第10話「〈からくり殺し〉のシマダ」
ワカ、イヅ、カシラは長身の女性の後をつけて、〈町〉の出口から伸びる道をぞろぞろと歩いていた。さほど離れていないため、〈
ごくり、と唾を呑んでから意を決したようにカシラが息を吐く。
「よっし、俺が声をかけてみる」
「しっかりね、カシラ」
カシラが小走りで近づこうとしたその時——突風のごとく、ワカたちの横を〈からくり〉が走り抜けた。全身の装甲は白く、腰には刀が二振り差してある。頭部には男子の
「先ほどの捕り物、お見それ致しました! 私はオシロと申す者。是非、あなた様の弟子になりたく存じます!」
「…………」
女性は困ったように口をへの字に曲げていた。さらに眉をしかめたのは、道の端からまたしても、〈からくり〉が現れたからである。
装甲には泥による汚れと無数のひび割れが目立ち、背部の何本もの
その乗り手の目はぎらついていた。さらしを巻いた胸がはちきれんばかりに、くすんだ着物の前を押し上げている。枝毛まみれの長髪を無理やりひとくくりにしていて、おおよそ品性とはかけ離れた
何かしら言葉を発する様子もないので、女性はひとつ息をついてから、「——何か、用か?」
「おめぇ、〈からくり殺し〉のシマダだな?」
「……ふむ、久々に聞いた名だ」
「聞いたことがあるぜ。〈からくり〉だらけの戦場で、刀一本で駆け抜けたってな。噂話に過ぎねぇと思っていたが、本当だったとはな」
「昔の話だ。今はしがない流れ者だ」
そう言って、歩き出そうとしたところで——「待って下さい!」
「先生、まだ返答を頂いておりません! どうか、どうか私を弟子にしてくれませんか!?」
「ん……オシロといったな?」
「はい!」
「私は先生などと呼ばれるには
「っ……そ、それは……」
「この世はしょせん男の世界よ。それがわからぬ歳と、身分でもなかろうに」
「……!」
絶句したオシロとの間——シマダの前に〈からくり〉が割って入った。
「おうおう、気に入らねぇなぁ。おめぇのその、何もかも見透かしたような顔よ。それで侍のつもりか、ああ?」
「ならば、聞こう。お主は侍か?」
「——あ、当たり前だろ! この〈からくり〉と、俺様の刀が見えねぇってのか!」
〈からくり〉が背中から大刀を引き抜き、大げさに掲げる。あまりに作法に欠けた振る舞いと見たのか、オシロがシマダを庇うように立ち回った。
「お主、さっきから無礼であろう! 〈からくり〉から降りもせずに、やたらめったらと声を上げるは笑止千万! そうやって
「んだと、こら!
「なッ!? ——き、貴様にそんなことを言われる筋合いはない!」
「……付き合っておれんな」
シマダはくるりと振り返り、元来た道を辿るように歩き出した。
とっさにオシロが、「先生、どちらへ!?」
「今日は客人が多そうなのでな。腰を据えられる場所でも探しに行く」
シマダがこちらに歩いてくるのを見、イヅとカシラは
そしてシマダもまた、すれ違う直前にワカの目を見返していた。お互い、まるで何かを確かめ合うように。
「待って下さい、先生! 先生ー!」
〈からくり〉に乗り込んだオシロが追いかけていく。
「……ふん」
豪胆の女性は街道から外れ、土手に派手な音を立てて座り込んだ。「ふん!」と面白くなさそうに、〈からくり〉の操縦席で頬杖をついている。
しばらくしてカシラが、「おっと、いけねぇ」と頭を打つ。
「どうやらあの背の高い人、〈からくり〉を持っていねぇみたいだな」
「そのようね」
「だが、〈からくり殺し〉なんちゅう異名を持っているような
「そんな簡単にいくとは思えないけど……ねぇ、ワカはどう思う?」
「あの人はいい人だよ」
さらっと言い切ったので、イヅはつい、「え?」と聞き返した。
「さっきの〈からくり〉で暴れてた人、殺そうと思えば殺せた。でもあの人は殺さなかった。赤ちゃんも助けた。いい人だよ」
ワカにしては流暢な喋り方で——イヅはいったん口をつぐみ、それからまた言葉を発した。
「……ワカ、それは買いかぶりってものよ。たまたまうまくいっただけかもしれないじゃない」
「そうかなぁ」
「そうよ。……あと、あんた。『殺す』なんて言葉使わないで」
「なんで?」
「なんででもよ」
やけに強調するイヅに、ワカはゆっくりと首を傾げた。
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