえーきちさんにおける意欲作であることは間違いないと思います。「初夏色ブルーノート」よりも、西への姿勢がより前傾な印象です。
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