第7話 ハッピーエンド

 「まずはありがとう。私のことそんなふうに思ってくれて。

 私はね、ハカレ君のそういうところ良いなと思うよ。こんな化け物を否定せず、受け入れてくれて、昼ご飯持ってきてくれてるし、守りたいって言ってくれる。

 私はハカレ君のこととっても素敵な男性だと思うよ」

 ハカレも「そう思ってくれてありがとう」と言った。

 ハカレは、上体を起こした。そして「ねぇ、今は好きな人いないよね?」と尋ねる。姫は目線を逸らしながら頷いた。それを見て、ハカレはそっと姫の手を握った。姫は小さくビックリするも、嬉しそうに口がにやけた。

 「良かったら、俺と」

 それを遮るように「待って!まだちょっと。眠たいから、明日にしよ」と姫。

 ハカレは姫の手を離した。そして「うん、俺も眠たくなってきたよ。じゃあ、また明日ね」と言って、部屋を出ていった。

 

 「やあ」

 姫は正座して、ハカレを待っていた。

 「ありがとう〜。今日の昼ごはんは何だろう?」

「カレーだよ。俺の分も持ってきたんだ。一緒に食べよっ」

 ハカレは二つのカレーライスを机に並べると、姫が陣取った隣に腰を下ろした。姫はプラスチックのスプーンを取り出し、それでルーとライスをかき混ぜながらハカレに目を向けた。

 「ハカレ君って好きな人いるの?」 

 ハカレはビニール袋をいじっていた手を止め、姫に目配せした。

 「好きな人?う〜ん」

 ハカレは姫の瞳に自ら吸い込まれにいく。

 「俺の好きな人は美優ちゃんだよ。だって可愛いもん、仕草とかが」

 姫の毛が逆立った。耳をピンと立てて、目が右から左へ何度も泳ぐ。

 「私もハカレ君のこといいなって思ってるけど?」 姫はブツブツとそう返す。

 「ありがとう。じゃあ、俺たち付き合う?」

「うん…」

 気恥ずかしそうに2人は見つめ合う。時間が川のように流れるなかで、お互いの愛の形を探り合った。

「あ、やべっ!そろそろ時間だ。俺戻らなきゃ」

 ハカレの一言で、2人は無言のままスプーンを動かし始めた。一足先に完食したハカレは立ち上がると、「また今晩も来るから起きて待っててね」と言い残してその場を離れた。


 姫は寝たふりをしていた。

 ハカレは寝ていると思い、起こさないようにそっと横に座った。そして、彼女の顔の毛を優しく撫でた。

 彼女の顔から人間の美人顔がまた浮き出てきた。ハカレは胸がドキッとして、目を逸らした。

 姫がなかなか起きないので、ハカレはその場から離れて彼女の日記を探し始めた。違和感を感じた姫は、寝返りをうつ振りをしてハカレの様子を探った。

 「ちょちょちょ、何してんのよ!」

 姫は慌てて飛び上がった。棚に手を伸ばしていたハカレは、その手を止め、彼女に向き直った。

 「やっと起きた!もう起きててって言ったじゃんか〜」

 そう言われると何も言い返せなくて、姫は「うん…。ごめん」と謝罪文を述べた。

 

 2人は昨日と同じように、横に並んで寝転び、天井に開いた穴から星空を眺めた。違うのは、今日は姫からハカレの手を握ったことだ。ハカレは昨日の姫と同じ反応を示すも、彼女の顔を見ながら自身の顔を寄せた。

 姫もハカレに顔を向け、笑ってみせる。その油断した瞬間に、ハカレは彼女の唇に自分の唇を重ねた。

 唇を離すと、彼女はとろんとした目つきに変わっていた。次第に彼女は嬉しそうな顔つきになり、唇をさすってまた天井を見上げた。

 その瞬間、空から緑の光線が降ってきて、それが穴を通り姫の体に衝突した。光線は衝突と同時に光の粒となって周囲に弾けとび、それらが姫の全身を覆った。

 ハカレの跳ね起きて、姫を救おうと必死に暗中模索を繰り広げる。

 しかし、そう長くない時間で、姫を覆う緑色の光は自然消滅をした。

 ハカレは目を見張った。

 彼の前方には狐ではなく普通の女の子が寝ている。しかも彼女の顔をよく見ると、狐顔から何度か浮き出ていた美人顔とそっくりだ。

 ハカレが茫然としていると、美優はむくりと体を起こした。

 「やばいやばい、何が起こったの?」

 彼女は事態が読み込めていないみたいだ。ハカレは彼女に「自分の手を見てみな」と言葉を投げかけると、彼女はやっと理解できたみたいで

 「やったやった〜。人間に戻ってるじゃん!ハカレ君やったよ〜!!」とはしゃいだ。

 目一杯に喜ぶ彼女を見て、ハカレも顔がつい緩んでしまう。それと同時に彼女の美しい顔立ちに見惚れてしまった。

 「なによ私の顔ばっか見て。思ったより可愛いでしょ?よく周りから美人美人って言われるんだから」

 美優がニヤリとする。ハカレは笑い返してこう言った。

 「いや、君の可愛さは変わらなかったよ。狐だろうとなんだろうと君は可愛いよ」

 「カッコつけないで…」


 ハカレは周囲に騒めく音に目を覚ました。布団から抜け出て、早足で広場に出た。

 出るとそこには見たことない芝生が広がっていた。しかし、それより眼前の地明赤士大仏に目がいく。赤テントはちょうど高台になっているところに設置されていたようで、大仏の腰くらいの高さはあった。

 「あちゃ〜、夢を見ているみたいだ。一体全体何が起こったんだ?」と誰かが言ってるのが聞こえた。

 ハカレは下を眺められるところまで行き、昨日まで瓦礫だらけだった町を覗いた。するとそこには綺麗な町並みが広がっていた。

 また誰かの話し声が聞こえてきた。「死んだ人も生き返ってるってよ。隣のよしこ叔母さん家の居間で寝ているところを旦那さんが見つけたらしいぜ」

 美優はどこだ、美優はどこだ。

 ハカレは顔をキョロキョロさせた。彼女が広場にいないことを確認すると、町に降りれる階段を下る。

 「ハカレ君、待って!!」

 後ろの方からとんでもなく大きな声が響いてきた。ハカレが振り返ると、階段の上には美優が飛び跳ねながら大きく手を振っていた。

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

瓦礫の古城 @konohahlovlj

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る