第2話 古城の姫とは

 「ひゃ!?女の子?ここで何してるの?」

 「いいから早く立ち去りなさい!!」

 「待って、どうして君だけ。皆んな、テントの方に、、、」

覆いかぶさるように「早く!早く!」と彼女は連呼した。

 ハカレは腰を上げて、会釈をし、その部屋から出る。その頃には最初は強気だった彼女の声が涙混じりになっていた。

 ハカレは、慎重な足取りで建物の外に出て、走って赤テントまで戻った。休憩時間はとっくに過ぎていて、グループリーダーのおばちゃんに彼はこっぴどく叱られることとなる。

 3日目、作業の幅が広がり、市の瓦礫処理にも手を出すようになった。

 ハカレは、昨日行った瓦礫の古城(まるでそう見えるので)にまた行けるのではないかと胸を膨らませていたが、今日の作業は古城の反対側で行われた。ハカレのやる気は、それだけで一気に削がれた。

 ボランティアのやる事は、小さな瓦礫というかほとんど石ころみたいな小さなものを特定の位置に運ぶことだった。船の甲板のような大きな瓦礫は、自衛官や特定の業者が運搬するものらしい。

 たまに、ボランティアの人も自衛官らの作業を手伝うこともある。しかし、それは身体的にも精神的にもかなりリスキーな行為であるため、通常は行われない。

 それは午前中の出来事である。多くのガラクタの中から、胴体から右手と右足がちぎれかけの死体が発見された。

 死体を目の当たりにした1人の自衛官が声を上げて、後ろに待機していた担架係にそれが伝わる。ハカレ含めボランティアの人達全員は、言葉を失った。ただ呆然と自衛官が集まっている方を見つめていた。

 昼食は、喉を通らなかった。カレーライスを半分お腹の中に入れてしまうと、十分のように感じたため、ハカレは残すことにした。

 ハカレが周囲を見渡すと、ハカレと同じ班の人達も似たような感じだった。

 ハカレは見渡すと同時に、1人の女の子に目が釘付けになった。彼女は、同じグループの子で、支給カウンター近くで上品にカレーライスを口に運んでいる。

 同い年くらいの彼女は、ミドルヘアーを頭の後ろで一つにまとめポニーテールを作っている。特別可愛くはないが、くしゃっとした笑顔がハカレの心を惹いた。

 胸元に留めてある名札から、名前はもうすでに知っている。彼女の名前は相沢だ。相沢さんは、友達と思しき女の子と2人で常に行動していた。

 相沢さんとのムフフな妄想をしていたハカレだが、彼女の奥にある支給カウンターで、昨日出会った古城の女の子が順番待ちしている様子を視界にいれた。

 古城の姫(そう思えるので)は、支給のおばちゃんに怪しげな眼差しを向けられながらも、ペコペコしてカレーライスを受け取った。そのまま、足早に古城に向かって歩き出す。 

 そんな彼女を怪しんだ1人の赤テントスタッフが彼女を引き止めた。

 「ちょっと君。カレーはここで食べなさい」

 姫は、無言で肩を掴んでいるスタッフの手を振りほどき、歩みを進めようとした。

 「ちょちょちょっ。君、名前は?服で全身覆ってて怪しいな。話し聞きたいから、一旦事務室まで来てもらおうか」

 スタッフの手が強引になった。彼は姫の顔周りの布を脱がそうと引っ張る。彼女は、抵抗するうちにカレーライスを地面に落としてしまった。

 「大丈夫です。やめて下さい!」

 彼女の声で周囲の人達が、一斉に彼らに目を向けた。

 彼女は、スタッフに蹴りを入れた。しかし、貧弱な彼女の足では到底スタッフを失意させることは出来ない。

 布がビリリと音を鳴らしたその瞬間、ハカレがスタッフに飛びかかり、握っていた布から手を離させた。

 「な、なんだね?君は。仕事の邪魔をしないでくれるか?」

 「嫌がってるなら、辞めましょうよ!」

 ハカレの怒鳴り声で、スタッフは黙り込んだ。スタッフがしょんぼりしている間、姫は風のようにその場から消え、古城に戻っていった。

 ハカレもその場から立ち去り、赤テントの回りを一周して食事を取っていた場所に戻ってきた。途中で放り出したカレーの容器は、誰かに片付けられていた。

 広場には、食事を取っている人が少なくなり、皆思い思いに誰かとお喋りしている。支給カウンターから、「カレーライスをまだ受け取っていない人は、至急コチラへお越しください」という声が聞こえてきた。ハカレは、姫の分にとカウンターに並び、カレーライスを受け取った。

 急いで、古城にカレーライスを届ける。

 慎重に階段を上がり、昨日来た部屋を訪れた。

 姫は、部屋の隅に小さくなっていた。

 ハカレの「カレーライス、、いる?」の声にぴくりと反応した。しかし、ハカレの方に一瞬目をやるだけで、首から下は動かさない。 

 ハカレは、腕時計を何度も見ながら数分待ってが、彼女の反応がないので、カレーを彼女の側に置いた。

 ハカレは、「俺戻らないと行けないからさ。またね」とだけ言葉を残し、部屋から出た。

 なんとなく自分が居なくなった後の姫の動向が気になるハカレであったが、物陰に隠れて彼女を覗き見しようとしても、一つしかない足音が途中で鳴り止むと妙だと思われるのでやめることにした。

 

 

 

 

 

 

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