第6話 星空の下で、ハカレは愛を伝える。

 美優は目を覚ました。どうやら地明赤士と過ごした日々を夢で回想していたらしい。

 ハカレが去ってからもうすでに4日が経過していた。

 彼女は、最近誰とも話していないな、と思い、一人で「あー」と声を出してみた。するとまた下の方で物音がして、彼女の体は静止させられた。

 男達の話し声聞こえる。

 「ここ来週に壊そうと思うんだけど」「来週ですか…」

 どうやら残った地明赤士館に、また取り壊しの作業が入るらしい。

 遂に、美優はこの生活が嫌になって、頭を掻きむしった。人目をはばかり逃げ続ける生活がこれからも続くと思うと、自然と目から涙が溢れ出した。

 男達が去っていくと、彼女は床に寝転んで現実逃避した。嫌なことを考えないようにと、好きな人のことを考える。地明赤士と過ごした日々を頭に浮かべた。すると、それを邪魔するかのようにハカレとの思い出が陣取りにくる。彼女はダメダメと思い、ハカレとの思い出を除こうするも、数秒経ったらまたハカレが現れた。

 彼女は現実逃避作戦をやめた。自分で、現実逃避が苦手になったわね、と思った。

 「ただいま」

 突然、ハカレの声がした。

 それに対して、ビックリした美優は飛び上がった。慌てて部屋の出口を振り返る。目の前にハカレが立っていた。

 「慌てすぎだろ」彼はそう言って笑う。「またボランティアの応募をしたんだ。思ったより、早く帰って来れてよかった」

 美優はハカレに抱きついた。ハカレは少しよろけるも、優しく美優の背中に手をまわした。

 

 その日の夜、ハカレは再び古城を訪れた。

 部屋に入ると、姫が嬉しそうに出迎えてくれた。彼女はハカレに寄りかかり、「どんなお話しする?」とウキウキした様子だ。

 ハカレは「何でもいいよ。美優と話せたら」と返した。姫はそれを聞いて露骨に照れた。

 「何でもって…。恋愛話とか?」姫は顔を赤らめた。

 「地明さんとの思い出、気になるな〜」

 「う〜ん。私はハカレ君の恋愛が聴きたいな」

 ハカレは少し考える仕草をとってから、親友に好きな人が奪われた話をした。姫はそれを聞いて、共感の言葉を投げかけた。

 ハカレの話が済むと、彼は時計を確認して「そろそろ戻るわ」と言い、赤テントに戻ろうとする。姫は「今日も朝までいなよ」と言うと、彼は「明日も仕事あるから」と返した。

 ハカレが去った後、姫はずっとハカレのことが頭の中から離れなかった。どうしてわざわざまた会いに来てくれたのだろうと考えた。彼との出会いに運命を感じ始めた。気がつくと、ハカレと地明赤士が姫の中で逆転していた。ハカレを思い出すのに、地明が邪魔に感じた。


 また昼に、ハカレは支給を届けにやって来た。

 足音を聞きつけてか、姫は部屋の外でハカレを出迎えた。嬉しそうな彼女の目がハカレの目に映る。彼女はハカレの何も持っていない方の手を握り、部屋の中に引っ張った。

 「私、空の女神には勝てないと思うの」

 突然の発言に、ハカレは言葉を失った。

 「地明赤士さんのことはもういいかなって」

 「なんで?こんな姿になるまで好きだったのに」

 「ねぇ、そんなことより私のことどう思う?」

 「え?急だな。どうって、別になんともかな?」

 姫から順に2人は床に座った。

 「わざわざ会いに来てくれたのに?」

 「心配だから、来たんだよ。一人で寂しく生きてるだろうなって」

 姫はサンドウィッチを開封した。手袋を脱いで、パンを指で挟んで口に運ぶ。

 姫が食事に専念し始めたため、2人の会話は完全に途切れた。ハカレはじっと姫の食事シーンを眺めていたが、会話できない歯痒さに我慢できなくなり、腕時計を確認して「そろそろ戻るね」と言って退室していった。

 

 その日の夜は珍しく古城から光が溢れていなかった。ハカレは不思議に思いつつも、いつものように小型懐中電灯で姫の部屋を訪れた。

 寝ているのかな、と思い、小さな声で「こんばんは〜」とこぼれ出るように言いいながら入室した。

 部屋の至る所にライトの標準を当てる。姫が床に寝転んでいるのが見えた。

 ハカレは「何してるの?」と彼女に声をかける。すると、彼女は「星見てるのー」と床に対して垂直方向に指を伸ばした。

 ハカレは指が指し示す方を見ると、天井に穴が開いていた。

 「こんな穴あったっけ?」

 「今日崩れたんだよ」

 星を見るのに夢中になっている姫をしばらく見ていたハカレは、自分も真似したくなって彼女の横に寝転んでみた。すると、無数の光の点がハカレの目に入ってきた。

 「きれい」と思わず感嘆の声を漏らす。

 姫は「でしょー?」と自慢気に言った。

 「夏の大三角形どれだろう」とハカレは独り言のように言う。

 「これだけ沢山あるとわからないわよ」と答えつつも、姫は夏の大三角形を探し始めた。

 星探しに夢中になってある姫の顔を、ハカレはこっそり横から眺めてみた。仕草のせいなのだろうか、狐顔から人間の女の子の顔が浮かんでくる。しかも、それがとびっきり美人顔だ。

 ハカレは顔を赤らめて、こう訊いた。

 「美優はあの神様のことはどうでもいいんだよね?」

姫はハカレの様子を窺うように「う、うん。もうそこまで好きじゃないかな?」と応えた。

 「昼間の時、私のことどう思うって言ってたじゃんか?俺は美優のこと守ってあげたいと思うし、1人の男をボロボロになるまで愛し続けられるって凄いなって思う。

 美優はさ、逆に俺のことどう思っているの?」

 


 

 

 


 

 

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