第63話「攻防」
〈からくり〉用の銃とは違う炸裂音が轟いた時、シマダ、オシロ、チヨの三人は一斉に足を止めた。
「なんでぇ、一体!?」
「まさか、まだ新手が!?」
「——いや、そうでもないらしい」
三人は今、初めてこの村に来た時の道筋を逆に辿っているところだった。頂点に行き着いたところに〈
〈剛力〉はリタに任せておけば問題ないだろう。
守りはゴロウとタイラ、そしてワカが務めてくれているはず。
斬り漏らした敵がいたとしても、キュウが処理してくれるはず——
そうと信じる外ない。
己のやるべきことは村を守り、〈虚狼団〉を退けること。
しかし、嫌な予感がする。どこかで道筋を誤ったかのような、異物を呑み込んでしまったかのような、得体の知れない感覚。先ほどの炸裂音で肌が粟立ち、なぜかワカの顔が脳裏をかすめた。
「おい、シマダさんよ! どうしたんでぇ!?」
チヨに怒鳴られ、我に返る。己の不覚に一瞬唇を噛み、「なんでもない」と言い返した。
林道を駆け抜けようとした矢先、遠くから火花が弾けたのを見た。「散れッ!」ととっさに言い放ち——シマダら三人は両脇の木々の隙間に飛び込んだ。複数の銃弾が今までにいた空間を通過し、地面をえぐり飛ばす。
「くそったれ! まだいたのか!?」
反対側にいるチヨの罵声が響く中——またしても、銃弾が襲いかかる。狙いをシマダたちのいる場所に捉えたらしく、木々をまとめて吹き飛ばし、無数の葉が虚空にばぁっと広がった。
「先生、これでは近づけません……!」
「慌てるな、オシロ。弾込めには時間がかかる。その隙間を縫って、少しずつ近づいていくしかない」
そう言った矢先、銃弾がシマダの横をかすめた。狙いはほとんど正確で、シマダの身を隠している木が半分以上えぐれ、そのまま倒れた。オシロがとっさに〈
「オシロ……!」
「ここであなたに死なれるわけにはいかないのですッ!」
苛烈といえるオシロの叫び。それはシマダを黙らせることに成功した。
やがて——銃声が止んだ。しかし風の音に混じって、弾を込める音が聞こえる。やたらめったら撃ってあぶり出すというやり方もなくはないが、無駄撃ちを控えている、ということも考えられる。
「どうする、シマダさんよ?」
声を低くしてチヨが訊ねる。うかつに飛び出せば蜂の巣にされるだろうということは、彼女にも見当がついているようだ。こうして隠れているだけではらちが明かないばかりか、敵に態勢を立て直す時間を与えてしまうことになる。
「私が出る」
「——先生ッ!?」
「お主らは後でついて来い。〈からくり〉の銃弾はすべて私が斬り落とす」
「……へっ、大した自信じゃねえか」
「先生、盾になるならばわたしが——」
「ならん!」
シマダの一喝に、オシロは息を呑んだ。
「盾になるなどと言うな。お主はまだ若いだろう」
「わ、若さなどこの際、関係ないでしょうッ!? わたしは侍です! 侍として生きる以上、命を懸ける覚悟はとうに出来ています!」
「……オシロ」
怒鳴り返されることを覚悟していたのか、急に声を落としたシマダにオシロは鼻白む。〈真〉の手を押しのけ、シマダは振り返った。
「お前には、姉と対峙するという役割と願いとがある」
「……!」
「ここで朽ちさせるわけにはいかん。……わかってくれ」
シマダを庇っていた〈真〉の手が、ゆっくりと離れていく。「すまんな」とそれだけ言い、「チヨ! 聞いた通りだ!」と檄を飛ばす。
「私が道を開く! その後は——」
「それならば、
ぎょっと、村の方を振り返ると——二機の〈からくり〉が地面を滑ってくるところだった。前は盾を前面に突き出したワカの〈地走〉が、そして後ろにはゴロウの〈
「ワカ、ゴロウ! なにゆえ——」
「説明は後よ! ——ワカ、見えるな!?」
「うん」
〈地走〉の六枚の盾が、操縦席ごと覆わんと一列に広がる。さながら壁が突進していくようなものだ。追走している〈巫山戯〉は盾の隙間から、二丁の銃を〈地走〉の肩に載せていた。
遠く、火花が散った。
無数の弾丸が〈地走〉を貫かんとして——そのことごとくが、弾かれ、叩き落される。〈地走〉と〈巫山戯〉とがシマダたちのいる地点を走り抜けた時、シマダの目にわずかに信じがたいものが映った。
ワカはただ単に、盾を並べただけではない。六枚の盾の角度を微妙に変えている。真正面から銃弾を受けるのではなく、傾斜をつけた盾で流す。ワカが改修された〈地走〉を操るのはこれが最初だから、すでに彼はもう扱いを心得ていることになる。
「末恐ろしいな……」
シマダがそうつぶやいた矢先、〈巫山戯〉が発砲した。間を置かずにして金属同士がかち合う音がし——「よし!」とゴロウが確信を込めて声を発した。
「シマダ殿、オシロ、チヨ、ついてこい!
「待て、ゴロウ!」
ひと足早く、ワカとゴロウの行く先を辿る。背後からオシロとチヨが追いかけてくる気配を感じつつ、シマダは叫んだ。
「ゴロウ、タイラはどうしたッ!?」
「……!」
「答えないか!」
「……死んだ。それで、十分であろう」
シマダは目を見開き——ぐっと息を呑み込んでから、「そうか」と口にした。後ろにいるオシロもチヨも、ゴロウの言葉は聞いていただろう。「くそったれ……!」と毒づくチヨの表情が、手に取って見えるようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます