1番、は一つじゃない

CHOPI

1番、は一つじゃない

 「うっわ、アンタのそう言うところ、マジで嫌いだわ」

 「……相変わらず酷くない?」

 「『そんなところも愛してる♡』なんて言ってほしいの?」

 「あ、無いわ。それは無い。悪かった」

 「でしょ。知ってた」

 コイツと私。お互いになんて表現するか迷う。クラスメイトには『仲いいよね』なんて揶揄されるけど、それは真理のようで真理じゃない。確かに仲は悪くはない。だけど仲良しこよし、ってわけでもない。いつだって言葉を選ばない、本音をとりあえずぶつけられる関係。

 

 「おまえ、今のところ、こうだろ」

 「えー、難しい……」

 「あと姿勢、もっとこうしないと」

 「うわ、きつ!!」

 高校入学からの付き合いだから、幼馴染ってわけじゃない。クラスも違うし、強いて言うならたまたま部活が同じだった。それだけ。でもそれですら向こうは経験者、私は初心者だから、部活の話をしたって教えてもらう場面の方が多い。


 「なー、腹減らね?」

 「さすがに空いたー」

 「コンビニ行かん?」

 「いいけど私、金欠ー」

 「は?オレもそこまで持ってねぇよ」

 「よし、じゃ、割り勘でからあげクン」

 「またかよ……」

 部活後の帰り道はどうしたってお腹すくのが鉄板で。でもお互い部活優先でバイトはしていないからお小遣いなんて限られていて。仕方なく折半で安く済ませる。でも『はい、肉まん半分こ!』なんてマンガの世界の話だけ。実際はチョコスティックパンとか、からあげくんとか。で、それの奪い合い。


 「あ、今日例のマンガ、新刊の発売日じゃん」

 「え、マジか。オレ少し居残り連したかったんだけど」

 「えー、知らないよー……。とりま、終わったらLINEして、先片付けしとく」

 「りょー」

 途中まで被る帰り道。興味のあるマンガが一緒で、新刊発売日には帰り道にある本屋へ一緒に行く。お互いマンガだけじゃなく、そこそこ小説や新書、趣味の雑誌も読むから話題には事欠かない。

 


 部活での出会いで、友達よりもう少し近い。そんなアイツに冗談でも言えない言葉が一つだけあった。



 「あの子と付き合い始めたんでしょ。チロルチョコ山盛りであげる」

 「うわなにそれ、てかバレてんの」

 「え、餞別。バレてるも何も、あの子結構マウント凄い」

 「あー、えー……」

 ……嘘をついた。マウント、は嘘じゃないけど。それ以上に、もともとアンタの傍にいたんだ。近くにいれば、嫌でも気づくよ。

 アンタの彼女はいい子。きっと、彼女のマウントは無意識のもの。だからそれは別にどうでもよかった。問題は私。

 「――……別に、彼女だけが傍にいられるポジションじゃない」

 「ん?なんか言った?」

 「いや、独り言。気にしないで」


 冗談でも『好き』なんて言えない。私のアンタに対する『好き』って感情は認めない。それを認めたら、私たちのこの不安定な、でも安定的な関係を壊すことを意味するのだから。感情を認めない代償は、欲しがらない限り続く、ほんの少し物足りない確かな幸せ。


 薄暗くて汚い感情。でもね、それが私の答え。アンタは知らなくていい、その笑顔が近くで見られる、それだけのことで私は満たされるんだから。

 「やっぱりアンタの事、嫌い」

 「はいはい、知ってるー」


――言い続けたら、本当に『嫌い』になれる日は、来るんだろうか。

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