第3話 姫の正体は、なんと!!

 4日目の昼、ハカレはお昼ご飯をまた古城に届けることにした。

 自分用の支給は早めに取りに行き、姫用のものは終了ギリギリに取りに行った。

 昨日と同じように早足で古城へ向かい、彼女の部屋を訪れる。今日は、彼女の昼寝姿が拝めた。

 仰向けに寝ながら、相変わらず全身服で覆われている。

 ハカレは、ふと脳裏に良からぬことがよぎった。

 顔くらい拝んでも良いのではないか。いやしかし、服を覆っているということはなんらかの理由があるはず。やっぱりやめた方が良いのかも。

 ハカレは、目元の穴から顔を覗くことにした。それくらいは大丈夫だろうと思ったからだ。

 穴の中は、暗くてよく見えない。目を細めて注意深く覗くと、不思議な模様や凹凸が見えた。なんだか、内側にも布を何重にもしているみたいだ。

 ハカレは、腕時計を確認して赤テントに戻ることにした。昼ご飯のサンドウィッチは、彼女の顔の近くに置いてあげた。

 部屋を出る直前、ハカレはこっそり「また明日も届けるからね」と小さく呟いた。一人で手を振り、急いで戻った。


 夕食を終えた後、ハカレは広場をぷらぷらしていた。その間、チラチラと古城が立ってている方向に顔を向ける。まだ太陽が沈みかけで空はうっすら明るいため、古城のシルエットは確認できた。

 今頃、姫は何しているのだろうかと頭を巡らせながら、一人でニヤつく。

 そんな時、いきなり相沢さんと彼女の友達の安藤に話しかけられた。

 「何考えているんですか?」

 相沢さんの笑顔がドアップされて、ハカレは少し照れた。

 「えっとね、ちょっと思い出し笑いてきな」

 「えー?あの崩れずに残った建物のことじゃないんですかー?」

「今日も、昼ご飯持ってあそこに行ってたじゃないですか」

 彼女達のダブルパンチに、ハカレは少し怯んだ。

 なんて説明しようか。俺も彼女のことよく知らないし。

 「うんとね。なんだろうな〜」

 「誰かいるんでしょ?あそこ、幽霊が出るって噂があるんですよ!」

 「幽霊?!」ハカレは、驚いて目を見開いた。

 「そうそう。なんかね、あそこ壊そうとしたら、誰かが怪我するって。それでずっと放置されているらしい」

「謎の生き物が出るって噂があるらしいです!」

 「そ、そうなんだ。気をつけるね」

 ハカレが考え事を始める目つきになると、2人の女の子達は会釈してその場から離れていった。

 ハカレは、お昼の目を覗いた時のことを思い出した。不思議な模様や凹凸、姫はもしかしたら化け物かもしれない、とハカレは思った。

 

 5日目の昼、ハカレは勇気を振り絞ってまた昼ご飯を届けに行った。

 いつもより緊張で胸が苦しい。古城に着くと、心臓に落ち着け落ち着け、と唱えながら姫の部屋へ向かった。

 部屋の前に着くと、小さな声で「ごめんください」と呟いてみた。当然のことながら、返事はなかった。

 最後にもう一度、落ち着け、と唱えると頭から慎重に入室した。

 姫はまた部屋の隅で小さくなっていた。

 ハカレは愛想良くしようと作り笑いを浮かべながら、「ご飯いる?」と彼女に届くか届かないかくらいの小声でささやいた。

 姫は振り返る。目が少し笑った。

 「いつもありがとう」と小さな声の返事が返ってきた。

 姫はハカレに近づき、ハカレの持っている親子丼のカップに手を触れた。そのままカップを自身の懐に持って行き、手ぶらの方を握り拳にし、ぶりっ子のポーズをとった。

 「ありがとね」

 そう言いながら、彼女は首を傾けて可愛い仕草をとる。

 ハカレは、もう一度作り笑いを浮べた。

 化け物?

 ハカレの頭の中にあるステレオタイプの化け物と彼女が一致しない。彼女は、どう考えてもどこにでもいる女の子のように感じられた。

 「あの!あの、どうして赤テントの方に来ないんですか?ここにいる理由が分からないです」

 ハカレは、勇気を振り絞ってそう訊いた。

 姫は手を下に降ろし、目元の笑顔を消した。

 「それは私が呪われた女だからです」

彼女は、きっぱりそう言う。

 「呪われた?そんな。普通の女の子じゃん」

「昔はそうだったけど、今は違うの」

 「どういうこと?目もぱっちり二重だし、声もそうだし、仕草だって普通じゃない」

「ん?昨日、目の穴覗いたの?」

 ハカレは、あっとなって口元を抑えた。

 「そうなんだ。もう知ってるのね。私は、普通の人間じゃないの。なんなら、顔全部見たい?」

 ハカレは、小刻みに頷いた。

 「分かった。見せてあげるわ」

 姫は、頭に乗せてあるゴム製の帽子を取った。その時、ぴょこんと動物の耳が上に立ち上がる。次に、顔まわりを覆う布を剥がした。

 すると、狐の顔が現れた。彼女は帽子を床に落として、顔まわりの布を下に垂らす。

 狐が喋りはじめた。

 「これが私の顔よ。もしかしたら、気づいていたかもしれないけど。

 何?そんな顔で見ないで。はぁ、見せない方がよかったかも」

 ハカレは、唖然とした様子で口は真実の口のように大きく開けている。その状態で、数十秒、時間が止っていた。

 「おいっ!誰にも言うなよ!!」

 姫の大声で、ハカレはハッとなり、ようやく動き出した。

 「なんで?そんな体なの?普通に人間語喋れるし」

 ハカレは、おどおどしながらそう訊いた。

 「私はもともと人間なのよ。それが突然こんな姿になったわけ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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