第六章 誰よりも素敵な人

 重い話が続いてしまうが、二つめの話をしていこうと思う。高校一年生のときに亡くなった、僕の幼馴染であり、大親友でもある、そんな人物の話である。


 彼との出会いはたしか、近所のとある公園だ。当時の僕は砂遊びに没頭していた。今の僕など比べ物にならないほどクリエイティブで、非常に柔らかい頭(物理的な意味ではなく)を持っていた若干三歳の僕は、実際に他人の目にどう映っていたのかはさておき、多種多様な作品を砂場に残していた。今思えば、どう映っていたも何も、はたから見ればただの泥団子の集合体だったと思うのだけれど。当然誰かに興味を持たれるようなことはなく、おさなながらに一人で黙々と芸術を突き詰めていた。


 そんな僕のもとに、ある日突然やって来たのが彼だ。名前はかずという。苗字は一応伏せておく。和は僕が作った土のかたまりが何を表現しているのかを初めて言い当ててくれた人物だった。動物を作っても、野菜を作っても、次々に当ててくれる彼の存在を非常に嬉しく思っていたのをよく覚えている。僕が記憶している限り、一番最初にできた友人が和だ。余談だが、のちに同じ病院で産まれていたことが判明する。


 別々の保育園を卒業して、また別々の小学校に入学してからも、僕たちはよく一緒に遊んでいた。僕の家は少しばかり複雑な事情があって友人を家にあげることが叶わなかったので、学校帰りに和の家によく遊びに行っていた。無論のこと校区外なので当時おもむく事は禁止されていたのだけれど、まあ、時効でしょ流石に。


 和の家に集まっていたのは、和と、僕と、和のまた別の幼馴染であった女の子の三人である。彼女もなんと同じ病院で生まれていたことが後に判ることとなる。ちなみに彼女については、このエッセイに名前を書いて良いか訊ねたところ許可がおりなかった。


 「嫌だ。なんならエッセイも書かんでいいよ。てかス○バでダークモカチップフラペチ○ノ買ってきて。エクストラチップで。」


 とのことだ。珍しいことに何故か辛辣だったのだが、それくらい嫌だということは解ったので申し訳ないがこのまま名前は伏せさせてもらう。そして彼女の家は滅茶苦茶遠いのでフラペチ○ノを買っていくことも遠慮させてもらおうと思う。とりあえず仮名を花とでもしておこう。


 三人とも小、中と違う学校であったにも関わらず、あまりにも濃い青春をこのメンバーで過ごしてきたため、小学校時代からの出来事を事細ことこまかに書いていくとまたもやハリーポ○ターシリーズ一冊分の文字数を超えてしまう。仕方がないので大きな出来事を幾つかだけ紹介していく。衝撃を受けていただきやすいように箇条書きで。


・小学三年生のとき、マ○オカートをプレイ中に全員がヒートアップした結果、和の家の壁に穴が開く(和のお父さんに激怒される)


・小学五年生のときに和のお父さんに連れて行ってもらった遊園地の、特に何もない場所で僕以外の二人が骨折する(和のお父さんに搬送される)


・小学六年生のときに僕が海で溺れかけたのを助けようとした花の方が溺れる(和のお父さんに救出される)


・中学一年生のとき花に初めてできた彼氏がクソ野郎だったので僕と和が川に落とす(和のお父さんに爆笑される)


・中学三年生のとき何もかもが嫌になり三人で無断で大阪旅行、そこで一泊する(和と花の両親はそれぞれ夫婦で外出していたため気づかれず)(多分これを読んで知るからあとから電話がかかってくる)


 こんなところだろうか。おもろいやろ。おもろいんよ。


 花に関してはあまりいろいろ書くなと釘を刺されたので控えるが、和はきっとそうは言わないので勝手に書かせてもらう。

 彼は一言で言えば、僕の上位互換である。顔も良くて背も高くて、勉強もかなりできた。加えて僕以上のコミュ力お化けで人望も厚く、話もおもしろい。清々しいほどに良いやつで、本当に、本当にかっこよかった。今だから解るけど、僕は多分ずっと彼のことが好きだったんだと思う。それくらい尊敬できた、素敵な人物だった。


 そんな彼が二年前、亡くなった。中学三年生の最後あたりに発覚した肺癌はいがんは小さいながらも既に数カ所に転移しており、それから半年も経たないうちに、高校一年生の夏に亡くなってしまった。当時の感情は鮮明に覚えているけれど、とても言葉で言い表すことはできない。彼の葬儀は家族葬だったのだけれど、和の両親は当然のように僕と花を参列させてくれて、僕たちは和にしっかりと別れの挨拶をすることができた。けれど、僕たちが失ったものも、彼が遺してくれたものもあまりにも大きすぎて、普段通りに友人と話せるようになるまでには大変な時間が掛かった。


 このくらいにしておこう。暗い話をしてしまい申し訳ない。僕の人生を語るにあたって彼は絶対に欠かせない存在であるため、敢えてこのように書かせてもらった。


 ありきたりな言葉かもしれないけど、人というのは本当にいつ亡くなるのかわからない生き物だ。和の場合は病気で、事前にわかっていたにも関わらず僕たちは計り知れないほどのショックを受けた。

 もしかしたら事故に遭うかもしれない。もしかしたら誰かに殺されるかもしれない。そしてそれはあなたの友人かもしれないし、あなた自身かもしれない。


 人が周りで亡くなったことがない人にはわからないと思うけれど、正直、人が亡くなったときのあの感情というのはあまりにも凄まじすぎて、味わわないに越したことはないと僕は思う。そのためにも、周りの友人のことをよく見ていてほしいと思うし、もしも亡くなってしまったときに後悔をしないために、普段から感謝と謝罪はしっかりと口に出してほしい。


 言えることは言えるうちに。それが僕の座右の銘である。


 彼からは本当に多くのものを貰ったし、多くのことを学んだ。僕の半分は彼だと言っても過言ではない。そんな人物の話をこの六章では書かせてもらった。最後まで読んでくれて、彼に触れてくれて本当にありがとう。

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